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すごいなあ…。
バレー部で何度目かのそんな気持ちが溢れた。

ピーッと試合終了の笛が鳴る。それによって勝った町内会チームは輪になって喜びを分かちあい、日向くんたち烏野チームは悔しそうに歯を食いしばっていた。
でも勝敗よりも…とまだコート内にいるみんなを見つめる。

私は先輩たちの間に何があったのかを知らない。それには西谷くんも関係があるみたいでギクシャクしているのはなんとなく伝わってきていた。

バレーに対して何か思うところがある東峰先輩を、菅原さんや西谷くんが必死に訴えかけていた。あんなにひとりで悩んでいた東峰先輩がそれにこたえた。
今回チームは違ったけど、烏野でエースとリベロがそろった試合をみるのはこれがはじめてだった。
それに影響されたのか、すこしトラブルはあったものの影山くんも真剣に日向くんに言葉をぶつけて日向くんも変わろうとしていて。全体の士気がこれ以上ないくらい上がっていた。

鼓膜を震わせるほどの大きな声で菅原さんにトスを呼ぶ東峰先輩の姿はビリビリと身体の芯まで届くように、私の気持ちが揺れ動いた。それはたまにスコアボードをめくり忘れてしまうくらいに。

「お疲れ様、紬ちゃん」
「あ、お疲れ様です」

スコアボードを元に戻しながら清水先輩が声をかけてくれた。私も自分でめくっていたところは直さなきゃと戻していく。

「試合、どうだった?」
「え、あっ…すご、かったです!なんというかそれしか言葉が見つからなくて」
「ふふ、大丈夫。私もそうだから」

清水先輩は本当に綺麗に笑ってくれる。でもなんだかいつもよりもやわらかくみえるのは今の試合を見たからだろうか。

「…嬉しそう、ですね」
「そう見える?」
「はい、とても」
「そっか。でも紬ちゃんもだよ?」

え、と私はきょとんと目を丸めていく。私もとは…とぱちくりさせると清水先輩は緩やかに頬を持ち上げた。

「嬉しそうな顔、してる」




−−−





机の上には一枚の紙。私はそれをじっと見つめていた。

町内会チームとの練習試合から数日経ち、もうすぐGW合宿がはじまる。持っていくものの準備だったりどんな練習内容になるのかだったり考えることは人それぞれの中、私は自席に座って目の前の紙とにらめっこを続けていた。

「白咲さん、どうしたの?部活行かないの?」

そんなとき後ろから声をかけられる。そちらに振り向くと縁下くんが不思議そうな顔をしながら私の手元を覗き込んでいた。

「あ、それ…」
「縁下ァ!ノートまじで助かった、ありが…っ」

縁下くんの声と、教室のドアから田中くんの大きな声が同時に重なる。え、と思って振り返ると田中くんはノートを片手に私と縁下くんを目を丸めながら交互に見ていた。

「お前ら…ッいつの間にそんな距離が近く…」
「…何を想像したのか知らないけど普通に話しかけてるだけだからな」
「放課後の教室で二人っきり、そこにはただならぬ関係が…!」
「お前の目には何が見えてんの?」

ホームルームが終わったばかりでまだガヤガヤと賑やかな教室内。二人っきりとは程遠い中で腕に顔を埋めながら泣き真似をする田中くんに縁下くんは呆れた表情を浮かべた。

「気にしなくていいからね」
「あ、はは…」

どういう反応をすればいいか困った私に縁下くんは優しくそういってくれた。
田中くんは他のクラスだし今まで全く関わりはなかったけど、バレー部に行くようになってからいつも明るくて騒がしくてムードメーカー的な存在なんだと思うようになっていた。
対して縁下くんはそのストッパー役と言ったところだろうか。


「それ、書くの?」

話は元にもどり、再び私の手元を覗きこんだ縁下くん。私もまた視線を紙にもどすと、つられた田中くんもなんだなんだとこちらに歩み寄ってきた。

「あっ、これ入部届か!?」

驚いて声を上げる田中くんに私は少々俯いたままこくりと頷いた。

いつぞやに縁下くんからもらった入部届。次にこれを手に取るときは迷いなく自分の名前が書けますように。そんな思いを込めてしまっておいたそれを今机の上に広げている。

「白咲…!」

感極まった田中くんに名前を呼ばれながら私はボールペンを手に取り、名前を書く欄にゆっくりと綴っていく。

入部届
バレーボール顧問殿
二年 白咲 紬

コトリ、と持っていたボールペンを静かに机に置く。真ん中に折り目のついた入部届の紙に見慣れた自分の名前が刻まれた。

「よっしゃあ!これでマネージャー二人目!」
「田中声大きいって」
「それくらい嬉しいんだよ!よろしくな白咲!」
「うん、よろしく!」

全身で喜びを表現するかのようにガッツポーズをする田中くんに私も嬉しくなっていつもより声が弾んだ。縁下くんもそんな田中くんにちょっぴりため息をつくけど、「よろしくね、白咲さん」と笑みを向けてくれた。

「この入部届って澤村先輩に渡せばいいんだよね?」
「うん、それで大丈夫」
「いや待て!」

そろそろ部活に向かわなければと鞄と紙を持って椅子から立ち上がるも、何故か田中くんが手のひらで制した。どうしたのだろうと私は首を傾けるけど、縁下くんはすぐに何かを察したのかわずかに口端を引き攣らせた。

「俺に…いい考えがある」

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