▽ 0日目
「お断りします」
「ちょっとまだ何も言っていないんだけど」
放課後になると私は竜持君が帰ってしまう前に彼のクラスへと行った。
教室に竜持君がまだ居てホっとしたのも束の間、私が竜持君の名前を呼ぶとこれだった。
何も言っていないのに。
「知里子さんが僕のところに来るなんてロクなことがありませんよ」
「そ、そんなことないよ…!」
「最近では "欲しいものがあるからお金貸して" とか "キーホルダー無くしたから一緒に探して" でしょうかね」
「それぐらいいいじゃないの」
「お金で思い出しましたけど、この間貸した千円、いつになったら返してくれますか?」
「ぴゅ〜」
「口笛吹いて誤魔化しても無駄ですよ」
お小遣い前だから竜持君に借りたお金を返すことが出来ない私は話を誤魔化そうとしたけれど、無理だった。だって今は返せないんだもの。
竜持君に、はあ、と深いため息を吐かれた。いや、この際なんでもいい。
「付き合ってほしいの」
「何処に?」
「……」
「…知里子さん?」
「私と付き合ってほしいの」
「…知里子さんにしては面白い冗談ですね」
本題に入ると、竜持君はバカにしたように鼻で笑った。
いつもならつっかかるが、今回はそういうわけにもいかない。竜持君の機嫌を損ねてしまえば、協力してくれるものも協力してくれなくなる。我慢我慢。
「本当に付き合うってわけじゃないの。仮に付き合ってほしいの」
「…どういうことですか?」
眉間にシワを刻む竜持君。
竜持君は虎太君や凰壮君とは違ってあまり鋭い目をすることはないのだけれど、今回は彼らがするような目つきになっていた。
…私がそうなるようなことを言ったからなんだけど。
「…今日、隣のクラスの子に告白されたの」
「へえ。知里子さんに告白するなんて見る目ないですね」
が、我慢。我慢。
私は竜持君の言ったことばをスルーする。
「私、断ったんだけど、引き下がってくれなかったの。だから―…」
「まさか… "付き合っている人が居る" なんて言ったんじゃないでしょうね?」
「……」
「貴女って人は…」
何やっているんですか、と呆れられた。
呆れられるのは仕方ない。
仕方ないんだけれど、付き合っている人が居るなんて言わなければ引き下がってくれそうになかったんだもの。
「ごめん…!少しの間だけでいいの!私と付き合っているフリをしてくれれば…」
「そんなの無駄だと思いますけどね。すぐにバレるのがオチです」
「うう…」
今回ばかりは竜持君の意見に同意だ。
付き合っているフリをするなんてすぐにボロが出てしまうだろう。私、ウソは苦手だし。
…だったら、なんで「付き合っている人がいる」なんて嘘言ったんだろうね。そしてどうして相手はそれを信じてしまったのだろうね。
「―…1つ質問いいですか?」
「え?」
「どうして僕なんですか?知里子さん、凰壮君と同じクラスでしょう?」
違うクラスの僕に頼むよりも同じクラスの凰壮君に頼んだ方が色々とやりやすいでしょう、と言う竜持君。
「凰壮君なら何だかんだ言って上手くやってくれそうだけど…私がボロを出しそうで」
「…そうだろうと思いましたよ」
だったら何で聞いたんだ、と心の中でツッコミを入れる。
「…仕方ありませんね。この貸しはデカいですよ?」
「あ、ありがとう…!」
こうして私と竜持君は10日、彼氏彼女の関係になる約束をした。
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