▽ 甘くない告白
「雫ちゃんは土屋君に告白しないんですか?」
「ぶふぉっ!?」
昼休憩。
瑞希と美波と一緒にご飯を食べていると、瑞希がいきなりそんなことを言い出した。
予想してなかった私は飲んでいたフルーツオレを吹いてしまう始末である。
「もー、雫ってば。ゆっくり飲まないから」
「いやいや!今のはどうみたって瑞希が悪いでしょ!?」
「私は別に何も変なことは言ってませんよ?」
「絶対に狙って言ったでしょ…!」
机の上に飛び散ってしまったフルーツオレをティッシュで拭きながら瑞希に言う。
でも、瑞希は「なんのことでしょうか〜」と言わんばかりの笑顔。
くそう…!瑞希が男だったら確実に殴り飛ばしているわ。
「そういう瑞希たちはどうなの?明久に告白しないの?」
「う、ウチらはいいのっ!」
「そうですっ!今は私たちの話ではなく雫ちゃんの話です!」
「何故だ」
自分のライフを減らすまいと思って彼女たち自身の話をしてみるが、断られてしまった。
…2対1って不利じゃね?どう考えても私勝てなくない?
「もうすぐバレンタイですよね。雫ちゃんは勿論土屋君にあげるんですよね?」
「答えずに逃げたい」
「そうはいかないわよ。話すまで逃がさないから」
「私に積極的になるんじゃなくて2人とも別のところで積極的になればいいのに」
「……」
「ごめんなさい」
2人ともの目が笑っていなかったので私は土下座をした。
やっぱり酷いよ。こんなのあんまりだよ。
私が一体何をしたっていうんだ。どうして2人とも私の話を聞こうとするんだ。
誰か助けて…!
『話はすべて聞かせてもらいましたっ!』
そんな中、私の救世主と思える人が登場した気がした。
何処の誰だか分りませんがありがとうございます…!と期待の念を込めて声がした方を向いた。
「玉野さん。良いタイミングで来ましたね…!」
気のせいだった。救世主でもなんでもなかった。むしろ、敵を増やしてしまう結果だった。
こんな状況で玉野さんまで加わると私、ますます死にそうになるんだけど…!
てか、なんでこんなタイミングでやってくるんだ。盗聴器とか何か仕掛けているのか。
「櫻木さんが土屋君に告白するとお聞きしました…!ぜひ、この玉野にお任せください!」
「全力で拒否します」
「どうしてですか!?私、頑張っちゃいますよ…!」
「つーか、いつ、誰が誰に告白するって言ったんだよ!」
瑞希と美波が勝手に言っているだけであって、私の口からは言っていません。
「あれ?おかしいですね…。私が勘違いしていたのでしょうか?」
「そんなことないですよ。玉野さんは何も間違っていません」
「そうよ。おかしいのは雫の方なんだから」
「此処は四面楚歌なのか。そうなのか!」
やはり私は此処から全力で逃げ出した方がいいんだな。
頭の中で瞬時に判断し、私は立ち上がった。
「何処へ行くんですか?」
私が逃げ出すと分かったのか。瑞希は私の腕をしっかりと掴んでにっこり笑っていた。
…その笑みが怖い。怖いよ。
「あ、え、えーっと、トイレ、かな?」
「じゃあ、私たちもついて行きましょう」
「トイレぐらいゆっくりさせてよ!」
なんで皆でぞろぞろと行かないといけないんだ。
しかも、私は別にトイレに行きたくて行くわけではなく、彼女から逃げたいために嘘を吐いたのに。
「トイレトイレって…食事中に連呼したら駄目ですよ櫻木さん!」
「誰のせいだ誰の!」
「そうだ!この際、皆さんで雫ちゃんを女の子らしくしませんか?」
待って。話の流れおかしくない?
ただトイレに行くとか行かないとか言っていただけなのに何が「この際」だ。
「良いんじゃない?楽しそうー!」
「私も混ぜてください!」
「はい、勿論です」
「私は帰らせてください」
「「「そうはいきませんよ?」」」
女子って怖い。
そんなことばがピッタリだと思える昼休憩でした。
* * *
「…………雫、どうした?」
「どうしたもこうしたもないよ。あー…面倒」
放課後。
私は瑞希たちから逃れるために康太がやっているムッツリ商会に来ている。
今の時間帯は男子以外お断りのため、彼女たちは此処に来ないだろうし、場所も分からないと思う。
「康太ってさ。好きな人いんの?」
「…………急になんで」
「いや、なんとなくだけどさ。女の子ってみんなそういう手の話題好きだよなーって思って」
「…………雫も女の子」
「ま、そうなんだけどねー。あはは」
私は笑いながらファイル―…女の子が写っている写真たちを手に取った。
「いやーそれにしても良く撮れているね。まさにベストアングルって奴。この見えそうで見えないってのがドキドキするよねー」
「…………撮るのに苦労した」
「だろうねー。私だったら緊張して手が震えてキレイに撮ることできないと思うし」
「…………やってみる?」
「いや、遠慮しておくわ」
スッとマイカメラを差し出されたが私は断った。
いやあ、流石に出来そうな気はしないのでね。それに、康太みたいにバレないようにできないと思う。
「…………さっきの話に戻るけど」
「ん?」
「…………雫は好きな奴居るのか?」
「うーん、居るには居るんだけどねー」
「…………そうは見えない」
「だろうね。あはは!」
まあ、その好きな奴ってのはアンタなんだけどね、と思いながら私は笑った。
こんな態度を見てたら誰だって不思議に思うだろうね。私も不思議でならないわ。
『雫ちゃん、見つけました!』
「げぇっ!?」
『ここは私に任せてください!』
折角隠れていたのに彼女らに見つかってしまった私は、捕まらないように逃げ回った。
しかし、3対1だと捕まるのは時間の問題、ということで私は逃げて間もなく捕まってしまった。
* * *
空き教室に連れて行かれた。
「さて、何から始めましょうか!」
「とりあえず、私を家に帰してください」
何からはじめようか、と言い出す玉野さんに私はそう言った。
何故かって?やる気がないんだもの。
康太にチョコを渡す予定ではあったけれど、女の子らしくするとかガラでもない。
「やっぱりチョコは手作りチョコが一番ですよね」
「うんうん。あと、髪型もかえたらいかがです?男子はポニーテイルが好きっていいますよ」
「ほ、本当なの…!?」
「そうですよ。だから島田さんは男心をバッチリ分かって居ます!」
私の意見は完全に無視したのかと思えば、3人はポニーテイル談議を始めた。
確かにポニーテイルは可愛いよね。うなじ見えるし、ぴょこぴょこと動くし。
…っと、私は彼女らが美波の話をしている隙に逃げましょうかね。
「…逃がしませんよ?」
無理でした。
「櫻木さん、ポニーテイルしましょう!」
「いやいや、今してもしかたなくない…?」
「そんなことないですよ。練習練習!」
「何の」
結局は私をどうにかしたいのではなく、彼女らは楽しみたいだけなのでは?と思った私でした。
* * *
バレンタイン当日。
瑞希たちに指導してもらって(頼んでないけど)私は、とりあえずは言葉遣いをどうにかした。
と、言っても普段とあまり変わらないんだけれど、瑞希をイメージしながら喋ることにした。敬語ではないけど。
「ポニーテイル、ねえ…」
玉野さんにしてもらったポニーテイルを触ってみるがなんだか照れくさい。
いつも髪を結ばずにいるせいか、余計に首元がスースーする。
「はぁ…どうしてこうなったんだろ」
私、別に告白するつもりは無かったんだけどな。チョコはあげるつもりだったけれど。
「…………雫」
まあ、ここまで来てしまったのだから、言えるところまで言ってやろうじゃないの。
そんな気持ちで私は康太の前に立った。
「はい、これ」
「…………チョコレート?」
「うん、まあ、バレインタインだからね」
「…………」
可愛くラッピングしたチョコレートを差し出すと康太は無言で受け取った。
私があげるのが珍しいとでも思っているのかな。あげたチョコを、じい、っと見ているし。
そして、私の顔を見た。
「…………ありがとう」
面と向かってお礼を言われると思っていなかったので、私は気恥ずかしくなった。
「…………てっきり貰えないかと思った」
「へ?」
「…………雫、いつもと違うから」
「あー…これ?玉野さんがやってね」
私自身もちょっと落ち着かないんだけどね、と笑う。
ポニーテイルは見るのは好きだけど実際に自分がするのはあまり好きではない。
「…………好きな奴にあげるのかと」
「あげてるよ?」
「…………?」
好きな人にあげるために髪を結んでいるのだと思っていた康太みたいだが、それがまさか自分だなんて思ってはいなかったみたいだ。
私がサラっと言い過ぎたせいか、康太は小首を傾げている。
「私、康太が好き」
「…………!?」
流石に言葉にすると康太は理解したみたい。顔真っ赤にして不思議な動きをしている。
私なんかよりもずっと可愛いな。
手元にカメラがあれば写真に撮りたいぐらいだった。
甘くない告白++++++++++++++++++++++++++
後書き
バレンタイン企画第1弾。
「普段は男勝りで好きな人にも男友達みたいに接してしまうけど女友達(美波、瑞希、玉野さんなど)に女の子らしくコーディネート&指導してもらいバレンタインに告白」でした。
美緒様からいただきました。
本当はもう少し女の子っぽくしたかったのですが何故か無理でした(汗)
参加していただきありがとうございました!
(2013.02.11)
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