夜の帳がかかるまで
じりじりと照り付ける太陽を疎ましく思いながら私は外を眺めていた。

普段より騒がしく、元気な子供が鼓膜を揺らす。子供の声よりも近くに聞こえるのは、鈴を鳴らしたような細い女の歌。
聞き間違えようもなくその声はナマエのもので、随分と懐かしいメロディを口ずさんでいる。

「十年後の八月また出会えるの信じて」

彼女の歌に合わせて私も小さく歌えば、扉からひょっこりと覗かれた。案外自分が思うよりも私の声が大きかったのだろうかと思案をしていると、ナマエは「珍しい」と言って笑いまた部屋へと戻る。

そんな何気ないことがなんとなく気恥ずかしくなってしまい、私はソレを誤魔化すために彼女に使わせている部屋を覗きに向かった。足音はできる限り控え目にだ。

室内は私の全身が映るくらいの大きさの鏡とベット、壁には本棚と勉強机と見慣れた私の部屋だ。
しかし今、異質なのはそこで着替えをしているのがナマエだということだった。

着付けはもうほとんど完了しており、濃紺の浴衣がよく似合っていた。

「三成、もう少し待っていて。帯がまだ出来ていないの」

私に気がつき鏡越しではなく、直接こちらを向き微笑むナマエに私は「気にするな」とぶっきらぼうに言うことしか出来なかった。
ここで素直に似合っている、だとか綺麗だ、と言えれば苦労がないのだが、性格かどうも彼女を喜ばせる言葉を口に出来ない。素直に私がナマエを褒めるところを想像してみたが、いささか気味が悪かった。


今日ばかりは肩ほどまで伸ばされた髪は和服用にアップにされており、うなじが眩しい。
私は白磁の肌に誘われるままそこに唇を落とす。過剰なほどに驚くナマエを私は肩を掴み押さえた。

「やっ……三成、痕つけちゃやだ。見えちゃうから」

帯から手を外したナマエは私を首筋から離すべく小さく抵抗をする。ナマエなりに必死の抵抗なのだろう。しかしながら私からすればこれくらい猫が戯れるのと大差ない。
彼女の肩越しに鏡を見れば、頬に朱をさしたナマエが映っていた。

最初は悪戯に接吻だけで終わろうと思っていたこの行為もナマエのこのような表情を見ては止まることなど出来ない。私は本能のまま彼女の首筋に唾液を垂らし、ソレをじゅるじゅると音をわざと立てて吸い上げる。
鼻を抜けるような甘い声音が鼓膜を揺らす。

「鶴ちゃんたちに見られたら……」

泣き出しそうなか細い声に私はどうしようもなく煽られる。この女はこういうことが男の欲をさらに大きくするということを知らないのだ。

首筋から唇を離せば、顔を真っ赤にしたナマエが私を涙で濡れた瞳で睨み付けたことはいうまでもない。

夜の帳がかかるまで
(三成の馬鹿!これじゃ鶴ちゃんと花火見れないじゃない!)(私と行けばいいだろう)
[ 4/18 ][*prev] [next#]
戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -