捧げ物 | ナノ


▽ 時よ止まれ。


「雨、かぁー…」


放課後。
私は下駄箱でポツリと呟いた。一応、傘は持ってはいるが、どうも帰る気が起きない。
まぁ、徒歩だからというものあるけど、雨の日の下校ほど面倒なものはない。

私は傘立てから自分の傘探していると、目の前が少し暗くなった。
誰かが向かい側に立っている、と思って私は顔を上げてみた。


「あれ、康太?」


幼馴染である土屋康太がそこに居た。


「今から帰り?」

「…………(コクリ)」

「じゃあ、一緒に帰ろっ!」


私と康太は下校時に出会えば一緒に帰ることにしているので、私はいつものように声をかけが、康太は珍しく首を横に振った。


「…………傘、忘れたから」


走って帰る。だからいっしょに帰れない、と言う康太。
いやいや、濡れて帰ると風邪引くでしょ?そんなのダメに決まっているじゃない。

私は康太の隣に行って自分の傘をスッと差し出した。


「仕方ないから入れてあげる」

「…………」

「……嫌なの?」

「…………そんなことはない」


無言だから嫌なのかと思ったじゃない。
私は安心すると自然と笑みがこぼれた。


「じゃ、一緒に帰ろう」

「…………(コクリ)」


バサッと傘を広げて、傘を差そうとすると横から手が伸びた。


「…………持つ」


康太である。
や、でも、持つって言ってもコレ、女モノの傘だよ?それを男である康太が持っていたらアレじゃないの?


「いや、いいよ。私が持つ」

「…………遠慮しなくていい」

「あ、ちょっと」


私の言葉を無視した康太は私の手から傘を取り、


「…………早く」


と急かした。
私は、少し笑いながらも


「……うん」


と、頷いて康太の右隣へと入って行った。
こういう時、私の言葉を無視したりするのはいつものことだけど、これって康太なりの優しさなんだよね。非常に分かりづらいけれど。


「康太ってさ」

「…………?」

「優しいよね」

「…………そんなことはない」


ほら、こうやって言葉にすると、いつも康太は照れる。顔を赤くして。
そんな反応を見るのが結構好きだったりするんだよね、私は。


「ふふ、そういうことにしてあげる」

「…………」


康太はムスッとして無言で歩き続ける。
そんな康太を見て何故だか頭を撫でてあげたい衝動に駆られたが、私はその気持ちをグッとこらえた。
康太のことだから更に機嫌が悪くなるに違いない。



そして早いもので、康太の家の近くまで着いてしまった。
ちなみに、私と康太の家は近く、学校から家までの距離は康太の方が短い。
私の家は康太の家から100mぐらい行った先にある。


「…………入れてくれて、ありがとう」


傘を私に返すとそう言う康太。


「良いよ。私と康太の仲じゃない」

「…………そう」


すると私の頬に何やら柔らかいものが当たった。


「こ、康太!?」


そう、康太の唇が私の頬に落ちた。俗にいう、キスである。
私はビックリして声を上げた。勿論、頬も赤く染まっている。


「…………入れてくれたお礼」


いつもはだたの変態なのに、こういうときだけカッコイイのってずるい。


「…………惚れた?」

「ほ、惚れてないっ!」

「…………」

「な、何よ。その疑いの眼差しは」

「…………別に」


惚れた。と言うより、惚れ直した、と言った方が正しいのかもしれない。
でも、正直に康太に言うなんて私には出来ない。恥ずかし過ぎて。

すると、康太は、"でも"と言葉を続けた。


「…………俺は、好きだけど」

「………!?」


な、何を言っているのかな、このお方は!?


「…………椿のことが、好き」

「…………」

「…………俺のこと、嫌い?」


そ、そんなの決まっているじゃない。


「……す、好きだよ。勿論…」


耳まで真っ赤だったに違いない。
あぁ、康太の家の前で私たちは一体何をやっているのだろうか。幸い、康太のご家族の方に見られてはいないが。


「…………良かった」


すると今度は康太は頬ではなく、私の唇にキスをした―…

この時ばかりは、時間が止まってほしいな、なんて、思ったりした。





時よ止まれ。

…………椿の唇、柔らかかった。





++++++++++++++++++++++++++
後書き

瑠華様からのリクエストを書かせて頂きました。
土屋の甘甘なお話という内容でした。
どちらかといえば甘甘より甘に近いような気がするのですが(汗)
すみません、私の妄想力が足りないばかりに!←
こんなもので良ければ瑠華様のみお持ち帰り出来ます。

リクエストありがとうございました!
(2011.11.3)
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