捧げ物 | ナノ


▽ 学習しようよ


「え、ちょ、姫路さぁん!?」

「椿ちゃん照れちゃって…ふふ、可愛いんですから」


私は目がとろんとしている可愛らしい姫路さんに迫られている状態。私の身体の上にまたがっており、これは傍からみたら色々と勘違いされそう。勘弁してくれ。

どうしてこんなことになったのかは、今から数分前にさかのぼる―…


* * *


「今日、チョコレートを持って来たんです。よろしければ皆さんで食べませんか?」


背後でそんな声が聞こえてきて思わず肩がビクッと上がる。ギギギと機械音を立てながら振り向くとそこにはにっこりほほ笑む姫路さんの姿。あぁ、その顔は天使なんだけどな。


(おい、今の聞いたか?)

(聞いた。今度はチョコレートみたいだね…)

(そのようじゃな)

(…………死にたくない)


私たちは咄嗟に円陣を組んでヒソヒソと話し合う。勿論いつものメンバーで吉井、坂本、秀吉、康太、私。


(よし、試しに吉井を投入しよう)

(なんでそうなるの!?)

(それは良い案だな)

(待ってよ!?ってどうして誰もツッコミを入れてくれないの!?)


ほらほら、姫路が待ってるぞ、と坂本が言うと肩から腕を外し吉井の背中をドンッと押した。
その反動で姫路さんの前へ行く吉井。


「明久君どうぞっ」

「うえぇ!?で、でも!ぼぼ僕だけ貰うのも悪いかなぁっ…て」

「大丈夫ですよ。沢山ありますから皆さんの分もあります」


そんな言葉が聞こえてきて私たちは同時にうな垂れた。
なん、だと…!折角逃れられたと思ったのに…、吉井め。余計なことをやりやがって…!


「なんでみんな同じ反応をするのよ。瑞希、ウチにも一つ頂戴」

「あ、はい。どうぞっ」

「ちょ、美波っ!」


美波は私たちが落ち込んでいる姿を見て変に思っていると、姫路さんのチョコレートを頂こうとしていた。
こ、これは美波を助けなければ…!と、思って私がストップをかけた、が…


「ん、なんなのよ?」

「…あ、あれ?」


私は何度も瞬きして、姫路さんの手にあるチョコレートを見た。
あれって…どうみても買ったチョコレートじゃないか。


「姫路さん、それって…」

「はい。近所の方から頂いたチョコレートですよ」


なんだ、焦って損したじゃないか!ちょっと、吉井。なんで気付かなかったのよ!と視線を送ると、ごめん、あははは。と頭をかきながらこちらを見てきた。


「へぇ、美味そうじゃねーか」

「…………(コクリ)」


と、さっきまで警戒していた男性陣もぞろぞろと姫路さんの周りへと集まり、その様子に彼女は口をほころばせていた。
が―…


スッ―…と、Fクラスの戸がスライドする音が響いた。


「如月と姫路以外は至急職員室に来るように」


戸の向こう側には私たちの担任である鉄人が居てそう言ったのだが、何故私と姫路さん以外が呼ばれたのだろうか。


「先生。何で椿たちは良いんですか?」

「成績が良いからだ」

「バカな僕らだけってことですか」

「バカはお前だけだ、明久」

「…………(コクリ)」


と、いつもの調子の会話を繰り広げながらも、私と姫路さん以外の5人は鉄人に連れられて行った。
どうやら、鉄人が用事があるのではなく、それぞれ別の先生に用事があるみたいで、鉄人がまとめて呼び出したらしい。


「―…みんな、行っちゃったね」

「そうですね」


Fクラスの戸を見つめて言う私たち。
ちなみに他のFクラスの生徒は何故か教室に残って居なくて私たちしか居ない状態。


「先にチョコレート頂きましょう」

「そうしようか」


姫路さんは持ってきたチョコレートをちゃぶ台の上に置いて、傍で正座をする。私も同じように座った。
先に姫路さんがチョコレートを一つ手にとり、私も続けて取った。


「ふふ、おいしいです」

「そうなの?じゃぁ―…」


姫路さんに好評なこのチョコレートを頂こう、と思って私は口へと運んだが、私はそこでピタリと手を止めた。
―…洋酒の匂いがする。


「姫路さん。これって―…」

「ん、なんですかぁ?」


時すでに遅し。姫路さんはもうチョコレートを食べていて酔っている。以前も同じ状況になったというのに…ちょっと、学習しろよ!
私はチョコレートを箱に戻した。


* * *


―…で、現在に至る。


「なんで姫路さんは私にまたがっているのかなー…?」

「なんでって…それを私の口から言わせるんですかぁ?」


ポッと頬を染める姫路さんは可愛らしい女の子だ。ってちがーう!
ちょ、ちょっとー!誰か助けてくれ!
姫路さんは今にでも私の唇を奪う気だ。
これでもファーストキスはまだなんだから勘弁してよ!


「もうっ…椿ちゃんがいけないんですよ…?」


なにがいけないって言うんだ。てか、私、何かした記憶ないんだけど。
姫路さんは、私の両腕を動かせないように自分の腕で固定するといよいよ、という雰囲気になった。


「いつもいつも明久君の隣で肩組んだりして…。嫉妬しちゃいます」


いや、円陣を組んだときにたまたま隣になっただけどそれは。てか、それでどうしてこんな状況になるんだ?


「そんな椿ちゃんにはお仕置きが必要ですね」

「え゛」


徐々に近づく姫路さんの顔。あぁ、私のファーストキスは終わったな、と思った瞬間。


―…スッ


「…………」


Fクラスの戸が開き、そこにいたのは康太だった。どうやら一番最初に用事を済ませたみたいだ。
姫路さんからは康太の顔は見えないけど、私はバッチリ康太と目があってしまった。


「…………じ、邪魔した」


慌てて戸を閉めた康太。


「おぃい!閉めんなぁぁぁ!」


これでもかというくらい叫んだ私。

ちなみに、後1歩というところで姫路さんは寝落ちしたのでファーストキスは守ることが出来ました。
あぁ…ホント、死ぬかと思った。





学習しようよ

………シャッターチャンスだったのに、俺としたことが…





++++++++++++++++++++++++++
後書き

キリ番8000を踏まれた壱檎様からのリクエストでした。
Fクラスでの雑談という内容でしたが…。
一応、連載の番外編、という形で書かせて頂きました。
これは雑談、というよりただ単に姫路さんが暴走したって話になった気がします。
むしろ、私が暴走してしまいました!←
ごめんなさい(汗)

こんなものでよければ壱檎様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2011.11.26)
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