ライバルたちは捜査中


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【注意】何故か西京都民とブリテン人が何の滞りもなく意思疎通をしています。
    ゆるっと雰囲気でお読みください。

*

「あ"ー…ここまで回っても手がかりなしか…。」
「ごめんね、ロイ。付き合ってもらっちゃって。」
「いや…ロマンを乗せるのはいつものことだしいいんだけどよ。にしてもこんだけ駆けずり回って手がかりすらねェとは。」

 太陽も真上から徐々に傾き始めた、天照の何ということはない昼下がり。道端の適当なベンチに腰掛け、疲れたようにぼやく成人男性が二人いた。彼らは、"マクガフィン"確保と調査のためはるばるブリテンから派遣されたBC財団の調査員たちだ。思いきり肩を落として疲れを滲ませている金髪の青年がロイ・エンフィールド。対して涼しい顔で糖分補給のチョコレートを頬張っているのヴァニラ色の髪の男性がローマン・アディントンだ。彼らはこの度、本国でのようにマクガフィン捜索のためのフィールドワークを行っている。…正確には、かっこいいバイクを颯爽と乗りこなすロイをローマンがフィールドワークに振り回しているといった状態だ。入国審査の際、ロイのバイクをブリテン本国から天照に持ち込むために、空港で5時間弱待たされたのは記憶に新しい。

「あー…でもぶつくさ言ってても始まんねェ!腹ごしらえしようぜ、ロマン!」
「食べ盛りだね。一旦帰るか…もしくは、ちょっと休んでから帰るか。」
「あれだけ走り回ってんのにほんっと涼しい顔だよなぁ。昔っから体力凄いし…。」
「平凡だから脚くらいは、と思って鍛えただけ。さぁ、ちょっと休みに行こっか。」

 そう駄弁りながら、人通りのまばらな通りを進んでいく二人。天照特有の入り組んだ道を抜けながら歩くと、少し引っ込んだ場所に小さなカフェがあるのを発見した。

「ここなんてどう?昨日噂聞いたから来てみたんだけど。」
「よし乗った!」

 見上げると、看板にジョリー・ロジャーと書かれている。見た目とたがわず洋風のカフェらしい。意気揚々とロイが店のドアを開けると、ドアベルがからんからんと陽気な音を立てて迎えてくれた。

「あらー、いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二名だ!」

 昼を少し過ぎた時間帯。人のまだまだ多い喫茶店の中でぱたぱたと動き回っていた小柄な女性が、こちらを見て愛想よく微笑む。二人席が生憎どこも満席で、相席でも大丈夫ですか?と断りを入れられ四人席に案内された。四人席の先客は、濃い紺色の厚手の上着を肩に引っ掛けた男性で、ちらりとこちらを見て愛想よく笑った。

「ご注文はお決まりですか?」
「んー…トールバニラノンファットキャラメルソースアドホイップモカ、一つで」
「かしこまりましたー。」
「なにて?」

 すらすらと何やら呪文のようなドリンクの名前を唱えたローマンをロイは二度見した。この喫茶店は今日が初めてではなかったのか。もしかしてこいつ、メニューを予習してきているのか…!と。

「お連れさんはどうなさいます?」
「えーっと…じゃあこれ!ウルトラデラックスびっくりパフェで!」
「かしこまりましたー。マスターさーん、トールバニラノンファットキャラメルソースアドホイップモカ、ワン。あと、ウルトラデラックスびっくりパフェ、入りまーす。」

 お盆を抱えて頭を下げて、女性は去っていく。未だに疑問符を頭に浮かべるロイを横目に、ローマンは涼しい顔で脚を組んだ。

「…何だよ、今のドリンク。」
「…何、今のパフェ。」
「「多分甘いやつ。」」

 同じような質問を同時に相手に投げかけ、そして同じ答えを返して。一瞬顔を見合わせたのち、二人は堪えきれず吹き出した。確かにキャラメルソースやパフェという時点で甘いに決まっている。そもそもこの二人の頼むものは八割方甘い。揃って甘党なこの二人にはいいメニューなのかもしれない。やいのやいのと言い合う二人を、相席になった男性が面白そうな顔で見ていた。

「楽しそうなことで。お二人さんは観光客?」
「あー、まぁそんなもんだ。ブリテンから来たんだぜ。うおっ、このパフェバチバチするんだな!」
「へぇ、魔法と蒸気機関の国だっけ?そういうのにはロマン感じちゃうねぇ。」
「だろ!?蒸気機関ってのはいいもんだ!」

 ドリンクとパフェが届き、それを味わいながら相席者と世間話を始めるロイと、ただ黙々とドリンクを飲むローマン。とことんマイペースである。一方ジョリーロジャー特製ウルトラデラックスびっくりパフェがバチバチと火花を上げていたことに驚いた後ロイは、蒸気機関のバイクの話で男性とかなり会話が弾んでいた…のだが。

「ねぇ。君、警察(ヤード)でしょ?特高、ってこっちでは言うんだっけ。」

 先程までドリンクに集中して黙り込んでいたローマン。彼が唐突に声を上げるものだから、思わずロイは横を見た。初対面の人間に何を言い出すかと一瞬思ったが、こういう時のロマンの勘は結構当たる。対する相席の男性は、愛想良い笑いを浮かべたままだ。

「それはまた、どうしてそんなことを?」
「勘。…っていうのは嘘。第一に、こんな昼も過ぎた時間にお茶してられるのは、主に調査とかフィールドワークをする人でしょ。会社づとめの人でも休憩くらい喫茶店でするかもしれないけど、君は時間に間にあうように急いでいるようにも見えない。ということは、少なくとも休憩時間が限られている人じゃないってことだ。まぁ、今は時間がてんでんばらばらなんだから時計を見ても致し方ないけどね。…第二。それに普通の人なら、なかなか"喫茶店に入ってくる人をいちいち細かく観察したり"するものじゃないでしょ?」

 ここまで言い切り、一息つきざまにずずっとドリンクを一口すするロマン。そして静かに笑ったままの男性。この席にだけ、しばらくの静寂が訪れた。

「…よく見てるね。お察しの通り、俺は特高の者さ。君たちはさしずめ、BC財団の調査員かな?」
「おう、貴方も察しがいいんだな。マクガフィンの捜査に来てんだ。天照にも上が協力要請を入れた。」
「うんうん、聞いてるよ。全面的に協力しろってこっちの上からお達しが来てる。」
「それなら話は早いね。何か、掴んだことがあったら教えてほしいんだ。」

 ロマンの目的はこれか。よくもまあと思うが、もし男性が特高でなかったらどうする気だったのだろう。恐らく彼の頭にそんな可能性はないのだろうが。この口調になった彼が持つのは、自分の仮説への絶対的な自信だ。今回も結局は結果オーライというやつになった。

「俺は残念ながら鑑識課でね。マクガフィンに関して持っている情報は君たちと変わらないと思うよ。…でも、うまい話はある。」
「それって?」
「ま、公衆の門前でこんな話をするのもまずい。場所を移動しようじゃないか、ミスター。」

 そう言って、特高の男性は自分たちを手招きしてみせた。


――


「それじゃ取り次ぐから、少々お待ちください、っと。」

 まさか休憩のために入った喫茶店で、新たに情報を仕入れようとするとは。俺のライバルは探求心が人一倍だって忘れてたぜ、とロイ・エンフィールドは一人ぼやいた。また昼食の時間が遠のいてしまった。
 通された特殊高等警察――通称特高の応接室のソファに腰掛け、事の成り行きを見守るロイとローマン。そして誰か人を呼びに行くのだろう、応接室のドアから今しがた出ていったのは、先程の喫茶店ジョリー・ロジャーでローマンが捕まえた特高職員だ。彼は愛想よく笑いながら、佐藤明真と名乗った。果たして、何か進展はあるだろうか。進展がなくても、個人的に繋がりが作れれば有り難いのだが。ちなみにウルトラデラックスびっくりパフェは美味だった。

「はい、戻りました。」

しばらくして戻ってきた明真は、捜査資料のはさまっているらしいバインダーをソファに置きながら座り、こちらへと向き直った。愛想良さそうに笑っている蜂蜜色の瞳は、そのくせ何を思っているか全く読めない。

「とりあえず、情報課の知り合い呼んでみたよ。ちょっと気長に待ってね、あの子マイペースで。髪直したいんだってさ。」
「へぇ、ロマンみたいだな。」
「ちょっとロイ。」

 うっかり口を滑らせて、横からロマンの肘でつつかれた。出された天照の茶…グリーンティーだっただろうか、をすすりながら、佐藤の知り合いとやらを待つ。

 待つことしばし、コンコン、と2回のノックが応接室に聞こえた。

「どうぞー。」
「しつれいするわ。」

 ぎぃ、と音を立てながら開いたドアの向こうに立っていたのは…何と形容するにしても、幼女、少女としか呼べない年齢の身なりをした女の子だった。特高の制服らしきものを着ているが、どうしてもコスプレに見えてしまうのは許して欲しい。

「……女の子?」
「いらっしゃいお嬢。お嬢にお客さんだよ。」

 佐藤が声を掛けこちらを手のひらで指すと、少女はようやくこちらを向いた。ラピスラズリのように群青に沈んだ丸い瞳が、ぱちぱち瞬く。こちらになんといった感情を抱いているのか、全く読めない。自分の本音を見せないようにするのは天照人の癖なのだろうかと思わざるを得ないほどだ。

「わたしのお客さまは、あなたたちね。」
「えー…と、君は?」
「わたしはアーニャよ。あきまさがよんだから、きたのだけれど。」

 少女は警察手帳を取り出し、ロイの鼻先に突きつける。此処で気づいたが、アーニャの身体はいつの間にか宙に浮いていた。天照に魔術はない、ならば亜人か宇宙人か妖怪か…兎に角人間ではないらしい。手帳には確かに、特殊高等警察秘密情報課、アーニャと印字されていた。横から佐藤が、お嬢は見た目若いけど俺より歳上なんだよ、と口を挟んだ。マジか。どう若く見積もっても佐藤は40代にしか見えない。

「とりあえず自己紹介だ!俺はロイ・エンフィールドだ。」
「…ローマン・アディントン。」
「ロイに、ローマンね。マクガフィンさがしのおふたりが、わたしにごようじ?」
「ああ。マクガフィンの捜索…あーいや、マクガフィンを探すことが難しくなっているんだ。だから、天照の特高に力を貸してほしいんだ。」

 ふよふよと宙に浮くアーニャに語るロイと、その後ろで黙って話を聞くローマン。アーニャは数度瞬きしたあと、こくりと頷く。

「いいわよ。というより、もともとそうめいれいがくだっているもの。手つだわないりゆうはないわ。」
「ありがとな!なんか情報があったら、ぜひ教えてほしいんだ。」

 つかの間の沈黙。少し黙って頭の中を探るような顔をしていたアーニャは小さく首を振った。

「ざんねんながら、今はないわ。はがみしているのは、こちらも同じなの。」
「そうかぁ…。」
「天下の秘密情報課でも駄目とは。なかなか難儀なんだね、お嬢。」
「あきまさはだまってて。でもね、かならず糸ぐちはつかまえてみせるわ。つかまえたら、あなたたちにすぐおしえてあげる。」
「本当か!恩に切るぜアーニャ!」
「ありがとう、小さな警察さん。」

 ブリテンからの来訪人たちは、顔を見合わせ喜ぶ。喜ぶと言っても片方は真顔で、屈託のない笑顔のロイに同調しているのだが。随一上を通して情報を得ていては、対処が遅れるかもしれない。ゆえにダイレクトに、かつ素早く情報を得られるのならそれに超したことはないのだ。…内部のスパイに、情報を先に掴まれてしまう前にも。そう仄暗いことを考えてしまったローマン・アディントンは、その思考を振り払うように静かに首を振った。

「ところであなたたち、こうもりの言葉は分かって?」
「…コウモリは、ちょっと分からないかな。」
「そう。なら、じょうほうはあきまさにもって行かせるわ。それをまっていてちょうだい。」
「えっ俺パシリなの?ねえちょっとお嬢、俺を何だと思ってるの?」
「しかたないでしょう、わたしはことばじゃなくて、もじでせつめいするほうがとくいなのよ。」
「よし。これで一歩前進…。」
「ちょっと君たち遠慮ってものはないの?ねぇそこのローマン君!」

 真面目な話をしに来たはずが、何故か最後はグダグダになってしまった。だがしかし、特高に直接的な繋がりを持てたのはそれなりの収穫だ、とローマンはひとり拳を握るのだった。

「やったな、ロマン!」
「そうだね、ロイ。ところでご飯は?」
「あっ。」


*


塩水ソル子さん宅ロイ・エンフィールドさん
れきみさん宅シャーロット・ペローさん、ジェームズさん(お名前のみ)、喫茶店ジョリー・ロジャー
お借りしました。
都合が悪い場合パラレルとして扱ってくださいませ。



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