バレンタイン企画2013 | ナノ


▽ 微糖or甘い


今日はバレンタイン。
世の女の子たちはお世話になっている人や友達、それから、想いを寄せている人にチョコをあげる日なんだけれど、私の目の前に居る奴は何も持っていない。

「ねえ、どうしてチョコを受け取らなかったの?」

降矢竜持君だ。
切れ長の目にサラサラの髪。それから涼しい顔。
女の子が好きそうな容姿をしているせいか、女の子たちに人気なのだが、彼は誰からのチョコも受け取って居ない。
私が知っている限りでは3人は断って居る。他にも沢山いると思うけど、残念ながら私は見てない。

「何処の誰か分からないものをホイホイ受け取るわけにはいきませんよ」

自分は悪いことをしてない、とでも言いたそうに両手をあげた。
確かに自分の知らない人から食べ物を貰う場合は、竜持君の考えも一理ある。

「…同じクラスの子でも?」

「……」

でも、同じクラスの子だったら知っている子じゃん。話したことは無いとしても、顔と名前は一致しているじゃん。
受け取っても問題ないと思うんだけれど、と思っていると竜持君は無言になった。
知っている人の場合だとさっきの理由は適用されないと分かったからだと思う。

「いいじゃん。別に付き合っている子とか居ないんでしょ?」

「そういう問題じゃないでしょう…」

「え、じゃあ、居るの?」

「居ませんけど…」

居ないんだったら良いじゃないの。
チョコを沢山食べることができるんだから。私だったら嬉しいけどなー。チョコとか沢山買ってもらえるわけでもないし。

「受け取って変に期待をさせるのも可哀想ですよ。だから、僕は受け取りません」

「えー…」

確かに受け取ってしまうと期待させてしまうかもしれない。
竜持君にしては珍しく納得のいく発言だった。

「そういう雫さんは誰かにあげなかったのですか?」

「うーん…まあ、ね」

「なんですか?その歯切れの悪い言い方は」

「…いやー、あげるつもりだったんだけどどうやらその人、受け取らないみたいで」

あはは、と頭をかく私。
…本当は私の目の前に居る人―…竜持君にあげようと思っていたのだけれど、竜持君、チョコを受け取らないつもりみたいだからね。
仕方がないから家に帰って自分で食べることにしよう。

「…ま、雫さんですからね。気持ちも分かります」

「おい」

だから、お前だっての!
気持ちも分かるもなにも、あげる相手は竜持君だから!
さっきのセリフで分からんのか!
…まあ、そんなことを言える勇気があるわけないんだけど。

「僕だったら、受け取りますけど」

「えっ?」

今、なんて言った…?
うけとる?ウケ取る?受け取る?
竜持君の言った"うけとる"を頭の中で漢字変換を行なったが、"受け取る"になったのは少し時間がかかってしまった。
竜持君、私のチョコを受け取るって言った…?

「情け、ですが」

「おい」

情けかよ。
私の純粋な心を返せ。
真面目な声を出したせいか、竜持君は面白がってクスクス笑いだした。笑っている場合ちゃうよ。

「冗談ですよ。雫さんのなら喜んで受け取りますよ」

「またまたご冗談を―…」

もうその手には乗らないからね。
しかし、竜持君からは「おやぁ?」と言った声があがった。

「…まさか分からないのですか?」

「え、今回も冗談でしょ?流石に分かってるよ」

フン、と鼻で笑ったが、竜持君は、やれやれと言ったように首を振った。

「…僕、雫さん以外のチョコは受け取らないようにしていたんですよ」

「…へ!?」

「貴女って鈍感ですね。まさか此処まで言わないと気付かないとは」

今回ばかりは冗談ではないことが分かった私は顔が赤くなった。

「だ、だだだだって…!竜持君、いつも私に意地悪なことを…さっきだって…」

「"好きな人をいじめたくなる"―…ってよく言いますよね?」

つまり、竜持君が私に意地悪をしていた理由って―…
私と同じ気持ちだった、ってこと…?
それでも、意地悪するのは…

「…そんなの止めた方がいいよ。嫌われたらどうするの!?」

「雫さんは僕を嫌ったりしませんからね」

「…変な自信」

やめた方がいいと思ったんだけれど、竜持君はどうやら止めるつもりはないようだ。
あぁ、なんだか恥ずかしい。

「―…で、雫さんがあげようとしていた相手って誰ですか?」

「…分かっているクセに」

「分からないから聞いているんですよ?」

「…帰るっ!」

「作ったの無駄にするんですか?」

「って、なんで作ったっての知ってんの!?」

「あ、やっぱり手作りでしたか。いやぁ、カマをかけてみたのですが当たるものですね」

「……」

やられた。
そうだよね。竜持君が知っているわけないもんね。私が手作りチョコを作っただなんて。
だって、誰にも話してないのだから。
私は手提げ袋の中から作ったチョコを竜持君に渋々差し出した。

「…美味しいかどうか分からないよ?」

「雫さんの手作りならそれだけで美味しいですよ」

「…っ」

なんてセリフを言ってくるんだコイツは…!

「顔真っ赤ですよ」

「誰のせいだ。誰の」

「さぁ?」

そしてまたとぼける竜持君。
私はさっきから竜持君に振り回されっぱなしだ。
…それでも、こんな竜持君でも。
私は好きなんだよね。

「雫さん、好きですよ」

「……」

「雫さんは僕のこと好きですか?」

「…か、帰るっ!」

「…言うまで帰させませんよ?」

教室のドアに向かおうとしたけれど、竜持君に通路を塞がれてしまった。
私はこんなに余裕が無いのにどうして竜持君は余裕なんだろうか。

「…竜持君のことが好きです」

私は小さくつぶやくと、「良く言えました」と頭を撫でられた。
もう、恥ずかしくて死にそう。


微糖or甘い


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後書き

バレンタイン企画第2弾。
管理人案で、夢主以外のチョコを貰わない主義な竜持君で書いてみました。
銀オフはバレンタイン企画を締め切ったあとに追加したジャンルでしたので、自分で考えて竜持君っぽさをイメージしてみました。
とりあえず、こんな小学生見たことない(笑)
(2013.02.11)
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