▽ 報酬はソレです
「…………?」
次の授業は移動教室で秀吉と廊下を歩いていたら気になるものが見えてきた。
Bクラス代表の根本と、同様にBクラスの如月椿。
如月は1年の時に同じクラスだったが、その時と今とでは雰囲気がまるで違う。アイツは根本みたいな奴が大嫌いな筈なのに…何故肩を並べて歩いている。
……いや、たまたまなのかもしれない。同じクラスであるならば一緒に歩いていてもおかしくない。が…
(…………笑顔がない)
如月はあんな奴だったか?俺の記憶が正しければ良く笑う明るい女子だった筈。今見れば、その面影は全くといっていい程ない。
「どうしたのじゃムッツリーニ?誰かを見よったような気がしたのじゃが…」
「…………なんでもない」
頭の中で考えいると秀吉が話かけてきたが何事もなかったかのように振る舞った。
これは如月について調べてみる必要があるな。
* * *
授業が終わって男子更衣室に向かい、Bクラスにしかけてあったカメラ、盗聴器、その他如月が通りそうな箇所をチェックした。
やはり、どれを見ても如月は無表情。むしろ苦痛な表情を見せていた。
1年のころは色んな奴と話していたイメージがあったが、隠しカメラに映っていたのはどれも根本と一緒に歩いていた。
(…………どういうことだ)
分からない。如月がどうして根本と一緒にいるのか。
ガチャリ
むう、と考え込んでいると、男子更衣室に人が入って来た。誰だ、と思って視線を向けてみるとどうやら同じ学年の男子生徒だった……が、男子には興味がないために何処のクラスかは知らない。
(…………まあ、誰が来ようが問題はない)
ロッカーの中に置いてあるパソコンで作業をしていると、話声が聞こえてきた。
「Bクラスの代表さ、アイツなんなんだろうな」
「ん?」
「Cクラス代表と別れたと思ったら今度は同じクラスの奴と付き合い始めてさ」
「あー…Bクラスの如月だっけ?」
「そうそう。なんであんな奴がモテるんだろうなー。なんか腹立つわ」
……如月が根本と、付き合っているだと?そんなバカな。
俺は気付かれないように聞き耳を立て続ける。
「いや、根本の場合はモテるとかの話じゃないだろ。どうみたって」
「……どういうことだ?」
「Cクラス代表の時は相手の好みがアレだったって噂だぜ。如月は知らないが」
「まあ、どっちにしろ根本は気に食わないな。関わりたくもないけど」
此処で会話は終了し、着替えを済ませた男子生徒は出て行った。
……とりあえず情報は得た。如月は何故か根本と付き合っている。が、きっと何か事情があるに違いない…。
俺は、次の行動に移すため更衣室から出て行った。
「…………如月」
更衣室から出ると無表情の如月がそこに居たが、俺なんか気にせずにスタスタと歩いて行った。
……名前呼んだの聞こえなかったのだろうか。
いや、それよりもいつも根本と一緒なのに、今は何故か1人でいる方が気になる。トイレにでも行った帰りか?
まあ、何でも良い。これはチャンスだ。
「…………如月っ」
今度は腕を掴んで引きとめると如月は一瞬驚いた顔を俺に見せたが、最近同じみの無表情へとすぐに変わった。
「……土屋君。私に何か用?」
やはりおかしい。1年の時は話かけたらもっと楽しそうにしていたのに今では正反対だ。
「…………根本と付き合っているのか?」
「……そうだけど。土屋君には関係ないじゃない」
確かに俺には関係ないが、変わり過ぎた如月を放っておくわけにはいかない。
「…………本当に根本の事が好きなのか?」
「好きじゃなきゃ付き合ってないよ」
「…………だったら何故つらそうな顔をする」
「…………」
「…………好きで付き合っているなら普通は幸せそうな顔をする」
「…………」
「…………如月からはそんなオーラは感じられない」
そう。付き合っているのなら普通の女子は幸せオーラを出すはずなのに、そんな様子は全くない。
「……なんなの一体」
「…………」
「土屋君には関係ないでしょ!」
如月は目に涙をためて拳を握っている。
「私が誰と付き合おうと土屋君には支障ないでしょ!?どうして構うの!?ただの元クラスメイトなのに!」
確かに如月の言う通り。ただの元クラスメイトなのに、どうしてここまでするのだろうか?
ムッツリ商会のため?いや、違う…
「…………俺は、如月の笑顔をもう一度見たい」
そうだ。1年の時、俺は如月の写真を撮っている時が一番楽しかった。ムッツリ商会の売上にも貢献してくれたし、何せ俺自身の支えにもなっていた。
純粋に、あの頃の如月の笑顔を見たい。だから、俺は此処までやっている。
如月は黙ったまま俺を見つめる。
「……土屋君って。なんでも出来るよね」
「…………なんでもってわけではない」
如月の言うなんでもとは何をさしているのか良く分からないが、如月は思いつめたように口を開いた。
「……私、根本君に弱みを握られているの。バラされて欲しくなければ俺と付き合えって」
「…………」
「こんなことを頼むのはおかしいかもしれない。だけどお願い。助けて下さい……」
「…………分かった」
初めから分かっていた。如月が根本なんかと付き合うわけがないと。
(…………根本め)
俺を本気にさせたことを後悔することだ。
* * *
楽勝だった。
根本だと脅せる要素が沢山あったため簡単に『わ、分かった!お前の言うとおりにする!』となんとも情けない声を出していた。
とりあえず、これで如月は根本から解放された筈だ。
「ありがとう、土屋君。根本君から『もう良い』って言われて!」
廊下を歩いていると、俺の姿を見つけた如月は走って来てそう言った。
1年生の時に皆にふりまいていた笑顔で。
「…………それはよかった」
如月のそんな顔を見ると俺はホッとした。元に戻って良かった。
「……ところで、根本君に握られていた弱みについて気にならなかったの?」
「…………気にならなかったと言えば嘘になる。が、言いたくないことを無理に聞くことはしない」
調べれば簡単に分かるだろう。
が、如月が嫌がることはしたくない、というのが本音だ。
「ふふ。そっか」
「…………?」
「助けてくれたお礼に教えてあげる」
如月は楽しそうに笑うと俺の耳元でこう言った。
『私の好きな人が土屋君だってこと』
そして、俺の頬に何か柔らかいものが触れた。ななな……!?
「これもお礼だよ」
俺は頬を押さえて暫く立ち止まって居て、如月はスキップしながら自分の教室へと戻って行った。
つまり、如月は俺のことが好きでそれを皆にばらされたくなければ俺と付き合え、と根本に言われたのか?
「…………(ブシャァァ)」
そこまでは予想してなかった…。
報酬はソレです…………鼻血が止まらない
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後書き
遅くなってしまい大変申し訳ございませんでした(土下座)
キリ番22000を踏まれた遠山時雨様からのリクエスト「土屋夢でシリアスから甘い話」という内容でした。
シリアスから甘いと言われたら何故か根本が思いつき、根本に脅されて土屋が助ける、という話で書かせて頂きました。
遠山時雨様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました。
(2012.02.19)
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