※かっこいい及川さんはいません。




うちの学校、青葉城西にはかっこいい人がいるという噂を何度も耳にする。もちろん趣味は人それぞれ。"かっこいい"にもいろんな種類があるわけで、それが顔なのか性格なのか仕草なのかは人による。その噂によると、顔はもう爽やかで文句無しのイケメン。性格も物腰柔らかで学年関係なく、それどころか他校の女子にも人気があるとか。
頭も良くて運動神経抜群でかなりの長身らしい。容姿端麗で成績優秀で運動神経抜群で長身なんて、三拍子どころかいいとこどりして恵まれまくったような人間がこの学校に存在するということに驚きを隠せないが、三年生になった今でも私はその人物を見たことがない。クラスは違うし帰宅部の私は放課後は寄り道もせずにすぐ帰ってしまうから時間が合わないんだろう。

「あ、なまえちゃん見つけた!ねぇ!」

どうやったら会えるのだろうか。会いたいわけではないのだけど、そんな漫画みたいな人物これを逃したら一生拝めないかもしれないという気持ちから一度でもいいからどんな人物なのかこの目で確かめてみたい。

「あれ、聞こえてる?おーい、なまえちゃーん?」

まず私は噂しか知らないのだから友人にどんな感じの人なのか聞いてみる必要があるな。生憎友人はもう部活に行ってしまったし、明日にでも特徴とかを聞いてみよう。私も帰って今日出た宿題やらなきゃだしね。よし、明日からまずは情報収集だ!

「ちょっと!この距離で聞こえてないの!?何で!?」



次の日、友人によるとその人はバレー部に所属している三年生でしかも主将らしい。どうりで身長が高いわけだ。でもバレー部かあ。グラウンドで練習しているサッカー部とかなら何となく見覚えがあっても体育館で練習しているバレー部とは全く接点が無いからなあ。
そんなことを考えている今はお昼休み。楽しくておいしいお昼ご飯を終えたところで飲み物を買いに行こうと私はひとり廊下に出た。そんなときやたら廊下が騒がしいなと思ってそちらに視線を向けると学年問わず女子生徒たちがとある人物に黄色い声をあげながら群がっているのが見えた。…なんだろうあれ?
囲まれているのはひとりの男子生徒。こちらに背を向けているため顔はわからないけど、まわりの女の子たちと比べるとかなり背が高い。何やらその子たちから差し入れみたいなものを貰っているみたいだけど…。
あ、もしかしてあの人が例の"かっこいい人"?まさかこんなすぐに出会えるとは思ってなくて驚いたけど、どんな人なのか確かめるチャンス…!あの中に私も混ざればいいのでは!?

「あ、なまえちゃ、「なまえ〜次移動教室だから早く行こー!」」

さっそく行動を開始しようとしたところで教室内から友人に呼ばれてしまい、顔を拝むことは出来なかった。次の授業は…あ、あの先生だ。怒ると怖いから確かに早めに行って座ってたほうがいい。急いで教室に戻ると教科書とノートと筆記用具の準備をした。…あれ、そういえば今友人の声に被って誰かに呼ばれてなかった?んー、気のせいか!



放課後。この時期は放課後でもまだ太陽は高く日差しも強い。まともに上を見ることはできない暑さの中で部活をしている生徒たちは本当にすごいな。
そんな私は例の"かっこいい人"を拝むために体育館へと向かっていた。その人いるかな?いや、主将なんだからいないってことはないか。でもどんな顔なのかは全くわからないからなあ。うちの学校のバレー部はみんな背が高いみたいだし、どの人かわからなかったらどうしよう。

「なまえちゃん!」

そんなとき私の足元に影が出来たのに気付き、同時に名前を呼ばれる。あれ、私を名前で呼ぶ男の子なんていたっけ?と不思議に思いながらゆっくりと顔をあげた。

「やっと気付いてくれた!俺が話しかけても全然こっち見てくれないし」

が、ちょうどその人物の後ろに太陽があるせいで逆光になり顔が影になってしまって誰なのかよくわからない。それどころかまるで後光が差してるかのように眩しくてまともに目を開けていられず、その眩しさに眉間にシワを寄せてかなり目を細めていないと顔もまともに上げられない状況だった。

「…って、え!?なんでそんな凄い嫌そうな顔してんの!俺まだ何もしてないよね!?」

眩しい!素晴らしいくらいに眩しすぎるよ太陽さん!もうそろそろ夕方になるんだから大人しくしてくれてもいいんじゃないですかね!おかげでこの男子生徒が誰なのかわからないよ!この人どなた?私の名前呼んでるってことは知ってる人だよね?水色のTシャツを着ているのが辛うじてわかるけど肝心の顔がわからない!貴方は誰なんですか!私はこれから"かっこいい人"とやらを見に体育館に行くんですからそこをどいてほしいのですが!

「待ってなまえちゃん!そんな顔しないでまずは普通に会話からはじめよう!?」

お前は誰だ!顔が見えん!私が用があるのは"かっこいい人"なんです!まずはそこをどくところからはじめよう!?



「…岩泉さん、及川さんどうしたんですか」
「最近気になる女が出来て何度も話しかけてるのに文字通り眼中に無い対応をされてる及川の図だ」
「初対面…?」
「いや、委員会で一緒になったことがあるっつってたな。でもあの分じゃ忘れられてんだろ」
「あー…」
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