23


あれから約二週間が経った。私は毎日ディーノさんと稽古をして、綱吉くんたちもこの間退院することができた。
そして今日は野球部の大会の日。山本くんも入院していたけど、無事怪我も治ったし選手として出場することができた。私たちはその試合を見に来ている。

「うわあ…、すごい人」

席はみんな満員で、その分歓声もすごい。ちょくちょく女の子特有の黄色い声援が聞こえるけど、すべて山本くんの応援らしい。その山本くんといつも険悪っぽい獄寺くんも、方向性は若干ズレているもののしっかりと応援してしている。…ビアンキさんが登場したことで倒れたのはお約束だけど。
すると突然隣にいた綱吉くんがビクッと肩を震わせたためにそちらに顔を向けると、その顔が真っ青になっているのに気付いた。

「どうしたの、綱吉くん?」
「あ、いや…なんでもない。…気のせい、だよね」

まわりをキョロキョロしていたので私も見回してみるけど、すぐ後ろを母親と男の子が通っただけで怪しいものはなかった。



野球大会も無事に終わりこれから帰宅しようと思っていたけど、大会で勝利したことと退院祝いの報告を受けて山本くんのお父さんが祝賀会を開いてくれるそうだ。山本くん家はお寿司屋さんを営んでいて、味も絶品だとか。
「お邪魔します」といってお店にはいると、テーブルには豪華な盛り付けをされたお寿司が並んでいた。私も含めてここにきた全員が高揚したのがわかる。今日はサービスということで食べ放題らしい。太っ腹です山本くんのお父さん…!

「亜衣ちゃん見てみて!お魚一匹丸ごとのってるのがあるよ!」
「ほんとだ!確か、鯛の姿造りっていうんだっけ」
「はひー!豪華ですー!ハルたちまでこんなご馳走をいただいていいんでしょうか…!」

京子ちゃん、私、ハルちゃんは目の前のご馳走に釘付けだ。そしてそれに対して、遠慮しなくていいといってくれた山本くんのお父さんがとてもいい人すぎます…!

「それでは!野球大会が無事終わったことと、みんなの退院を祝して、乾杯!」

山本くんの言葉により、みんなのグラスがカチンと鳴り響いた。


お寿司はどれも本当に美味しい。口に入れた瞬間にとろりと溶けていくような感じがまたたまらない。私もお寿司はたまに食べるけど、本当にこんなに美味しいお寿司は初めてで自然と笑顔になっていくのが自分でもわかった。

「亜衣」

そろそろお腹いっぱいになってきたかなと思っていたときに、ふとリボーンくんに声をかけられた。けどリボーンくんは何も言わずに外に向かって歩いていってしまう。
外に出ると綱吉くんもいた。何かあったのかな…?

「まず亜衣にはこれを返すぞ」

そう言われて渡されたのは黒い手帳。そういえばずっと預けっぱなしだったっけ。私は手帳を受け取るとなんとなく中身をパラパラとみてみる。とくに変わりはない、ましてやテストみたいに丸つけしてあるわけでもない。
するとリボーンくんが「これを見ろ」といって一枚の手紙のようなものを広げる。驚いたのは内容ではなく手紙に死ぬ気の炎が灯されていたことだ。

「9代目の勅命だぞ」

9代目?綱吉くんが10代目候補だから、今のボンゴレのボスってことだよね。なんでそんなすごい人から…と思いつつも手紙の内容に目を向けてみる。でも残念ながらイタリア語のようで私には読めない。

「リボーン、何て書いてあるんだよ?」
「要約すると亜衣を正式にボンゴレファミリーの一員とし、記録係としての任務を遂行しろってことだ」
「…ええっ!?」

せ、せいしき?正式にって…、しかも9代目のって現在のボンゴレボス様から直々のお言葉ってことはもう決定事項というわけで…。

「な、なんで?そもそも私、その9代目には会ったことないのに…」
「亜衣のことはすでにボンゴレに連絡済みだ。9代目がこの決定を下したのは、今までのこととその手帳を見たからだな」

手帳…私からしたら特別なことなんて書いてないように思う。どんなことがあって、みんながどんな行動や成長をしたかとか、自分の思ったこと、感じたことをただ書いているだけ。…でも、それが評価されたんだ。
私が今関わっているのはマフィアだ。認められたといっても、いつもの日常のように学校の先生に自分の学力が認められたとかそんなレベルの話ではない。
骸さんとの戦いで嫌というほど見た、命が関わる世界。そんな危険な世界、私なんか一瞬で消されてしまってもおかしくない場所なのに。
きっかけは文字を書くのが好きだからという理由だけで任されたものだったけれど、いつの間にかそれが日課になって、大切な人たちができて、こうやってちゃんと私を見てくれる人がいる。誰かに認めてもらえるのがこんなにも嬉しいなんて。

「…本当にいいの?亜衣」
「え?」
「前にもいったけど、これで亜衣も認めたらマフィアの仲間入りなんだよ?オレだって10代目とか言われてるけど、ボスになんかなりたくないし」

少し俯き加減でポツリと話す綱吉くん。骸さんと戦っているときも、彼は自分の守るものを考えて戦っていた。マフィアになりたくない、でも自分のせいでまわりの人が危険な目に合う、だからそうならないために戦う。
きっと誰よりもまっすぐな心を持っている人。

「…私も、怖いのは嫌だよ。誰かが傷つくのも自分が傷つくのも嫌。今まで通りこれからも平和に暮らしたい」

多分私も綱吉くんと同じ考えなんだ。平和に暮らすために戦いを避けられないなら、平和を手にするために自分は強くならなければならない。
怪我をするのは痛いだろうしきっと怖い。でも、目を背けたことでもっと最悪な事態を招くことになるならまだ我慢できる。命があれば傷は癒える。命ある平和な日常に出会えるように、私もみんなと一緒に歩きたい。

それに、こうやってマフィアに関わってよかったこともある。綱吉くんたちと会えたことは私にとって世界が大きく変わった出来事だ。
前までの私ならただ学校にいって勉強して、ノート写しもテスト対策としてのみ役立つだけだった。でもみんなと関わったことで友達も増え、ノート写しが記録係として役立つお仕事に変わった。悪いことばかりじゃない、私にとってはとてもいい繋がりだと思っている。
私に記録係になってくれないかと誘ったのはリボーンくん。でも、それを引き受けたのは私。断れる状況だったけど、私は自分の意思で記録係になると決めた。中途半端に投げ出したくはない。

「私は戦えないし、この前みたいに守ってもらうか逃げるかぐらいしかできないけど、自分がやるべきことはしっかり頑張りたいし、みんなと一緒にいたいんです。だから改めて、私もファミリーに入れてください」

私は深々と頭を下げる。ボンゴレに入ることはもう9代目からの言葉で決定事項だけど、あくまでも私は10代目候補である綱吉くん率いるファミリーに入る。だから、綱吉くんにちゃんと返事をもらう必要があると思う。

「…ツナ、どーすんだ?」
「えっ、えっと…亜衣がそんな風に思ってくれて嬉しいよ。ファミリーに入るのも、本当はみんなとも普通に友達でいたいけど、ボンゴレには亜衣が必要で、オレも一緒にいたいし…えっと…」
「さっさとまとめやがれ」
「わ、わかってるよ!…その、こちらこそよろしくね」

綱吉くんの笑顔に私も自然と笑った。これからも私はみんなと一緒にいれるんだ。きっといつか危険なことに遭遇するだろう。それは私の想像をはるかに超えることかもしれない。
でもちゃんと仲間がいる。頼もしくて素敵な人たちがたくさんいるんだ。私もみんなのために自分にできることを頑張らなきゃ。


23.それぞれの平和のために

「ツナ、おまえ話をまとめる前さり気なくすげーこと言ってるのに気付いてんのか?」
「え?オレ、何か言ってた…?」
(おまえも無自覚か…)

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