38


久しぶりに自宅に帰ってきた私は安心感からぐっすりと寝てしまった。なんとか時間通りに起きると急いで支度を始める。
これから病院にいかなきゃ、多分ディーノさんがいるはず。ヴァリアーのところにいた間こっち側の状況は何一つわかっていない。雲雀さんは今日の夜に対戦だから今どんな感じなのか気になるのだ。


病院についた私はバジルくんが治療を受けていた病室へ向かった。ディーノさんがいるとしたらここだよね。

「…失礼します」
「ん?おー、亜衣か!」

あ、やっぱりいた。ロマーリオさんも一緒だ。

「お久しぶり…?です、ディーノさん」
「昨日までヴァリアーのとこにいたしな。二、三日くらいなのに久々に会った感じだぜ」

そういいながらディーノさんは私の頭をくしゃくしゃと撫でる。ああこの感じ…これも久しぶりでなんとなく安心する。やっぱり頼りになる大人がいるっていうのはこんなにも心強いんだ。

「亜衣、お前恭弥のこと聞きにきたんだろ」
「え、な、何でわかったんですか?」
「そりゃあ亜衣のことならなんでもお見通しだから」

ディーノさんは「な?」といいながら顔を覗き込むようにして少し屈み、私の手をぎゅっと握ってきた。女性並みに長くて綺麗な睫毛がよく見える。目を細めながら私を見つめるその表情はとても優しげで、気を付けていないとクラっと目眩がしそうだ。

「ん゛んッ!…ボス」
「おっと、ワリーな!」

ロマーリオさんの咳払いにハハッと笑うディーノさん。ディーノさんみたいにかっこいい人は何をしていても絵になるから本当にそういう意味では恐ろしい。

「まあ強ち嘘でもねーんだけどな。亜衣のことだからヴァリアーに行ってる間記録出来なかった恭弥のことを知りたいんだろうなーと思ってよ」

なんだ、本当に全部お見通しだったんだ、さすがディーノさん。そう思っていると、ガチャリと病室のドアが開いた。おそるおそる顔を覗かせたのは綱吉くんで、私と同じく雲雀さんのことが気になっていたみたいだ。
そんな私たちにディーノさんはケラケラと笑い、そのまま歩き出し隣の部屋のドアを開ける。

「こいつらも心配なのか、同じこと聞きにきたぜ」

隣の部屋にいたのは獄寺くんと了平先輩、そして山本くんだった。全員ソファで熟睡しているみたい。みんな考えることは一緒なんだね。

「恭弥は完璧に仕上がってるぜ。家庭教師としての贔屓目なしにも強ぇぜ、あいつは」

ディーノさんのその自信に満ちた言葉に嘘はなさそうで、私はホッと一息つく。そっか、雲雀さん…そんなに強くなったんだ。
安心した私はこれで帰ろうかと思ったけど「茶でも淹れてやる」というディーノさんのお言葉に甘えることにして、綱吉くんと三人でソファーに腰掛けた。


「そういえば亜衣、ヴァリアーにいる間何かあった?」

ディーノさんが淹れてくれたお茶を頂きながら修業の成果について話していると、ひと段落ついたところでふいに綱吉くんから声が上がった。

「何かって?」
「う、うーん…だってやっぱり敵なわけだし。いくら記録係だっていってもさ」
「つまりツナは亜衣のことが心配だったってことだろ?」
「ディ、ディーノさんッ!」

ディーノさんの言葉に一気に顔が真っ赤になって大きな声を出す綱吉くん。心配…そうだよね、私自身も最後はだいぶ慣れてきたとはいえ最初に連れていかれたときはすごく怖かったもの。
敵陣に戦えない人間が一人でいくなんて、私が綱吉くんの立場だったらかなり心配すると思う。

「大丈夫だよ。最初は怖かったけど何もなかったから」
「ほ、ほんと?」
「うん、本当」

ベルフェゴールさんに何度かナイフは投げられたけど万年筆のおかげで無傷ではあるから大丈夫です…!

「じゃあ何か気付いたこととかあるか?」

ディーノさんが少し身を乗り出して真剣な表情で問いかけてきた。仮にも敵であるヴァリアーと数日一緒にいたんだから何か弱点とかあったら共有したほうがいいよね。気付いたこと…。

「スクアーロさんの髪の毛がすっごく綺麗でした」
「え?か、髪?」
「ベルフェゴールさんは油断しているとナイフを投げてきて、XANXUSさんはテキーラが好きみたいです」
「わ、わかった。亜衣が無事ならそれでよかったぜ…」

だめだこりゃという感じでディーノさんは自分の顔を手で抑えた。…ごめんなさい、偵察しようと思ったんですけど即座にスクアーロさんにバレてしまいました…!

「…亜衣、ナイフ投げられたの?」

隣からいつもよりちょっと低めの、そして静かな声が聞こえた。しまった、さっきと矛盾してることいっちゃった…!

「さっきは何も無かったっていってたけど…」
「あ、うん、戦闘はなかったよ!…ただちょっと、ね」
「ちょっと?」
「えっと…」

ディーノさん助けてください!今の綱吉くん、口調も表情もいつもとそんなに変わらないのになんというか、隠し事は無しだよっていっているようなプレッシャーを感じるんですけど何でですかね…!ディーノさん!ディーノさん!

「まあまあツナ、こうやって亜衣も怪我もなく無事に帰ってきたんだしいいじゃねーか!」
「そりゃあ、そうですけど…」

私の必死のアイコンタクトが通じたのか、ディーノさんの助け舟によってそのプレッシャーからは解放された。さすが未来のボス候補というべきなのか、その能力は修業によって徐々に身についているような気がする。
…味方にプレッシャーをかける能力が今後必要なのかは置いておいて。

「亜衣、絶対に万年筆手放しちゃダメだよ。本当はオレがずっとそばにいればいいんだけど…」

名前を呼ばれた瞬間に私の手に重ねられた彼の手。そして綱吉くんの真剣で、それでいて少し悲しそうな表情と言葉に私は「えっ、」と小さくこぼす。
今とてもすごいことを言われた気がするのに綱吉くんは無意識なのかいつものように慌てたり照れたりする素振りはない。
え、私がおかしいの…?綱吉くんが自分の言葉に慌ててくれたらいつもみたいに照れたり笑ったりしてごまかせるのに、当の本人は真面目な表情だからとてもじゃないけどそれはできない。
「あ、う…」と訳のわからない声を出しながら私の頭の中は綱吉くんの言葉がぐるぐるして、体から込み上げてくる熱いものが顔付近にきたと思ったと同時に自分の顔がぼぼっと熱くなるのを感じた。
逃げ出したいけど手を握られているためにそれができない。綱吉くんと目が合っているこの状況が恥ずかしくてどうしても耐えられないために再びディーノさんに助けを求めようと視線をそちらに向けてみたけど、彼は彼で私たちをものすごくいい笑顔で見ているものだからたまったものじゃない。

「…亜衣?」

そして綱吉くんは私がどうして赤くなっているのかわかっていないのか目をぱちくりさせてきょとんと首を傾げている。こ、これはひどい…!こうなってるいのは綱吉くんのせいなのに!
それでも綱吉くんはあまり気にしていないのかそのまま話を続ける。

「だからその万年筆でできるだけ自己防衛してね。絶対にオレが助けに行くから」
「…ぅ、」
「…って、亜衣?」

さらに追い討ちをかけてきたあ…!綱吉くん何でいつもみたいに自分の言ってることに気付いて焦ってくれないの!こんなに緊張してるのは私だけなんですか!もう馬鹿!ばかー!


38.お願いだから、

「ディーノさあん…」
「あー、ツナもそのくらいにしとけ?そろそろ亜衣が限界にきてる」
「え…オレ変な事言ってた?」
「私に聞かないで…!」

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