短編(銀オフ) | ナノ


▽ りんごのような頬


『竜持君のことが好きなんです!』

放課後。
竜持君と一緒に帰ろうと思って彼の教室へと足を運んでいると、女の子の必死な声が聞こえてきて私はピタリと足を止めた。
気付くのが遅かったために教室内の光景が目に入ってしまった。

(これはこれは…)

教室の中には竜持君と、竜持君の同じクラスの女の子が居た。
実際に見なくてもこれは竜持君が告白されている、ということがイヤでも分かる。声、聞こえちゃったからね。

(来るタイミング間違えたな…)

私は彼らに気付かれないように、一歩、また一歩と後ろへと下がる。
告白するのもすごく勇気が必要なことだし、そんな女の子の一大事なところを関係のない私がうっかりと立ち合っていいものではない。

『すみませんが貴女の気持ちにお応えすることはできません』

今度聞こえてきたのは竜持君の声だったけれど、内容はお断りの返事だった。

『なん、で…』

折角勇気を出して告白したのに。
そんな彼女の心の声が聞こえてくるかのようだった。

『…それでは貴女にお聞きしますが、自分が何とも思っていない人から告白されたらどうしますか?』

『…それは』

『更に付け加えますと「自分には思いを寄せている人がいる」となるとどうですか?「それでもお付き合いしましょう」なんて言えますか?』

『……っ』

あまりにも意地悪な、心に重くのしかかるような竜持君の問いに耐えきれなかった女の子は何も言い返すことなく、教室から飛び出して行った。
私は教室から少し離れていたからか、女の子は私のことを気に留める様子もなく脇目も振らず走っていった。

「……」

それは酷いよ竜持君。
そう思うのは余計なことかもしれないけれど、私は感情任せに、ダン、ダン、ダン、と足を鳴らしながら竜持君の教室へと向かう。

「おや、詩織さん。遅かったじゃないですか」

待ちくたびれましたよ、なんて言う竜持君は、さっき女の子から告白されたことを少しも気にしているようには見えなかった。

「……なんなのよ。さっきのは」

「さっきのは、といいますと?」

あくまでもシラを切るつもりなのだろうか。
それとも、私に知られたくないことなのか。

「あんな言い方をしなくても良かったじゃない」

「…聞いていたんですか」

盗み聞きをするなんて趣味悪いですね、とため息を吐かれた。
聞こうと思って聞いたものではないと弁解したいが、今の私は言い訳をする気分にはならなかった。

「さっきの子、泣いていたよ」

「そうですか」

「"そうですか"じゃないでしょう!」

「…僕にどうしろと言うんです?」

私が怒っているのを煩わしく感じた竜持君は少し睨むように私を見た。

「もっと別の言い方をしても良かったでしょ?」

「そんなの僕の勝手じゃないですか」

「あの子は…竜持君のことを好きだったんだよ?勇気を出して告白したんだよ?」

「じゃあ、詩織さんはどうするのが正しかったって言うんですか?」

いつも丁寧で物腰が柔らかい口調の竜持君とは違ってトゲのある言い方に私は少し怯んだ。

「…普通に"ごめんなさい。好きな人が居るから付き合うことはできません"で、いいじゃないの」

「それだと相手は引き下がってくれませんよ。"それでもいいの。私、頑張るから!"なんて言われるのがオチです」

「……」

「僕は詩織さんよりはモテているんですからその辺は心得ていますよ」

なんてムカツク言い方なんだろう。
確かに私よりはモテるのは事実であるけれど。いや、大事なのはそこじゃなくて。
だからと言ってあの女の子にあんな言い方をするのはどうだろう。

「…僕が"イヤな奴だ"と分かればもう寄っては来ませんし、すぐに新しい恋へと踏み出していくでしょう。ずっとこんな僕を思っていても仕方がないですから」

それに、と竜持君。

「詩織さんは以前僕のことを"モテていいな"とおっしゃっていましたが、モテるのって別に気持ちの良いものではないですよ。色んな女の子に告白されても、色んな人にちやほやされても。それでも…僕の好きな子には振り向いてもらえませんから」

「……」

私は女の子の立場ばかり考えていたけれど、竜持君の気持ちはちっとも考えていなかった。
少し悲しそうな竜持君を見て私はようやく気付いた。

「そんな顔しないでくださいよ」

「ごめん…」

「どうして貴女が謝るんですか?」

「私、竜持君の気持ちも知らないで…感情的になって…」

「いいんですよ。詩織さんはあの子の気持ちを考えてのことだったんですから」

にっこりと笑う竜持君にズギリ、と心が痛んだ。

「詩織さんは優しいですね」

「そんなこと…」

「優しいついでに早く僕の気持ちに気付いてほしいですけどね」

「……え?」

「さて、帰りましょうか」

竜持君は再びにっこりと笑った。

「僕の好きな人っていうのは詩織さん。貴女のことですよ?」

「……へ?」

まさか貴女、毎日一緒に帰っていて気付いていなかったんですか?と呆れられた。
私は竜持君に何を言われたのか分からなくポカンとしていたが、理解してからはポポポポと沸騰したかのように顔が赤くなった。

「っふふふ。詩織さんの顔、りんごみたいですね」

可愛いです。と悪戯っぽく笑う竜持君にますます顔に熱が集まる私でした。


りんごのような頬


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後書き

外ではツンツン、好きな人には素直になる竜持君おいしいです。
(2013.03.03)
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