宴ノ会、中途にて


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「それでなー、そのときバイクがな!」
「うんうん。」

 ローマン・アディントンは、まだ一杯すら飲み干していないグラスを片手に、飲み会の渦中にいた。

 隣に座っているライバルのロイは、気持ちよく酔った勢いか心底楽しそうにバイクの話をしていた。それに相槌を打ちながらもう反対側の空いた席を見やる。友人のフラウは酒が進むにつれて不機嫌そうな顔になって―大勢で飲むときの彼の癖だが―そのままどこかへ行ってしまった。大方外に出ているのだろう、あとで様子を見にでも行こう、水でも持って。離れたところには魔法でお酒を製造させられているズリエルと、涼しい顔でがぽがぽお酒を飲むドロップの姿がある。ズリエル、今日は二日酔い状態じゃないのかな。あとドロップ、飲む勢い早すぎるよ。少し向こうでは涙をぽろぽろ流しながら何やら愚痴っているメイジーの姿が見える。彼女は怒り上戸だったっけな、お水足りてるかな?あちらは酔いがかなり回ってきたニールと、エドマンド。水が足りていないところが多すぎる…などと、いつも通りローマンは他人を気にすることに余念がない。
 毎年財団主催で開催される飲み会…というより、忘年会に近い。マクガフィンの調査・研究に明け暮れるBC財団の構成員たちが、羽を伸ばせる少ない機会の一つが、これだ。今回はロゼールの鶴の一声から始まった飲み会は中盤に差し掛かり、かなりの賑わいを見せていた。皆思い思いに休息を取れているのは大変いいと思う。別に自分自身、忘年会を楽しんでいないわけではない。普段話す機会のない人とも話せるし、賑やかな酒の席は嫌いではない。ただ自分の性格が先行して、飲むよりも人を気にしてしまうだけで。

「あれれロマンクン、全然飲んでないんじゃないカナ?」
「飲み会の時はいつもこうだよ。ウルムこそこんなとこで油売ってていいの?」
「ボクはわりと飲んでるからネ。お気になさらずに?」

 背後から首に手を回されたと思ったら、後ろには予想通りの人物。つい癖でウルムの緑色の髪を撫でながら、ロイの話に再び相槌を打った。いつも書類仕事中に背後から構えと言わんばかりに現れるものだから、もはや彼を構うのも条件反射になってしまっている。少しくすぐったそうにこちらに擦り寄ってくる彼に、本当に猫のようだなとぼんやり考えた。いつか対象者に獣の耳を生やすという、暇を持て余した大魔術師の遊びのようなマクガフィンが発見されて、彼に本当に猫の耳と尻尾が生えてしまったことがあったっけ。

「ロマンくーん!!」

 誰の声だか分からない声が、少し向こうから聞こえてくる。背後の彼に断って席を立つと、そちらへ向かった。呼ばれても行かないという選択肢は、ローマン・アディントンの中にはない。そこが、お人好しと言われる所以なのだろうか。向かった先には見慣れない顔ばかりが飲んでいる席があった。ごめん、名前が思い出せない。

「呼んだ?」
「来た来た!アレッタちゃんが寝落ちしそうで。頼むよ!」
「なんで俺が抜擢されたかの理由を参考までに30文字以内で聞いてもいい?」
「彼女介抱してると事案だと思われそうだしさ〜。頼むよ〜!」
「事案事案って彼女に失礼でしょ。加えて俺だと事案だと思われないって君は考えてるってことでいいのかな?」
「そうだよ〜。ロマン君お姉さんみたいだし大丈夫だって!」
「君たち、酔いの勢いに任せて好き勝手言うのやめたほうがいいよ…。」

 そんな押し問答を繰り返している間、名を思い出せない職員たちの間に挟まれたアレッタが頭をふらふら危なっかしく揺らしていた。一度起きたけど今にも寝そう、というパターンだろう、きっと。お姉さんみたい、と言われたのはいただけないが、アレッタは保護していかねばなるまい。確かに中性的な顔という自覚はある。だが仮にも三十を過ぎた、しかも身長は180を超えた大男を捕まえてお姉さん呼ばわりとは、文句の一つも言いたくもなるのが感情というやつだ。

「まぁ、取り敢えず彼女は任せて。君たちはもっと飲んだら?」
「いやぁ〜ありがとうロマン君!いよっカカオ豆ソムリエ!!」
「それ褒めてるの?…はぁ、まぁいいや。じゃあね。」

 今にもまた寝そうなアレッタの頭を支えるようにして、彼女を姫抱きにして宴会の隅に撤退する。そのままでは寝づらいだろうし…と少し考えて、淑女に無断で失敬かもしれないが膝枕をすることにした。ごめんね、枕になるようなものがなかったから、と心のうちで言い訳しながら、彼女の頭を膝に乗せて静かに横たえる。男の膝だから、寝心地があまりよろしくないのは許してほしい。

「アレッタ、気分どう?起きられるならお水飲む?」
「…。」

 返事が無いところを見ると、どうやら寝落ちてしまったようだ。着たままだった白衣を脱いで、彼女にかける。それなりに自分は大柄であるから掛け布団には事足りるだろう。いつものチョコの代わりに、フラウにあげる為に買った残りのストロベリー味棒付きキャンデーを口に含みながら、更に賑やかになる宴の席を眺め続けた。

 賑やかなのは、やっぱり嫌いじゃない。


 飲み会の後、膝枕の件を聞いたアレッタにチョコの差し入れと共に謝罪されるのは、もう少し後のお話。
*

塩水ソル子さん宅ロイ・エンフィールドさん
猫田さん宅フラウ・ミンゴレッドさん
かき氷さん宅ズリエル・アポットさん
キリューさん宅ドロップ・シャドウさん
朝生葉月さん宅メイジー・ナイトさん
豆腐屋ふうかさん宅ニール・ハミルトンさん
アイさん宅エドマンド・キャンベルさん
レゴさん宅ウルム・フォーダムさん
白豆さん宅アレッタ・マグノイアさん

お名前のみ
春宮さん宅ロゼール・レッドフォードさん

お借りしました。
都合が悪い場合パラレルとして扱ってくださいませ。



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