捧げ物 | ナノ


▽ 恋よ、さようなら


「わぁー…やっぱりカッコイイなぁ…」


私は1年生のころから恋をしてる土屋君を眺めて頬を染めた。1年の時は同じクラスだったけど、2年生になって私はCクラス、土屋君はFクラスに配属されてしまい離れ離れになってしまった。


「あんなの何処が良いのよ」

「友香には言われたくない」


私が廊下の柱に隠れて土屋君を眺めていたら同じクラスで友達、そしてCクラス代表である小山友香が呆れるように言った。本当に友香には言われたくない。だって友香は少し前まで卑怯で有名なBクラス代表の根本君と付き合っていたのだから。私はどうしても奴の良さが分からない。


「だから恭二とはもう終わったのよ」

「ふーん。そっかー」

「興味なさそうね」

「うん、私が興味あるのは土屋君だけだもの」


私はキラキラ目を輝かせながら土屋君を見続けるが、友香があ、あのさ…と切り出しづらそうに口を開いた。


「友達から聞いた話なんだけどさ、椿の好きな土屋君。Aクラスの工藤さんと仲が良いらしいよ」

「え……?」


友香の口から『工藤さん』という名前が発せられて、私は心臓がチクリと痛くなった。


「で、でも、仲が良いだけだから椿だって入りこめる余地あるんじゃないの?」

「………」

「―…ごめん。いきなりこんなこと言って。でも、私、椿が落ち込むところを見たくないの。目撃して知るよりあらかじめ知っている方がいいかと思ったけど―…余計なこと言ったわ」

「ううん。いいの。気遣ってくれてありがとう」


友香が私のことを心配して言ってくれたのは分かるけど、土屋君を見ている時に言ってほしくなかったな、なんてちょっと思ってしまった。
だって、今言われたら折角遠目で眺めることの出来るこの幸せな時間が胸が締め付けられて苦しい時間に変わってしまうから―…。



私は友香に言われた日以降、陰から土屋君を追う頻度を増やした。
本当に工藤さんと仲が良いのか、それともそれ以上なのかをこの目で確かめるために。


「もし…もしも土屋君が工藤さんと付き合っているのだとしたら…」


諦めよう。土屋君の幸せのためにも。


「…………如月?」

「うぇ!?つつつ土屋君!?」


廊下の柱から土屋君を追っていたはずなのに、いつの間にか私の背後に居て声をかけられた。勿論、私は驚いて変な声をあげてしまった。


「…………なに見てた?」

「え、いや。な、なにも?」


ここで『土屋君を見てました』なんて素直に言えるわけがない。恥ずかしすぎて死んでしまう。


「…………そう。最近、如月が何かを見ているようだったから気になって」

「え……」

「…………気になる奴でも居るのか?」


気になる奴、それはあなたです。なんて言えたらどんなに楽だろうか。
私は平常心を保つのに精一杯だった。


「ま、まぁね!高校生だから居てもおかしくないでしょ!?」

「…………」

「あ、あれ…土屋君?」

(…………気になる奴。居るんだ……)


ど、どうしよう。私の言い方が変だったのかな…。土屋君は黙り込んでしまった。


「ご、ごめん…。私、おかしいこと言った……?」

「…………いや、別に」

「つ、土屋君は……気になる人、居るの?」


うわぁぁああああ!!私のバカバカバカ!そんなの工藤さんに決まっているじゃないの!


「…………居る」


―…うん、知っていたよ。そうだと思っていたよ。
あぁ、私の恋は終わったな。


「そ、そっか!お互い頑張ろうね!」

「…………(コクリ)」


こうして私は土屋君との会話を終了させた。

ちなみに翌日も、その次の日も土屋君を目で追ってみたけど、工藤さんと楽しそうに会話をしていた。
これで、私の予想は確実なものとなった。土屋君は工藤さんが好き、と。


「椿。アンタ大丈夫?」

「友香…うん、大丈夫よ」


机に突っ伏している私を見て友香が心配そうに声をかけてくれた。
実は私、今日けじめをつけようと思っていて、それを友香に言っていた。だから声をかけてくれたのだと思う。


「別にけじめなんてつけなくていいんじゃないの?いつもの様に陰から見ていれば」

「ううん。もう良いの。土屋君の幸せのためにも私は身を引くことにする」

「……椿がそう決めたんなら私はもう止めない」

「ありがとう…」


私は友香にお礼を言うと土屋君を眺めるいつもの定位置へと向かって行った。


「…………如月?」

「土屋君」


やっぱり土屋君は声をかけてくれた。でも、これも今日で最後。
私はこれでけじめをつけようと思う。


「土屋君。お願いがあるの」

「…………なに」

「私に向かって笑ってくれませんか?」


私にそう言われて土屋君は目が点になった。


「土屋君がそうしてくれたら頑張れそうな気がするの!」

「…………それは気になる奴に対して、か」

「うん!」


本当は頑張れるんじゃない。諦めるために、最後は土屋君の笑顔を焼き付けておきたかったから。
土屋君は頷いてくれて戸惑いながらも頑張って笑ってくれた。ちょっと苦笑いだった気もするけど。


「―…ありがとう!」


土屋君から笑顔をくれたから私も土屋君に笑顔をあげて、逃げるように走り去った。
これで私の恋は終わり。土屋君は工藤さんと幸せに過ごして下さい。


『あれ、ムッツリーニ君?今の如月さんじゃなかった?』

『…………見てたのか』

『最後だけちょろっと。なになに?告白でもされたの?』

『…………違う。けど、なんか様子がおかしかった』

『確かに様子おかしかったねー。でも、あれを見る限り、如月さんの好きな人って―…』

『…………誰』

『え、ムッツリーニ君ってば分からないの?鈍感だなぁ。それでも如月さんのこと好きなの?』

『…………』

『もう…如月さんのことになると全然駄目なんだから』

『…………うるさい』





恋よ、さようなら

私は土屋君が幸せならそれでいいんだ。





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後書き

キリ番14444番を踏まれた方からのリクエストでした。
内容は土屋夢で切甘ということで。
本当は両想いだったんですけど、如月さんが土屋は工藤さんのことが好きなんだと勘違いをして勝手に身を引いたって話です。
ちなみに工藤さんと仲が良さそうに見えたのは、土屋が如月さんのことを相談に乗ってもらっているところを見てからだと。切ないです←

リクエストして下さった方のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2011.12.18)
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