捧げ物 | ナノ


▽ これが私の一番うれしいこと


最近、奴の様子がおかしい。

「康太ー。一緒に帰ろう!」

奴というのは私の幼馴染の土屋康太。クラスは違うけれど、放課後になると私はいつも康太の教室に行って一緒に帰ろうと声をかける。

「…………今日は無理」

少し前までは、断られたことがあっても(そのときは多分ムッツリ商会のためだろう)、毎日ではなかったけれど、ここのところ毎日断られる。

「"今日は"、じゃなくて、"今日も"じゃないの」

「…………そんなことはない」

「そんなことある!最後に一緒に帰ったのはいつよ」

「……」

と、康太は口をつぐんだ。
ほら、思い出せないぐらいずっと一緒に帰ってないじゃないの。

「…ねえ、なんの用事なの?私に言えないこと?」

「……」

「ムッツリ商会のことだったら私気にしないよ。待つよ」

「…………待たれても困る」

やっぱりおかしい。
いつもならば、待って居ても文句は言わないし(ちなみに待っている間は課題をやっている)
それに、言えないことなら言えない、っていつもなら言うのに康太はだんまりだった。

「ねえ、康太―…」

「……あれ」

正直に言ってよ、と、続く筈の言葉は、康太によって遮られてしまった。
なんだろう、と、彼が指をさす方向に視線を向ける。窓の外に何かあるのだろうか?

「って、何も―…」

ないよ、と振り返ると、そこにはもう康太の姿は無かった。
つまり、逃げられた。

「……私、康太に嫌われたのかな…」

ため息と同時に出た言葉は虚しく教室に響いた。

* * *

次の日も、そしてまたその次の日も康太に避けられた。

「ねえ、康太―…」

「…………今日は明久たちとゲームを買いに行くから」

「私も一緒に行ったら駄目?」

「…………男だけで行きたい」

「そう、だよね…」

またあるときは、

「康太!今日の夕方雨が降るってさ。降る前に一緒に―…」

「…………すまない。ムッツリ商会で限定販売行なうから」

「そっか…」

そしてまたあるときは、

「康太…」

「…………今日は掃除当番」

「それぐらい待つよ」

「…………そのあとは鉄人の補習」

「…………」

いつもなら待つけれど、康太の目は「待つな」と言っていた。

「補習、頑張ってね」

私は精一杯の笑顔で康太に言ったけど、正直、ウソ臭い笑顔だったと思う。

「……」

誰も居ない教室に入って自分の席に座って康太のことを考えた。
最初は嫌われているなんて気のせいと思っていたけれど、こうも毎日毎日断られていたら、嫌いと言っているようなもので、流石の私も精神がもたない。情けない話だがいつ泣いてもおかしくない。

「明日からは1人で帰ろう…」

会うから、会話をするから泣きたくなるんだ。悲しくなるんだ。
だから、少しでもその気持ちが無くなるように、暫く康太のクラスに行かないようにしよう。

* * *

翌日の放課後。
康太に会わないようにと足早に下駄箱に向かった。何も言わずに帰るのも気が引けるが、どうせ断られるのだから、と自分に言い聞かせて。

「…………椿」

帰ろうとしたら私の椿を呼ぶ声が聞こえた。声の主は、最近、様子がおかしい康太。
思わず心臓がドキリとした。

「あ、きょ、今日は康太に迷惑をかけずに帰ろうと思ったんだけどなぁ。見つかっちゃったな…」

あはは、と、無理して笑った。
本当は笑いたくない。笑える状態じゃないのに。でも、笑わないと変な空気になっちゃうから笑うしかない、と思うと気持ちが悪くなってきた。

「…………これ」

私の気持ちを知らない康太は私に小さな紙袋を差し出した。
なんだろ、コレ。私、落し物した?いや、でも、知らないよ?
私は良く分からなくて康太の顔を見る。

「…………誕生日プレゼント」

「あっ…」

康太にそう言われて思い出した。
そうだ、今日は私の誕生日だ。小さい頃は自分の誕生日が待ち遠しくて仕方がなかったけれど、中学生、高校生となると段々と興味が無くなったせいで、「もうすぐで自分の誕生日だ」と認識しなくなった。

「…………椿の欲しいものが分からなくて」

気に入るかどうか分からないけど、と康太。
私は何も言わずに封を切り、中身のプレゼントを見ると、そこにはキレイなシルバーのブレスレットがあった。

「――っ!」

刹那、私の目から自然と涙がポロポロと零れ、今まで我慢していた気持ちが一気に溢れ出した。
康太は私のことを避けてたわけじゃないんだ…。

「…………気に入らなかった?」

康太はオロオロするが私は違うの、と首を振る。

「嬉しい、嬉しいの…。私、康太に嫌われたと思っていたから」

「…………そんなことはない」

「だって、康太ってばずっと一緒に帰ってくれなかったし、声をかけてもなんか歯切れが悪いし」

「…………ごめん」

と、康太はハンカチで優しく涙をぬぐってくれた。
私は首を振るので精一杯。

「……ありがとう。大事にするね」

康太に嫌われてなくて良かった。本当に。

「康太に嫌われてなくて嬉しいです」

「…………日本語がおかしい」

「ふふふ、そうかも」

これからも康太と一緒に帰っていいんだ。隣に居ていいんだ、と思うと、そんな言葉が出てきて、笑った。

「…………今日は一緒に帰ろう、椿」

「うんっ」





これがわたしの一番嬉しいこと
(これからも康太の隣に居れること)





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後書き

企画サイト『祝福、』様へ提出した土屋夢です。
提出期限が2ヶ月後ということで大慌てで作成しました(早くしろよおい

ずっと書きたいと思っていたシチュエーションで書かせて頂きました。
土屋って勘違いされそうですよね。で、ヒロインちゃんに泣かれてオロオロしそう。

参加させて頂きありがとうございました!
楽しく書くことが出来ました^^
(2012.09.14)
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