突然の出来事でした



「なまえー、今日あたし日直だったんだけど用事はいっちゃって…。悪いんだけど代わってくれる?」
「うん、いいよ」
「あー私もー!この後親に呼ばれててさ。掃除代わってほしい!」
「あ、…うん、わかった」

とある日の放課後。比較的過ごしやすい気候であり、グラウンドではサッカー部員たちが一生懸命声を出しながら練習をしているのが窓から見えた。
今日も一日が終わろうとしている。私は帰る準備をしていた、そんなときに友達から頼まれごとをされたのだ。部活は一応美術部に入っている。でも活動が週二回であり、今日は部活がない日だった。
えっと…、まずは…掃除から、かな。掃除といっても一度昼休みに班ごとにやっているので、黒板周りだったりゴミ捨てだったりそんな程度なので苦ではない。
今日の日直のお仕事も日誌を書くのと、提出用のみんなのノートを…、あ、そっか…ノートあるんだ。

「なまえ、また仕事代わってあげてるの?」
「あ…ツナくん」

黒板消しを持ってさあやるぞ…!って思ったときに声をかけてくれたのは同じクラスのツナくん。
私は自分が低身長だから自分より背の高い人…とくに男の人は苦手だけど、唯一彼はとっても優しい性格のおかげで最近よくおはなしするようになったんだ。

「…友達が、用事あるっていってたから…」
「そっか…。オレ手伝うよ」
「え、っ!だ、だい…じょうぶ…!すぐ終わると思うし」

黒板掃除も日誌も30分もあれば終わるだろうし、ノートも重いけど薄いからなんとか大丈夫だと思う。
「でも、」とツナくんが言いかけたところで、彼を呼ぶ声が教室に響いた。私はその瞬間にビクリとした。あ、こ…この人は、よくツナくんと一緒にいる…、

「あ、獄寺くん。用事終わったの?」
「終わりました!もう帰れますよ」

ツナくんを何故か極道のように10代目と呼ぶ銀髪の彼。ツナくんと話すときだけは満面の笑みだけど…。

「…つか、おまえ何だ?10代目に用でもあんのか」

ギロリという効果音が付きそうなくらい思いっきりこちらを見下ろして来るのはもはや名物みたいなもの。
それでも慣れない私は怖い以外のなにものでもないわけで、「ひっ、」と小さく声を上げたあと教室の隅までズサアアアッと後退りした。

「だ、ダメだよ獄寺くん!なまえは怖がりだからそんなに睨んじゃ…!」
「弱ー奴が悪いんスよ。それよりそろそろ帰りましょう!」
「え、でも…」

教室のすみっこでビクビクしている私を見てツナくんは困ったような顔をした。もしこのまま掃除とかのお手伝いをしてもらったらきっと獄寺くんも付いてくるだろうし、また睨まれちゃう…?それはもちろん怖いけど、二人に迷惑かけることになっちゃう、よね。

「…わ、私は大丈夫なので…、か、帰って平気だよ…!」
「本人がそう言ってるんですから大丈夫っスよ!帰りましょう10代目!」
「あ、…うん…」

ツナくんは心配そうに何度もこちらを振り返ってくれたが、私は大丈夫だ。いつもの通り、お仕事を終わらせるだけ。そんなツナくんに小さく手を振って見送ると、誰もいなくなった教室で私は掃除を開始した。



掃除と日誌を終わらせたあと、私は提出用のノートを持って廊下を歩いていた。あとはこれを先生の机に置いておけばお仕事終わり…!
はやく片付けたいがために全員分のノートを持ってきちゃったけど、薄いからそんなには重くない。それを両腕で抱えるように持って歩いていたときだった。
ガチャリと右手側からドアを開ける音がした。当然何気なくそこから出てくるであろう人物に目がいったけど、これほどまでにこの行動を後悔したことはなかった。この部屋は、応接室だ…。そこから出てくる人なんて限られている。
その人物がカツンという靴音とともに廊下に出てくる。そして、きっと無意識だろう。誰だって自分の近くに誰かいればそちらに目がいくものだ。
その要領で私に目を向けたんだろうが、私にとっては身長のせいで睨まれているようにしかみえなくて…。

――ガシャーンッ!

私にはどうも怖くなったりびっくりしたりすると、勢いよく後退りする癖があるらしい。今回もまさにそうだったが、それのせいで後ろにあった何かを割ってしまった。
…壺だ。一瞬でサーッと顔から血の気が引いた。壺って…、ものすごく高価なものがあるって聞いたけど…、も、もしかして…。

「…それ、」
「……っ!」

応接室から出てきた人、この学校の風紀委員長の雲雀さんが声を出したことに驚いて私はまたビクリとした。

「それ、僕が持ってきた壺」
「……え、」
「うちにあったんだ。家にあっても仕方ないから学校に持ってきたんだよ」

ひ、雲雀さん家の壺…。それってやっぱり、お値段も相当な…!

「あ、ご…ごめんなさい…。べ、弁償します…!」
「…いいよ、君が返せる額じゃない」
「で、でも…割ったのは私で…!」

やっぱり、高価なものなんだ。そんなものを割ってしまったなんて。弁償なんて軽々しくいってしまったけど、返せるまでにどれだけかかるだろう。
…こんなことになるならツナくんに手伝ってもらったりもっと早く終わらせるべきだった。
後悔をしても遅い。割ってしまった事実は変わらない。あの雲雀さんの私物を壊してしまったのだ。怖くて怖くてたまらない。
じわりと目尻に涙が溜まっていった。物を壊して泣くなんて子供みたいだと自分でも思うが、昔から泣き虫なところは変わってくれない。

「自分に何ができると思う?」

雲雀さんの質問に私は頬を伝う雫を袖でごしごしと拭きながら考えた。言い方はちょっとキツイけど、蔑んでいるような言い方ではない。普通に質問してるだけ、だよね。

「…そ、掃除とか、何かを書いたりとか、家事とか…くらい、です…」
「風紀委員の仕事は?」
「え、?あ、…たぶん、できると思います…」

風紀委員のお仕事って、書類に判子押したり見回りしたり、朝校門のところに立って身なりのチェックしたり…だよね。

「じゃあ明日の昼休み、応接室に来て」
「えっ、…風紀委員のお仕事をする、ということですか…?」
「そうだよ」
「で、でも…弁償代…」
「いらないって言ったでしょ。割れたものは仕方ないし貰っても困る。家にいらないから持ってきたものだしね」

…ほ、本当にいいんだろうか。こんなうまい話があっていいのか。あ、…でも、風紀委員のお仕事を家にも帰さずやらせるとかそういうことなのかも…!

「ちょうど風紀委員が少し足りなくてね。君がそんなにいうなら見回りとか色々手伝ってもらうから」
「…はい、徹夜してでも頑張ります…」
「…何言ってるの?」

明日から、明日から…あの怖いと噂の雲雀さんがいる風紀委員に…。しばらくこうやって話してはいるけど、手はずっと震えてるし正直自分が何をいってるのかよくわかっていない。でも、やらなきゃ…。弁償代はいらないっていってくれたけど…それに甘えないで、しっかりお仕事手伝わなきゃ…。
ああ怖い、もうどうしよう…。こんな近くに雲雀さんがいること自体今までの私にはあり得ないことだ。とにかく、咬み殺されないように細心の注意を払わなければ…!


−−−
(…この割れた壺だけど、)
(わ、私が片付けます、ので…!)
(いい。時間かかりそうだから草壁にやらせる)
(はい、お任せください委員長)
(ひっ…!い、いつのまに…!)
(…ちょっと、何でそんなに離れるの)

BACK

- ナノ -