契約彼氏(銀オフ) | ナノ


▽ 7日目

契約彼氏7日目の昼休憩。

「…知里子居るか?」

以前は竜持君に呼び出されたのだが今度は虎太君に呼び出された。
竜持君だったらクラスの友達(主に女子)が騒ぐのだけれど、今回は竜持君の兄―…虎太君だったから誰も騒がなかった。
ただ、時折、ヒソヒソ話が聞こえてくるぐらい。

「あの…どうしたの?」

ヒソヒソ話が少し耳障りだったけれど、私は気にせずに虎太君に訊ねた。

「時間あるか?」

「あ、うん、まあ」

「そうか」

ちょっとツラ貸せよ、とでも言いたそうな顔をした虎太君は私に背中を向けて歩き始めた。多分、廊下じゃ話することできないから。
先を歩く虎太君の後ろをついて行くと人通りが少ない階段の途中にある踊り場で彼は足を止めた。私も同じように足を止めた。

「お前、竜持と何かあっただろ」

どうしてこう兄弟揃ってカンが良いことなんでしょうか。やはり三つ子だからか何か感じるものがあるのだろうか。

「凰壮も凰壮で様子が変」

「……」

凰壮君は…多分昨日のアレだろう。
「俺だったらお前を悩ませない」発言。
あれはどういう意味だったのだろうか。そのままの意味?それとも、私があまりにも可哀想だったから?
虎太君は「まあ、凰壮は良い」と、話を切り出した。…凰壮君は良いんだ。

「…昨日の練習の時、いつもの竜持じゃなかった」

「…竜持君が?」

「プレイに集中してないような…どこか上の空のような」

「……」

意外だった。
竜持君のことだから気持ちの切り替えが上手いと思っていたけれど、どうやらそうでもないみたいだった。

「ハッキリ言う。竜持があのままだと迷惑だ」

虎太君の言葉が心に重くのしかかった。
なんだか虎太君は、私と竜持君が彼氏彼女の関係になっていることが迷惑に思っている、ようにも感じられた。
私の勝手な考えで、勝手な行動で―…竜持君だけでなく、凰壮君、そして虎太君にも迷惑をかけてしまっている。

「ごめんね、本当にごめんね…」

"私のせい"
一度そう思うと私の頭の中はそれでいっぱいになってしまい、抜け出すのに一苦労。

(…私、こんなにメンタル弱かったっけ)

こんなにも―…
泣き虫だったっけ。
ポロポロと泣きはじめた私を見た虎太君はギョっとした。

「…別に泣かすつもりは―…」

ううん、虎太君は悪くないの。悪いのはすべて私。
精一杯の笑顔でそう言って、私は虎太君の前から逃げるように去った。
ああ、私ってば最悪。
私は泣き顔を見られないようにと、下を向いたまま走った。

「…っ!?」

すれ違い際に誰かに腕を掴まれて強制的に足を止められた。
条件反射で掴んだ主の方に顔を向ける。

「…りゅうじ、くん…」

向けたことを後悔しつつ彼の名を口にした。
あれ以来、ずっと避けてた竜持君だった。

「…どうして泣いているんですか」

「…何でもないの。何でも」

優しく訊ねる竜持君だけれど、私は無理矢理笑顔を作った。

「何でもないワケないじゃないですか」

「目にゴミが入っただけだから気にしないで」

「そういうわけにもいきませんよ。僕は知里子さんの―…」

「やめて」

竜持君から続く言葉を遮り、竜持君は戸惑っていた。
今の状態で竜持君の口から"彼女"という言葉を聞くのはあまりにもつらいから。

「ごめん…。本当にごめん…」

「…謝ってばかりでは分かりませんよ」

そうだよね、と思いながら私は重い口を開いた。

「…私、竜持君だけでなく、凰壮君、虎太君にも迷惑をかけてしまって…」

「…2人に何か言われたんですか」

「ううん。そうじゃなくて」

「知里子さん」

否定をしたところで、竜持君は真面目な声で言った。

「僕は、知里子さんの考えを聞いているんじゃないんです。本当にあったことを聞いているんです」

私はまた俯いた。

「…竜持君、練習に集中してない。それは私のせい」

「……虎太君と凰壮君に言われたんですか?」

私は首を振って否定した。
喋るのは最小限にしたいから。泣いた後の声をあまり聞かれたくないから。

「…虎太君に」

それで、ですか、と竜持君は言った。それで、泣いているんですか、と。

「練習に集中できていないのは知里子さんのせいではありませんよ。僕が弱いだけです」

「そんなこと…!」

「―…あるんですよ。知里子さんの目に僕がどう映っているのか分かりませんが、僕だって集中できないときぐらいあります。知里子さんにキスをしてしまいましたし、それが原因で避けられてしまえば尚更、でよ」

「……」

結局は私が原因じゃないの。
私が竜持君を避けてしまったばかりに。
凰壮君が心配し、そして虎太君にも心配してしまう結果になった。

「正直驚きました。自分でも信じられませんよ。まさか、メンタル弱いなんて思ってもいませんでしたからね」

仮の彼氏彼女であっても、知里子さんに避けられるのはつらいです、と竜持君は言った。

「…ねえ、竜持君」

「なんでしょう?」

「…エリカちゃんって子のこと、好き?」

「…はい?」

いきなりのことだったからか、竜持君は「何を聞いているんだこの子は」とでも言いたそうな声のトーンで言った。

「…竜持君。エリカちゃんって子だけは名前で呼んでいるんだもの…」

「……」

「好きなら…」

「…好きなら、なんですか?彼氏役を頼んで申し訳ない、とでも言うんですか?」

「……」

私は俯いた。
だってそうでしょう?好きな子の前で付き合っているフリをするなんて…いくらなんでも酷だ。

「…僕、自分が認めた子は名前で呼ぶようにしているんです」

竜持君は「言いたくなかったのですが」と言った後にそう口にした。
予想していなかったことを言ったので私はキョトンとした。

「だから知里子さんが思っているような感情なんてありませんよ」

「本当に…?」

(…でないと貴女にキスなんてできませんよ)

「えっ…?」

「何でもないですよ」

竜持君が小さい声で言って聞きとれなかったから、もう一度聞き返したけれど、竜持君は何でもないと言う。そう言われると逆に気になるのが人間、というもの。
私が腑に落ちない顔をしていると竜持君はさっきのことを誤魔化すかのように私の頭を撫でた。

「…あと3日。こんな僕ですが最後までお付き合い宜しくお願いしますね」

最後にそう言って竜持君は優しく微笑んだ。


ずっとそばにいたのに
あと3日でこの関係は終わる。
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