午前三時の独白


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これは、単なる気まぐれです。
気まぐれではありますが、どうにも落ち着けないので、思うがままに書き記そうと思います。
書き終えたその時は、仕舞い込むなり、暖炉で燃やすなりしましょうか。

未だ名がなかった頃の私は、白黒の町の中、曇天の下を歩いていました。晴れた日が、もともと好きではなかった。何故でしょう、自分には眩しすぎたのか、それとも息が詰まりそうだったからなのか。とにかく私はずっと、寒空の下を歩くことが好きでした。
そんな中、一度ロンドンに出て見た演劇に、心を奪われた。モノトーンの町の中が、一瞬で彩られたような心地でした。物語を作り始めたのはその頃から。目に、耳に、心に焼き付いたその劇を擦り切れるほどに思い返し、募った憧れと情熱を作品として書き記すだけでは飽き足らず。家族に猛反対された上で家を飛び出して、ロンドンでもっと演劇に、劇作に触れたいと思う程には、その頃の私は浮かれていたようでした。

もちろん現実は、そう甘くはない。衝動で田舎から出てきた文無しの青年など、吹けば飛ぶ塵のようなものと大差ないのだから。毎日の食事にありつくのも難しい中、ようやく劇団の下働きの職を得た時には、心底安堵しました。

そんな中でしたでしょうか、貴女と最初に出会ったのは。あのときの貴女の瞳は、私が歩く曇天の空のようでした。思わず声をかけてしまった、それがなんと、私の人生を変えることになるとは、その時には知る由もなかった。貴女の瞳がいつか晴れることを星に願い、その時は別れました。

再び巡り合った時は、あのとき名前すら知らなかった貴女は晴れ渡った夏空のような、眩しいばかりの瞳でいた。嫌味のない朗らかな笑い声と太陽のような笑顔は、私の旅路には今まで無かったものでした。
きっとこの時だったのです、私の世界に光が射したのは。夢を語り合い、将来を語り合い、叶うかも分からない約束を交わしたこの瞬間に、曇天が晴天に変わったのです。
貴女の瞳にもう一度相見えることを願い、名残惜しく思いながら別れました。

そして貴女と三度相見えて、あの時の約束を果たすことができた。私が劇作家として初めて現にした夢は、貴女との約束だったのでしょう。
貴女と肩を並べて歩けるようになった私は、少し我儘になってしまったようだ。眩しい夏空に、太陽のような笑顔に、…貴女に、私は恋をしたのです。

その心を、伝えたからには。
私は誓いましょう。
これからは貴女の隣で、自身の人生という物語を描くことを。


今から見れば、私の人生という旅路は、貴女に出会うために歩いてきたものだったのだと、どうしても思えてしまうのです。貴女にそれを言ったら、澄んだ鐘のようによく通る声で笑われてしまうでしょうか。

どうか、貴女のこれからの旅路に幸があらんことを。
この魂は貴女と共に、貴女の隣を歩みましょう。


きっとこれが、誰かの目に触れることはないだろう。
こんな夢物語のような話は、誰かに知られたくはないから。この夢は、…この現は、自分の中で、大切に抱いておきたいのです。

この心は貴女と共に、いつまでも。



エリック・W・アンバー




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