短編(銀オフ) | ナノ


▽ 子供扱いにカチンと来る竜持君


履歴書が書けない。
得意科目とか、頑張ったこととかは何となくは書けたけれど、自分の長所はどう書いていいんだと私は頭を抱えた。

「…まだ書き終わらないんですか?」

どうしてそんなに時間がかかるんですか、とでも言いたそうな竜持君。
竜持君は数学の先生―…降矢先生の息子さんであり、私が降矢先生の研究室へ何度かうかがった際に、彼が居たことから話をするようになった。

「そんな簡単に終わらないよ」

竜持君は小学生だから履歴書の辛さなんて分からないんだよ。
いいよなぁ。小学生は。
今の私とは違って何も考えなくていいのだから。

「…今、失礼なことを思われた気がするのですが気のせいでしょうか?」

ビクっと肩があがった。

「な、なんのことかな〜?」

「僕だって小学生なりに色々と悩みはあるんですよ」

お、恐るべし竜持君。
…いや、流石降矢先生の息子さんとでも言うべきだろうか。

「竜持君って、サッカーしているんだっけ?」

「そうですよ」

「へー…」

竜持君の興味があること―…サッカーの話をしようと思ったのだが、話が続かなかった。
私の知識の中にサッカーに関するものは皆無だったのが原因だ。残念ながら私はスポーツには全くと言っていいほど興味がない。
竜持君はサッカー以外に何に興味があるのだろうか。ええっと、小学生だから…
竜持君はアニメを見るのだろうか?いや、アニメの話題を出したとしても私はアニメについても良く分からない。

「…無理して話題を提供しなくていいですよ」

私が話題に悩んでいたのが分かったのだろうか。

「あ、あはは…」

この子は本当に小学生か?
私の知っている小学生とは大分違うのだが…なんというか変に大人っぽいというか何と言うか。

「それよりも早く履歴書を完成させてください」

「そうしたいのは山々なんだけどねー…」

「…一体何に悩んでいるんですか?」

竜持君は読んでいた雑誌をその辺に置いて私の履歴書を覗きこんだ。

「長所、ですか…」

「そうなの。あとこの長所さえ書ければとりあえず下書きは完成」

「なるほど…」

ふむ、と考える竜持君。

「詩織さんは面倒見が良いです」

「…え?」

「…今だって忙しいのに僕と一緒に居てくれますし、父と母が家に居ない時はご飯を作りに来てくれます」

ポカンとする私。
も、もしかして、私の長所を言ってくれているのかな…?

「それから頑張り屋です。僕たちが詩織さんの料理の味付けについて文句を言ったら、次の日には僕たちが満足する味になっています」

「竜持君…」

文句を言われるのはちょっぴりグサっとは来るけれど、相手は小学生。
言われっぱなしなのはイヤだから私は彼らが満足するように料理を作る。
…そもそも何で私が彼らの面倒を見ているのかも不思議だけれど。…要は放っておけないんだよね。

「努力家。頑張り屋。優しい。ポジティブ。社交性がある。責任感がある。笑顔が素敵。可愛い。ええとそれから―…」

「ちょ、ストップストップ!」

「え?まだ足りませんか?」

「そうじゃなくて!」

そうじゃなくて。
それ以上言われると私がもたない。と、いうか、途中から長所と呼べるのか分からないものまで混ざっている気がする。
…小学生に言われているだけなのに、どうしてこんなに照れてしまうのだろうか。
私が単に褒められることに慣れてないだけかもしれないけれど。

「じゃあ、なんですか?」

「…うっ」

まあ、本心を言うことなんてできないわけであって、私は彼から視線を逸らす。

「ハッキリと言わないと分かりませんよ?」

…絶対に分かって言っているな竜持君。そのニヤリ顔は。
それにしても竜持君は小学生なのに、降矢先生に似てか切れ長の目、それからサラサラの髪の毛(これは母親似だろう)。涼しい顔。
…こりゃあ、小学生の間でもモテモテに違いない。

「…さっきからその"小学生小学生"って思うの…止めてもらえます?」

「えっ?」

「…詩織さんの顔を見てたら分かるんですよ。何を考えているのか」

あ、あなどれない。
…って、何を考えているのか分かるってことは…

「じゃあ、さっき"ハッキリと言わないと分からない"ってのは嘘じゃないの?」

「…さぁ、なんのことでしょうね?」

そしてとぼける竜持君。

「…僕だって男ですよ。今は小学生でも、1年経てば中学生。4年経てば高校生です。あっという間に大人になりますよ」

元の話"小学生と連呼しないでほしい"に戻った。
つまり、竜持君は、今は小学生って子供扱いしてもすぐに大人になる、と言いたいのだろう。
でもね。

「竜持君がそうなるころには私は社会人になっておばさんになるよ」

悲しいことにそうなのだ。
竜持君が大人になるのと同時に私も年を取っていくのだ。

「詩織さんはそうなりませんよ」

「え?」

「…詩織さんはキレイなんですから」

「……」

最近の小学生は大人相手でもこんなことを言うのか。
ポカンとする私。

「…っ、そ、そんなことより早く履歴書書いてください!折角僕が助言したんですから!」

「はいはい」

「そうやってすぐ子供扱いを…!」

普段はクールで小学生らしくないのかもしれないけど、私が子供扱いをするとこうやって感情的になるところは「まだまだ子供なんだな」と微笑ましく思えてくる。
それでも、たまに見せる大人顔向けの発言には私もドキっとするのである。


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後書き

管理人が竜持君に励ましてもらいたい一心で書いた作品(笑)
それにしてもタイトルが思いつきません…(遠目)
(2013.03.02)
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