短編(銀オフ) | ナノ


▽ 彼女の名前を呼ばない竜持君


「ねえ、前から気になってたんだけどさ」

「なんでしょう?」

「…どうしてエリカちゃんは名前で呼んでいるの?」

「はい…?」

桃山プレデターに所属している竜持君はチームメイトであるエリカちゃんのことを名前で呼んでいる。
チームメイトの名前を呼ぶのは別に不思議ではないのだけれど、同じチームメイトである玲華ちゃんは "西園寺さん" と呼んでいる。だから不思議。
2人とも名前で呼んでいるのなら私もそこまで気にはしないんだけど。

「どうして、と言われましても…特に意味なんてありませんけど?」

「玲華ちゃんは名字で呼んでいるじゃない」

「西園寺さんだからですよ」

「それ理由になってない」

「そうですか?」

そうですか?じゃない。
竜持君のおとぼけは私には通じないよ。

「そもそも、どうしてそこまで気にするんですか?柚木さん」

「……」

私が気にする理由はこれだ。
竜持君は私のことを名字で呼んでいる。
…私たち、一応は付き合っている仲なのに。エリカちゃんは名前で呼んでもらっているなんて悔しい。
竜持君はエリカちゃんのことをただのチームメイトだ、と言ってたけれど、私はその言葉だけでは安心することはできない。

「……」

竜持君はじっと私をみつめるが、私は思っていることを言うことが出来なくて、俯いた。

「…ちゃんと言ってくれないと分かりませんよ?」

確かにちゃんと言わないと竜持君は分かってくれないと思う。
竜持君、他の人のことは分かる癖に自分のこととなると鈍感過ぎるから。

「竜持君のバカ…」

「…は?」

「バカバカバカバカ!」

「…確かに僕は "言ってくれないと分からない" とは言いましたが、 "バカ" と言えなんて言ってませ―…」

「どうして分かってくれないの!」

ああ、最悪。
竜持君が意地悪なことを言うものだから、思わず本音が出てしまった。
いきなり声をあげると思っていなかった竜持君は驚いていた。

「…なんでエリカちゃんは名前で呼んで、私は "柚木さん" なの…?」

「……それは」

「竜持君、本当に私のことが好きなの?本当はエリカちゃんのことが―…」

好きなんじゃないの。
自分でもどうしてそんなことを口にしたのか分からない。
そんなことを言うと自分の気持ちを抑えることが出来ないのは目に見えているというのに…
私って本当にバカだ。
目から涙が溢れてきた。

「ごめん…」

「何に対して謝罪しているの?呼び方のこと?それともエリカちゃんのことが―…」

「違います!」

竜持君は強く否定すると私を力強く抱きしめた。

「僕は柚木さんのことが好きです。好きだから付き合っているんです」

「だったらどうして私は "柚木さん" なの?」

「……」

さっきから何度も何度も訊ねても竜持君からの返答はない。今回も同じようだ。
…私のことを好きだと言ってくれて嬉しいけれど、付き合っているのにずっと名字で呼ぶなんて…私はイヤだよ。
理由を言ってくれないと納得できないよ。

「…笑わないで聞いてくれます?」

ようやく口を開いてくれた竜持君が私の耳の近くでそう言ったので、私は首を縦に下ろした。

「…恥ずかしいんです」

「…え?」

「だって、好きな人ですよ?好きな人の名前を呼ぶとか…恥ずかし過ぎます」

「……」

「…家で何度も練習しました。貴女の名前を呼ぶ練習。でも、いざ、貴女を前にすると…どうしても名字で呼んでしまうんです。練習したのに上手くいきません」

竜持君の顔を見ると、これでもかというくらい真っ赤だった。おまけに耳まで真っ赤。
竜持君でもこんな顔をするんだ…。
と、いうよりも、名前を呼ばなかった理由が…恥ずかしかったからとか。
しかも、家でこっそり練習してたなんて事実が、

「ぷ…ぷふふ…」

私には面白かった。

「わ、笑わないって約束でしたのに…!」

「だ、だって…!竜持君ってば可愛過ぎるんだもの」

「だから言いたくなかったのに…」

約束を破った!と騒ぐ竜持君に私は笑みが零れた。
"小学生らしくない"と良く言われているけれど、こういうところはちゃんと小学生らしくて安心した。

「ま、そういう理由だったら気長に待ってあげるね」

「上から目線ですか…」

「だって恥ずかしいんでしょ?ふふふ」

「…貴女って人は」

ため息を吐く竜持君だったが、その後に笑顔が見られた。



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後書き

とりあえず思いついたネタを一気にうp。
自給自足作品です(笑)
また思いついたら更新します。
(2013.02.03)
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