捧げ物 | ナノ


▽ 夕焼け色に染まる


「あぁ…本当に暇だな」


自分の席に座り頬杖をついてポツリと呟いた。
暇なら帰ればいいじゃない、と普通思うのだが帰ろうにも帰れないんだ。
いつも一緒に帰る康太がまだ帰れる状況ではない。まぁ、理由は試召戦争をしているからなんだけど。


「いつ終わるのかなぁ…」


私は机に突っ伏した。待つだけというのは暇すぎる。
だったら何か暇つぶしでもすればいいんだけど、生憎暇つぶし道具を持ち合わせていない。勉強、という手もあるがどうも今はその気分じゃなくて。


「よし、寝るか」


寝るのが一番いい。と、いうことで私は寝ることにした。
ちょっと寒いけど、まぁ少しくらいは大丈夫だよね。


* * *


どれくらい寝たのだろうか。もう試召戦争は終わったのかな?
私はゆっくりと目を開け、そして顔を上げた。


「…………おはよう」

「え、康太!?」


そこには居る筈の無い康太が居た。いつの間に!?


「…………ついさっき来た」

「そ、そう…」


どうしよう。思いっきり寝ていたところを見られた?
あぁ…寝顔を見られる程恥ずかしいものはない。アホ面じゃなかったよね?大丈夫よね?


「…………ここ」

「え?」


康太が"ここ"―…口元を指さして言う。一瞬私は何がなんだかわからなかったがハッとした。
ま、まさか…よだれ垂らしていた!?
私は慌てて口元を手で拭いた。


「…………おもしろい」

「面白くないよ!!」


いたずらっ子の少年のような笑みを浮かべている。


「…………実は冗談」

「えっ…?」

「…………椿はからかいがいある」

「からかわないでよ!」


もうっ!と怒ると私は違和感を覚えた。
あれ?よく見たら康太はブレザーを脱いでいる。
寒いのにどうしてだろう?と疑問に思ったが理由は私にあった。
今まで気が付かなかったけど私の肩に康太のブレザーがかけられていた。


「康太、これ…」

「…………椿が風邪引くといけないから」


私にかけてくれたらしい。
でも、それじゃあ康太が寒いじゃないの。
私は慌てて康太にブレザーを返した。


「ご、ごめんね?」

「…………何故謝る」

「だって私が起きるまで寒い思いしてたんでしょ?」

「…………そんなことはない。―…くしゅんっ」


言った傍から康太はくしゃみをした。
ってもしかして私が起きるずっと前から待っていたんじゃないの!?


「…もしかして、嘘ついた?」

「…………!!(ブンブン)」

「正直に言って。いつ来た?」

「…………1時間前」


ほら!やっぱり"さっき来た"って嘘じゃない。
1時間もブレザー無しで教室で待っていると寒いに決まっている。


「私だって康太が風邪引くと困るんだから!」

「…………俺は困らない。むしろ好都合」

「何でよ」

「…………風邪引いたら椿が来てくれる」

「なっ!?」


康太は何で平気でそんなセリフを言うことが出来るのかな。聞いてるこっちが恥ずかしくなるんだけど。


「そ、それでも私は困るっ!だから早くブレザー着てよ!」

「…………」


そして康太は無言でブレザーを着始めた。
カッターシャツだけの姿も良いけどやっぱり冬服の方が新鮮でいいな。今まで夏服だったわけだし。
前から思っていたけど、康太って顔も整っていて身体も細身だよな…。
おとなしいしFクラスだから目立ってないけど、これがもしも女子の居るクラスに行ったらモテるんじゃないかと思うくらい。


「…………何?」

「えっ、いやぁ何でもないよ!」


まぁ、思っても口に出すことは出来ないわけであって。
だってそうでしょう?言うのも恥ずかしいし聞く方も恥ずかしいに決まっている。
それにモテるモテないって話を言ったら変な感じになりそうだし。


「ほ、ほらっ!は、早く帰ろう?」

「…………何故そんなに急ぐ」

「何でもいいでしょ!」


本当は話を逸らしたいために急かしているんだけどね。
つまり、早く帰る意味はない。

私はノロノロと帰る準備をする康太を置いて先に教室を出た。
遅れて康太も教室を出て廊下を歩く。


「…………忘れてた」


が、数歩歩いたところでピタリと足を止めた。


「ん、何を?」


康太がそう言うので私もピタリと止めて、康太の方を向いた。


「…………待ってくれて、ありがとう」

「―――!?」


私は思わず顔が赤くなった。
も、もうっ!急に真面目にお礼言わないでよ!
いきなりだから反応に困るでしょ。

私は小さく頷いて、また歩き出した。





夕焼け色に染まる

…………椿の反応一つ一つが、面白い。





++++++++++++++++++++++++++
後書き

つき様からのリクエストを書かせて頂きました。
初めてだったので嬉しく思っています!(笑)

ほのぼので優しい土屋という内容でした。
自分のブレザーを椿さんにかけるところとか優しいと思うのですが…どうでしょうか(笑)これで風邪引いたら美味しい展開ですよね!
…すいません。そろそろ黙ります。
こんなもので良ければつき様のみお持ち帰り出来ます。

リクエストありがとうございました!
(2011.10.17)
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