バレンタイン企画2013 | ナノ


▽ それぞれのバレンタイン


バレンタイン当日の放課後。
空き教室には土屋、平賀、そして櫻木の姿があった。

「2人とも来てくれてありがとう。あの…これ」

今日、バレンタインだから、と言って櫻木はそれぞれにチョコレートを手渡すと、2人とも少し驚いていた。

(どうして驚くんだ…?)

驚いた理由が分からなかった櫻木は小首を傾げた。
実は、土屋と平賀は以前、吉井に頼んで「櫻木が誰にチョコをあげるか聞いてきてほしい」と頼んでいたのだった。

(…………明久は)

("内緒"って言われたって言っていたけどな…)

櫻木のことだからもしかしたら「チョコレートあげるとか面倒臭い」とかなんとか言って誰にもあげない、ってオチなのかもしれない、と2人とも内心思っていた。だから、驚いた。

「トリュフ作ってみたんだけど…大丈夫?」

「…………嫌いじゃない」

「ああ、問題ない」

2人が苦手じゃない、と分かったところで櫻木はホッとした顔になった。
苦手なものをあげるのは申し訳ないと思うからだろう。

「あ、そ、それから…」

「まだ何かあるのか?」

櫻木はそう言うとカバンの中から2通の手紙を取り出した。
それぞれの宛名の所に「康太へ」と「平賀へ」と丁寧に書かれていた。

「…実は2人に手紙を書いてみたの」

「…………手紙?」

「うん。…あ、べ、別に大したことは書いてないんだけどね…!ただ、こういうときじゃないと書けないっていうか何ていうか…」

ええと、なんだろ。と、櫻木は慌てていると、平賀は「ぷ」と噴き出した。

「ありがとな」

最初は、何がおかしいんだ!と思った櫻木だったが、平賀に真っすぐ見据えられたため、今まで思っていたことが全て消し飛んでしまった。
櫻木は「どういたしまして」を言うことができなくて、目を逸らすのがやっとだった。

「…………家で読んだ方がいい?」

「そうしてくださいお願いします」

ここで読まれてしまうと恥ずかしくて逃げ出したくなります、と櫻木は必死に頭をさげた。

(それに…)

土屋と平賀、それぞれに対して書いた手紙だから、2人にどんなことを書いたのか、下手したらバレる恐れがある。土屋には平賀のを、平賀には土屋のを。
…それだけは何としてでも避けたい。色んな意味で。

「んじゃ、私はこれで…!」

手作りチョコ、それから、手紙を渡したことが恥ずかしかったのか櫻木は2人から逃げるかのように帰ろうとしたが、土屋、平賀は櫻木の腕を掴んでそれを阻止した。
土屋が右腕。平賀が左腕だ。

「…………折角だから」

「一緒に帰ろう」

「へ?」

何が折角なのか良く分からないが、櫻木は突然のことで目を何度もぱちくりさせて、2人の顔を交互に何度も見た。

* * *

櫻木はどうしようかと悩んでいた。
まさかこの3人で一緒に下校する日が来るだなんて思っても居なかったし、土屋は櫻木と平賀が一緒に居る所を見ると面白くないように思うことが良くあったから、3人で帰るなんてイベントは発生しないと踏んでいた。
が、そのイベントは現に今起こっている。

(でも…)

思ったよりも、土屋はいつも通りの土屋だったため、櫻木は少なからず安心はしている。

「もう少しで振り分け試験だな…」

3人で話が出来る共通の話題、と言えば、振り分け試験。
私たち文月学園は新しい学年になる前に、振り分け試験を行い、その結果に応じてクラス分けをするようになっている。

「平賀は自信あるの?」

「まあ、人並みに」

「人並みってどれくらだよ」

良く分からない、と言って櫻木は笑った。
まあ、恐らくは普通、ってことだろうな。

(…振り分け試験、か)

平賀とは同じクラスになる可能性は高いかもしれないけれど、康太とは同じクラスになれる可能性は低い。
…私がポカをするか、以前みたいに試験自体欠席するか、しかない。

「…………雫?」

突然俯きはじめた櫻木を見て心配そうに声をかける土屋。
まさか康太のことを考えていた、だなんて言えるわけがない櫻木は慌てて「な、なんでもないっ!」と言った。

「ただこの3人が同じクラスになったら面白いなぁ…て思って」

本当はそんなことを思ってはいなかったけれど、確かにこれはこれで面白いかも、と言った本人自身がそう思った。

「面白いかもしれないけど…」

「…………可能性は低い」

そう、だよね。私もそう思っていたよ、と櫻木は心の中で呟いた。
櫻木は、ふと、空を仰いだ。

「なんだか寂しいなー…」

「「……?」」

「…3人ともバラバラになる可能性も…あるよなぁって思って」

「……」

夕焼けを見ていると寂しい気持ちがますます強くなる気がした。
それでも、と櫻木は言うと、

「…こんな私だけど、これからも仲良くしてくれると嬉しいです」

2人は急にどうしたんだ、という言葉を飲み込んで、

「ああ」

「…………当然」

平賀と土屋は笑った。

* * *

土屋は家に帰って櫻木から貰った手紙の封を開けた。

『康太へ
なんだかこうやって手紙を書くのは初めてなのでちょっぴり照れくさかったりします。
康太と出会ってからもう1年近くになるんだと思うと、まだそんなものか、と思う反面、もうそんなに経ったんだ、とも思えます。なんか変な感じだなあ。
もう少しで3年生になるね。
もしかしたら、違うクラスになるかもしれないけれど、そうなっても、また、私と一緒に帰ってくれたら嬉しいです。
…って、なんだか、この手紙、学年末に書くような内容になったね。あはは。
ではでは、こんな私ですがこれからも宜しくお願いします。
櫻木より』

「…………雫」

違うクラスになっても一緒に帰ってくれたら嬉しい、か。
ポツリと呟くと、

「…………俺も同じ気持ち」

土屋は口端を緩めた。

* * *

平賀は家に帰って櫻木から貰った手紙の封を開けた。

『平賀へ
1年の時からの私を知っている平賀は「櫻木が手紙を書くなんて…」って笑うかもしれませんが、そこはグッと堪えてください。そうでないと私は殴りに行きます。
…と、まあ、ふざけた感じは此処までにして。
口では素直に言うことはできないけれど、私、こう見えても平賀に感謝をしています。
1年生のとき。平賀に声をかけて貰わなかったら私は1年間、友達の居ない寂しい高校生活を送って居たことでしょう。
平賀は「何て大袈裟な」と思うかもしれませんが、私は平賀に声をかけてもらったとき、本当は嬉しかったです。ありがとう。
来年度、また、クラス替えがありますが、今度は平賀に負けないから。覚悟しておいてください。
それでは。
櫻木より』

平賀は手紙を読み終わると同時に笑みが零れた。

「ったく。なんなんだよ…」

いつもの櫻木か、と思わせる文だったり、「こんなことを思っていたのか」と意外な面を見せたり。

「……来年度、かあ…」

同じクラスになれるんだろうか。
同じクラスになれたらいいな…。
不安と願望、2つの気持ちが入り混じる。

(アイツと同じクラスになれるように…)

勉強するのが一番だな。
平賀はそう思って、櫻木から貰った手紙を引き出しの中に大事にしまった。


それぞれのバレンタイン



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後書き

バレンタイン企画第6段。
Ms.マロン様からいただきました「連載番外編で康太vs平賀。2人にトリュフと手紙を渡して一緒に下校する」話でした。
細かく内容まで考えてくださったのに遅くなってしまい申し訳ありません(汗)
連載番外編のネタが来るとは思っていませんでしたが、とても楽しく書くことができました^^
参加していただきありがとうございました!
(2013.03.02)
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