偶然、必然、暗合?否。



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「……やはり、か。」

 豪華客船メイジ号のとある一室。ホストクラブ・キノタケのホストにあてがわれる寝室のような一室。防音の壁と二重ロックの扉で封のされた部屋の中で、佐藤明真は「友人」から届いた手紙を舐めるように見つめていた。
 かすかに林檎の花の香が染み込んだ、色気も素っ気もない茶封筒。その中には幾重にも目隠しの紙で覆われ納められた「手紙」こと、鑑定結果の報告書が畳まれて入っていた。鑑定の内容は、先日の事件現場で採取された林檎の花のポプリ、そして自分がある女性客から入手したポプリの比較。「手紙」は遺伝子、香りの成分、果ては不純物に至るまでその二つはほぼ同一であるという結果を送って寄越した。

 自分が追っている事件。それは、連続殺人事件だ。
 手口はごくごく簡単で単純なもの。被害者は皆、額を拳銃で一発撃ち抜かれて殺害されている。事件が断続的に起こること、そして司法解剖の結果被害者の頭蓋から摘出された弾丸が皆同一のものであることから、連続殺人として捜査本部が設立されたのだ。自分もまた、勿論そこに所属していた。
 ここまで聞くなら、聞こえは悪いが、よく起こる普通の事件と変わりない。それこそ刑事ドラマにでも出てきそうなくらい、単純でありふれた話だ。この事件には、問題があったのだ。

 ざっと50年ほど前、とある殺人事件が起こった。今回と同じく、連続殺人事件だった。犯人の名は問題ではないためここでは割愛するが、とにもかくにも50年前の事件は、今回のヤマと非常に似ていたのだ。まず狂気は拳銃であること、被害者は額を一発撃ち抜かれて殺害されていること。そして何より――50年前の殺人事件は、今回の殺人事件で使用されている弾丸と同じもので人が殺されているのだ。これは単なる偶然で済ませられるものか?と自分に問えば答えは否、だった。50年前の事件は、最初の犠牲者となった警察官の拳銃が現場から発見されなかったことから、犯人は殉職した警察官の拳銃を用いて殺戮を繰り返したと推測される。そして犯人は最後に、一度に二人の人間を殺害し、そのままぱったりと犯行を行わなくなり、行方を眩ませた。現場検証の結果と当時の捜査資料を突き合せた結果、そういう結論が出ていたらしい。凶器はいくら血眼になって捜査員が捜しても見つからず、犯人がそのまま所持しているものとして処理されたそうだ。その拳銃に使われていた弾丸が50年後の今、まったく瓜二つとでも言うべき殺人事件で使用されたのだ。くどいようだが、これが単なる偶然であるはずがないのだ。少なくとも、自分には暗合には思えないのだ。
 本来なら同一犯を疑うべき案件だが、迂闊にそうできないのには理由があった。理由は例のポプリだ。50年前の事件の遺留品や証拠品にそういった類のものは見当たらなかったからだ。同一犯か、否か。全てはこのポプリの持ち主を突き止めなければどうにもはっきりしないことだ。

 佐藤明真は、白黒はっきりしないことが嫌いだ。天照人はよく内心を八ツ橋に包むと言われるが、彼はむしろその反対だった。曖昧を嫌い、灰色を忌み、暗合を懐疑する者だった。だからこそ彼は、この状況の一刻も早い打破を望み、連日連夜ホストクラブでの情報収集に励んでいるのだった。LINKWOODを利用し自分に天照の人間の客が回ってくるように仕向けたのも、それが理由だ。

「……足りない。」

 足りない。疑うべき白のパズルピースも、犯人に繋がる情報も、そしてカフェインも。
 眠気で霞がかった頭ではこれ以上考えてもよい考えなど浮かぶまいと早々に結論を付け、彼は資料を仕舞った金庫に鍵をかけ、部屋を後にした。

 部屋の窓から差し込んでいた光は、夜明けの黄金色だった。
今日は朝の潮風に当たりながらの一服となりそうだ。


――


 助力感謝する。
 私は、あの事件を終わらせるつもりはない。

以上


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