たぶん、もしかしたら、きっと


第二種目の騎馬戦。チーム決めは15分の中で行うということでのんびり考えている時間はなく素早く爆豪に声をかけた。そしてさらに集まったのが瀬呂と芦戸だ。
チームを見回した瀬呂が「思ったよかはやくあつまったな」とこぼしつつホッとしたように胸を撫で下ろす。

「チーム決まったのはいいけど、爆豪はなんでそんなに怖い顔してんの?」

芦戸がきょとんとしながら疑問を口にしたために俺は口元をひくつかせた。詳しい話を聞いたわけではないけれど、あの状況で考えられることはひとつだ。

「あー……三声を誘おうと思ってたんだけどよ、」

頭をがしがししながら歯切れ悪く言えば「三声?轟と組んでなかったか?」と瀬呂が即答する。そうなんだよ。遠くから見てた限りたぶん、声をかけようとしたけど轟に先を越されたって感じなんだよきっと。

「ちなみになんで音葉ちゃん誘おうとしたの?」

やけに興味津々にニヤけた芦戸が爆豪に詰め寄る。今の話のどこにそんな楽しそうにする要素があったんだ?つか、イラついてる爆豪に遠慮なく詰め寄れるとか……ほんと、すげぇな。

そんな芦戸に対して爆豪は「あぁ?」と凄みながら見下ろしている。女子を睨むなってと思った矢先、面倒くさそうにその口は開いた。

「個性知ってるからに決まってんだろ」

何を当然のことを、という態度に俺は呆気にとられながらも妙に納得していた。そうだ、こいつ同じクラスのやつの個性すら全然覚えてなかったわ。三声と組めなくて戻ってきたあといろんなやつから組もうと誘われてたけど、その全員から個性を聞いていく、なんてことがさっきあったばかりだ。

けど爆豪の答えに「なーんだ」と残念そうな顔で唇を尖らせる芦戸。一体何に期待してたんだ……?

でも、そうだよな……と轟の近くにいる三声に視線をやりながら考える。三声の個性は言葉だから騎馬を組むために両手が塞がろうと関係なく個性が使えるし、その範囲だって遠距離でも効果がある。自分たちのハチマキを守るため敵を寄せ付けないようにするなら、近距離だけじゃなく遠距離にも対応出来るやつが有利だ。
このチームだってそれぞれの個性を聞いて勝てると思ったから選ばれたんだ。だから三声を誘ったのだって同じことなんだろう。


ただ、ちょっと意外だった。
三声と幼馴染だということは知っている。だから個性だって当然覚えてても何もおかしくはないけれど、爆豪自ら声をかけにいくとは思わなかったから。
だって本当は三声のところに行こうとしたときも他のやつらは爆豪とチームを組もうとこっちに歩いてきていた。それにあいつが気付かないわけがない。なのにそれには目もくれず、だ。そりゃあ、個性覚えてないやつより個性知ってる幼馴染のほうが組みやすいって話かもしれないが。

この体育祭は、とくに爆豪は一位へのこだわりがすごいけど勝てるやつと組もうとするのは当然だ。それが三声だというなら本気で勝てる自信があって誘おうとしたのだろう。
少なくとも爆豪は同じクラスだから、仲がいいからという理由で組む人を決めたりはしないと思う。しっかりと個性を見て判断する。今回はそれでたまたまA組が揃っただけで。

ああ、だからちょっと意外だと思ったのかもしれない。

最初の戦闘訓練で緑谷と戦っていたとき、正直言い方は悪いが緑谷を下に見ているような感じがした。まあその勝負に負けてからはそれもだいぶ減ってきたようには思うけれど。
だから三声にも同じような態度なのかと思っていたけどどうやらそういうわけでもないらしい。たまに話しているところを見かけたことがある。三声と喋ってるときの爆豪はなんとなくいつもより大人しいっつーか……。

あ〜〜…なんて言えばいいんだろうな。俺こういう頭でいろいろ考えんの苦手なんだよ。全然整理がつかねぇ。

んー、つまり何が言いたいかっつーと、爆豪は三声を認めてる……ってこと、だよな。それを"誘う"という行動で示したことがちょっと意外だった。そうだ、それだ。

「切島、どーしたの?考え事?」

芦戸の声がしたと思ったらひょこっと顔を覗き込まれて俺の視界がピンク色で埋め尽くされる。……そういえば芦戸も何かに気付いてたっぽいよな。結局それがなんだったのかはわかんねぇけど。いや、あれは思い違いで終わったっけか。

あくまでも今のは俺の想像であって正解じゃあない。すこし気になるところではあるけれど、それは今聞くことじゃないかと気持ちを切り替える。

「いや、何でもねぇ。それより作戦会議しようぜ!」

まだチーム決め終了時間まで数分ある。狙うは緑谷の1000万。狙ってんのは俺たちだけじゃねぇから少しでも良い作戦を……。

「まず最初にデク1000万んとこ突っ込めクソ髪」
「切島な」

どうでもいいけど名前も覚えてくれよ。

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