相談はココアと共に


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 ロイ・エンフィールドとフラウ・ミンゴレッドは、同時刻、同じ場所で、同じ人物を待っていた。

 デスクにいつの間にか張りつけられていた、チョコを模した形をした付箋に書かれたメモ。「相談したいことがある。暇だったら午後三時、テラスで。」と丸めの文字が書かれていた。はてさて誰が差出人かと考える必要はまるでなかった。チョコが大好きな彼の筆跡は、書類で飽きるほど見ているからだ。そうして午後三時の十分前、書類にひと段落つけたところでロイがテラスに向かうと、フラウと鉢合わせをしたのだった。

「お前もか?」
「あ、フラウもか?」
「おう。何か相談があるって言うから来たんだけどよ、本人いねェんだよな。」

 まだ三時にはなっていないが、彼が時間前に来ないのは珍しい。仕事が立て込んでいるのだろうか…とロイが思い始めた矢先、ブーツの底が床を蹴る音が聞こえた。

「ごめん、ちょっと遅くなった。」

 ティーセットを両手で支え、現れたのはメモを残した張本人であるローマン・アディントン。座ろうよ、と友人たちに声をかけながら、ポットを手に取り三つのマグカップに液体を注ぎ入れた。ふうわりと香るカカオと砂糖の甘い香り。ホットチョコレートだ。ロイとフラウはそれを見つつ、席に腰掛けた。

 ホットチョコレートを注ぎ終わり、マグカップを二人の友人の前に置く。茶菓子として出されたクッキーをつまみながら、ロイは口を開いた。

「で、相談ってなんだよロマン。」

 普段全くと言っていいほど他人に相談を持ちかけることはない目の前の青年を見ながら、ロイは次の言葉を待った。ローマンはしばし言いづらそうに口を濁していたが、やがてそっと口を開く。

「……彼女に振られた。」
「はぁ!?」
「あ"?」

 隣同士に座っていたフラウとロイは、案の定同じような反応をほぼ同じタイミングでしてきた。どちらかと言えば素っ頓狂な声を上げたのはロイの方だった。フラウは付き合いが長いから慣れているのだろう、さして動揺した素振りも見せない。何とはなしに深刻な感じの相談かと思ったら、内容はえらく人間味あふれるものだった。

「え、えー…。」
「…なあに、その反応。予想は出来てたけど…。」
「いや、深刻そうな顔してるからもっととんでもない話かと思った…。」
「俺にとっては深刻なんですー。また何もしてないのに振られたんだもーん。」
「ロマン、テメェ振られんの何回目だ?」
「悲しくなるから数えてないよ。」

 悲しい、という割には真顔で、口を尖らせてローマンはホットチョコレートを啜る。たっぷりのミルクにシナモンをひとふり、それが彼のレシピだ。

「俺が財団入ってからでも結構出来てないか?元カノ、ってやつ…。大丈夫かロマン、いつか昼ドラみたいなのに巻き込まれたりしないか…?考えただけで寒気がするぜあの三角関係!」
「大丈夫じゃない?俺結構丈夫だし。」
「気にすんのはそこじゃねぇだろが。場合によっちゃ痴情の縺れで殺人起きんだぞ。」

 やいやいといつものように賑やかなアフタヌーンティータイム。飲んでいるのはホットチョコレートだからいささか意味合いが違うかもしれないが、これは単に心持ちの問題である気がしないでもない。

「で、相談ってのはそれかよ?」
「ちょっと違う。こうも振られるのって俺の態度が悪いのかなって、色々考えてたんだよ。そうしたら収集つかなくなっちゃって。」
「あぁ、よくあるよな。考えたらどんどん深みにはまっちまうやつ。バイクのカスタムとかも考えだしたら止まんねェし…!」
「うんうん。で、俺が出した結論をちょっと聞いてほしいんだ。」

 ここで一息おいて、ローマンはホットチョコレートに生クリームを浮かべた。そして両腕を組んで話を再開する。

「彼氏が欲しい女の子ってさ、「恋愛してる」って実感が欲しいんだと思うんだよ。だとしたら俺ってものすごい役不足だよね。あとそれか、次の彼氏が見つかるまでのキープってやつ。だから俺はいつも向こうから振られるんじゃないかなって結論が出たよ。これどう?」
「お前とことんまで卑屈な結論出しやがったな。」
「…なぁロマン、貴方今ものすごく悲しいこと言ってる自覚あるか…?」
「あるけどこれが現実だから、しょうがないじゃない?」

 良くも悪くも、俺のライバルは現実的だとロイは心のうちで独り言ちた。あまり高望みはしないし、現状以上のことは材料が揃わなければ求めない。研究限定、かもしれないが。と考えながらホットチョコレートに口をつける。あ、美味い。

「ところでロイは気になってる子とか、いないの?」
「え"っ!?」

 唐突にロマンが自分に話題を振ってくるものだから、飲んでいたホットチョコレートが気管に入りロイは盛大に噎せた。大丈夫?と背中をさすってくるロマンを恨みがましい目で見ると、ごめんよというふうに肩をすくめられた。
 ロイの脳裏に浮かんだのは、彼女の笑顔だった。爽やかで屈託のない、まるで晴れ渡った夏の空のような笑顔。まだ秘めたままの気持ちは、いつ明かせるのやら。

「……。」
「まぁ、せいぜい頑張りたまえよ、恋する少年。少年よ大志を抱け。」
「はぁ!?いや俺何も言ってなっ…ゲホッゲホッ!」
「あーもう動揺しながら飲むから…。」

 再びむせたロイの背中をさすりながら、ロマンが次に目を向けたのはフラウの方だった。

「フラウは彼女いるんだっけ?」
「いねェよ。」
「なんで?フラウいい人なのに。」

 賑やかなアフタヌーンティータイム。時刻はそろそろ、半を示す。


*


塩水ソル子さん宅ロイ・エンフィールドさん
猫田さん宅フラウ・ミンゴレッドさん

お名前出ていないですがロイくんの回想で
びーさん宅ロミー・ブレイズマンさん

お借りしました。
都合が悪い場合パラレルとして扱ってくださいませ。



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