※食人しちゃう坂上くん。







 
 同じ部活の女の子を殺した。嫌いだったわけではなくて、むしろ少し気になっていた子だ。彼女は行方不明ということになっているそうだ。今朝のホームルームで知った。でも見つかるはずなんてない。だって彼女はもう僕の栄養分になってしまったのだから。
どうやら僕の愛は食欲に直結しているらしい。いてもたってもいられなくなり、相手のすべてを体内に押し込んでしまいたくなる。どんなに食物を摂取したあとでもこの食欲だけは抑えられないのだ。好きになった人を食べる、この行為に僕は性行為と同じくらいの興奮を覚えた。いやむしろその行為そのものと言ってもいいのかもしれない。


昼休み、購買の自販機で飲み物を買った。食堂の喫食スペースで昼食をとるか広場のベンチに行くか迷う。いつもは教室で仲のいい友達と食べるのだが、今日はその友達が風邪をひいたらしい。教室にいる理由もないので出てきたが特に宛があるわけでもなかった。
「よう、坂上。一人か?」
聞き覚えのある声に振り返る。新堂さんだった。
「新堂さん!こんにちは」
「おう」
「新堂さん、一人なんてめずらしいですね。どうしたんですか?」
「日野は休み。風間はクラスの女子とどっか行った。で、一人で飯かなーってときにお前を見つけたってわけだ」
「なるほど。よかったら一緒に食べませんか?」
「そのつもりで声かけたしな」
新堂さんはニッと笑った。


広場の芝生に腰を下ろした。僕はさっき買ったばかりのジュースにストローを通す。新堂さんは購買で買ったパンの袋を開けながら「そういえば」と切り出した。
「新聞部の女子、行方不明だろ。お前の知ってるやつなんじゃねえ?」
まるでなにかのついでのような口ぶりだ。あまり関心をもっていないことがわかる。確かにそうだ。この学校はいわゆるマンモス校で同じ学年ですら知らない人が大勢いる。ましてや昔から不思議な話の絶えないこの学校で、『行方不明』など生徒に強い関心を抱かせるのは難しい。そのおかげで僕が助かっているのも確かだけれど。

「ああ、そうですね。同じ学年でしたし、知ってる子です」
「ふーん…じゃあ驚いただろ?」
「まあそうですね。でもそこまで親しくもありませんでした」
「新聞部だろ?余計な話に関わっちまったんじゃねえか?ほら、この前のお前みたいに七不思議だとか」
「そうかも、しれないですね」
「まあお前も気をつけろよ?」

違いますよ、新堂さん。彼女は僕の口内から喉を通って僕の養分になったんです。そのときにふ、と気がついた。今、僕はとてもお腹が空いていることに。昼食をとったあとだというのに異様な空腹感を覚えた。あのときの同じような、僕を興奮させる空腹感に。恐る恐る新堂さんを見上げる。ごめんなさい、新堂さん。心の中で形だけの懺悔をし、どこから食べてやろうかと想像をする僕はきっととっくに狂っていたのだ。


愛とカニバリズム
2013.0102


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