捧げ物 | ナノ


▽ いつもと違うキミ


「………椿!」

「如月っ!」


ある日の放課後に勢いよく保健室の戸が開けられた。そこには息を切らした野郎二人。


「あら、土屋君に平賀君。どうかしたのですか?」


そんな野郎二人、もとい土屋と平賀に驚いて目を丸くする如月椿は保健室の丸椅子に座っていた。


「「…………」」


勿論、その反応に言葉を失った二人。
目の前に居る奴は誰だ。自分らが知っている如月椿はそんな喋り方はしない。


「あ、如月さんね、」


すると彼らの疑問に答えるかのように保健室の先生が口を開いた。


「頭を打ったみたいなのよ」


どうやら打ちどころが悪かったらしく、如月は頭がおかしくなった(?)らしい。
いつもはサッパリした口調だが、今は丁寧な口調で喋っておりオーラもおしとやかでなんだか変な感じだ。


「…………気持ちが悪い」


怪訝そうな顔で言う土屋。平賀も隣で静かに頷いた。


「気持ち悪いのですか!?休んだ方がいいですよ…!」

「「…………」」


そういう意味で言ったわけではないのに、真面目に心配されて調子が狂う二人。いつもは反論するというのに…これは重傷だ。
すると、保健室の先生はあぁ!と手をポンッと叩いた。


「あなた達が頑張れば如月さん…元に戻るんじゃないかしら?」

「「…………はい?」」


先生はそうよ!きっとそうよ!とキャッキャ喜びながらじゃぁ、あとは任せたよとにっこり笑って何処かへ行ってしまった。おいおい、保健室の先生がそんなのでいいのか?

先生が出て行った途端、保健室は沈黙に包まれた。
まさかこの3人で同じ空間にいるとは今まで予想もしていなかった。


「どうする、コレ」

「…………どうすると言われても」


そんな会話をする二人。目の前には(性格的な意味で)変わり果てた如月が首をかしげている。


「二人とも難しそうな顔をしてどうしたのですか?」

「いや、どうもしない」

「…………(コクリ)」

「……?そう、ですか?」


二人の反応にイマイチ納得していない如月。


(それにしてもどうするか。土屋さえ居なければ良かったものの…)

(………平賀、邪魔)


お互い思っていることは同じ。
自分1人ならば、と。


「一つ提案があるんだが」

「…………俺も」


二人の間には静かに火花が散っている。


「先に如月を元に戻せた方が勝ち」

「…………望むところ」


以前から思っていた…コイツには負けたくない、と。


「如月」

「ん、なんですか平賀君?」


先手を打ったのは平賀だった。


「最初の化学のテスト、覚えているか?」

「………化学…」

「ほら、お前が俺のテストを勝手に取った」


如月がクラストップを取った化学のテストのこと。あの時如月は自分の方が点数高いくせに平賀のテストを取って彼の点数を確認した。


「あ、あの時は…申し訳ございませんでした!」

「「…………は」」


凄い勢いで謝られると思っていなかった平賀は思わず間抜けな声が出た。隣にいた土屋も自分の知っている如月ならこんな謝り方をする奴ではないということは知っている。


「私、どうかしていたんです。本人の了承を得ずにテストを取るだなんて…」

「「…………」」

「この身で償いますっ!」

「…………!?(ブシャァァ)」


如月は顔を真っ赤にしてそんなことを言うもんだから、土屋は変な方を想像し鼻血を出す。


「如月、そこまでしなくてもいい」

「で、でも…」

「頼むからカッターをしまってくれ」


ちなみに平賀は冷静で土屋のような想像はしなかった。
それにしても…如月は常時肌身離さずカッターを持ち歩いているのか?うっかり怒らせたりでもしたら大変なことになるぞ。


「…………椿」


次は土屋の番。平賀と違って如月の事は名前で呼んでいるが、如月はその記憶すら飛んだというのか、顔を赤くして照れ始めた。


「つ、土屋君…?」

「…………その"土屋君"ってのどうにかしてくれ」

「え、な、なんででしょうか?」

「…………いつもみたいに"康太"って呼んで」

「ええええ!?」


名前で呼んで、と言われて如月は両頬を手で覆い、一歩後ろへと下がった。
その反応は新鮮で可愛い。


「わ、私…そんな風に呼んでいたのですか?」

「…………(コクリ)」


そ、そうだったのですか。と顔を赤くしている。


「じゃぁ、平賀君のことも…」

「え?」

「源二、って呼んでいたのでしょうか?」


照れたように如月が言ったと同時に平賀は慌てた。


「なっ、お、俺は―…」

「…………そんな筈はない」

「…………」


が、土屋が即座に反応して邪魔をした。お陰で頬に集中した熱は一気に冷めてしまった。


そしてまた沈黙が続く。


ガラガラ―…


そんな中、保健室の戸がいきなり開かれた。


「代表。こんなところに居たのですか!」

「清水?」


Dクラスの清水美春が珍しく代表こと平賀を探して保健室までやってきた。いつもなら島田美波を探し回っているのに珍しいこともあるものだ。


「Eクラス代表が来ています。早く教室に戻って下さい」

「え、でも俺は、」

「早く!」

「ちょ、そんなに引っ張るなよ」


問答無用といった感じに清水は平賀の腕を掴み、保健室から姿を消した。


「平賀君、行ってしまいましたね」

「…………(コクリ)」


保健室の戸を見つめて如月は少し寂しそうに呟くが、そんな様子をみた土屋は面白くないといったように如月から視線をそらして頷いた。


「…………やっぱり、好きなのか?」


土屋は気付けばそんな質問をしていた。
以前も似た質問をしたが、あのときはいつもの素直じゃない如月で…、今ならもしかしたら素直な気持ちが聞けるかも知れない。


「ちちち違いますよ!」

「…………」

「う、疑ってます?」

「…………多少」

「うぅ…」


如月は土屋に視線を合わすことができなくて、フイッとそらした。


「正直に言ったら信じてくれます?」

「…………勿論」


じゃぁ、と如月は意を決したように土屋を見つめる。


「私の好きな人は、別の人です」

「…………誰?」

「そ、それは…!」

「…………?」

「い、今は内緒ですっ!」





ちなみに翌日には如月は元に戻り、平賀と土屋に「昨日のことは忘れろ!」と言われたのは言うまでもない。





いつもと違うキミ

…………元に戻ったけど、調子狂う。





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後書き
キリ番7300を踏まれた壱檎様からのリクエストでした。
内容は連載番外の土屋vs平賀の土屋オチと言うことで…。
連載番外編リクは初めてだったのでテンションあがりました!←
が、なんだかグダグダした内容になってしまいました…。

こんなものでよければ壱檎様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2011.11.23)
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