契約彼氏(銀オフ) | ナノ


▽ 10日目(最終日)

契約彼氏最終日。
今日は竜持君との今の関係に終止符を打つ日。
私はいつものように、いつものように、を意識しながら放課後を迎えた。
最後の日だから一緒に登校しても良かったのだけれど、最後だからこそ、放課後だけを一緒に過ごそう、と昨日決めた。

「知里子さん」

いつものように竜持君が教室まで迎えに来てくれた。
いつもと変わらない笑顔を私に向けて私は自然と笑みが零れた。
今行く、ちょっと待ってね。と言って私は机の中のものをランドセルの中へと入れた。

「お待たせ。帰ろっか」

「ええ」

夕焼けがまるで今の私たちの心情をものがたっているかのようだった。いや、私の、かな。
私たちは2人並んで下校した。
いつも一緒に歩く通学路。
色んな話をした通学路。
明日も同じ道を通るけれど、今日までとは違った感じになるんだろうな、と思うとなんだか寂しく思えてきた。

「ちょっとそこで話しましょうか」

公園のベンチを指した竜持君に私は頷いた。
いよいよ、最後の時を迎えるのだ、と私は内心固くなっていた。

「…手、つなぎましょうか」

「うん」

差し出す竜持君の手に手を伸ばす私。
何気に手をつなぐのは2回目。付き合っていたら何度もあっても不思議ではないのに、私たちは回数は少なかった。
でも、こんな風に手をつなげれるのは今日で最後。だから3度目はない。
竜持君の手はあの時とは違って今日は何故だか冷たかった。
まるで、手をつなぐことは「今日までが約束の期間ですから」と事務的な行動にも感じられた。

「ねえ、竜持君…やっぱり立って話しない?」

「どうしてですか?」

「こういうことは早く済ませた方がいいから…」

"こういうこと"
それは私と竜持君の関係を終わらせる、ということ。
本当は終わらせたくないのだけれど、私は、竜持君とベンチに座ってのんびりと話をできる程、感情をコントロールできる自信がないから。…今日は笑顔で居ようって思ったのに、いざそうなると弱腰になってしまう。

「分かりました」

竜持君は何も聞かずに短く言った。
ベンチの前まで行くと、竜持君は私の方を向いてそれから手を離した。
竜持君につながれた手は空き、なんだか寂しくなった。

「知里子さん」

「はい…」

思わず敬語になる私。

「今日で約束の期間は終了を迎えます」

「うん…」

「明日からは今日までの関係とは違う関係になります」

「……」

その前に、と竜持君。

「最初に"今回の件はデカい貸しだ"と言ったこと…覚えていますか?」

「……うん」

そういえばそんなこともあった。
最初、この仮の彼氏彼女の関係を頼む際に竜持君は「この貸しはデカイですよ」と言っていた。
つまり、竜持君のお願いを聞いたら私たちは―…
嘘の彼氏彼女の関係は終わる。

「何をしてもらおうかずっと考えていました」

私は竜持君のお願いを聞くのが怖い、と思いながらも、うん、うん、と頷いた。

「色々と候補はありましたが、やはりこれが一番良いと思いまして」

さよならの時間だね

そもそも私が竜持君に頼んだのが悪かったんだ。周りに嘘を吐いたのがいけなかったんだ。これは私に課せられた罰。
こんなことをしなければ。
竜持君を好きになることなんてなかったのに。
こんなにさよならが辛くなることもなかったのに。

「……っ」

竜持君の要望を聞いたら、この仮の彼氏彼女関係は終わりだ。
竜持君はゆっくりと口を開いた。

「本物の彼氏彼女の関係になってくれませんか」

「え…?」

思わず聞き返した。
今、竜持君は何て言った…?

「…まさかでしたよ。僕が貴女のことを好きになるなんて」

最初は自分の聞き違いかと思ったけれど、竜持君の今の言葉、それから竜持君の表情を見ていると本当のことなんだということが分かった。
竜持君の頬は夕焼けのせいか赤く染まっているように見えた。

「知里子さん。僕は貴女のことが好きです。これからもずっと僕の隣に居てくれませんか」

「竜持君…」

涙が止まらなかった。
竜持君が私のことを好きって言ってくれると思わなかったから。
この関係が終わったら以前みたいに会話できないと思っていたから。

「す、すみません…。迷惑、ですよね。」

迷惑なんて思うわけがない。私は首を振った。

「ううん。違うの…。嬉しいの…!竜持君が私のことを好きって言ってくれて…!」

「知里子さん…」

竜持君は優しく私を抱きしめてくれた。

「今まで沢山悩ませてしまってすみません」

ううん、と私は竜持君の胸の中で首を振った。
だって私が竜持君にこんなことを頼んだのがいけなかったんだから。竜持君が謝る必要なんてないよ。
私はそう思いながら抱き返した。

「それから、思ったのですが」

「ん?なあに?」

竜持君は私の顔を見るように身体を少し離した。

「もしも…彼氏のフリを頼んだのが僕じゃなくて虎太君凰壮君だったら…彼らに惚れていましたか?」

いつもの竜持君なら余裕のある笑みを浮かべて訊ねるのに、今、目の前に居る竜持君は頬を染めて、視線は少し余所を向いていた。
なんだ。竜持君でもこんな顔するんだ。
そう思うと私は何だかおかしく感じられ自然と笑みがこぼれた。

「…笑わないでくださいよ」

「ごめんごめん。竜持君でもそんな表情もするんだって思うと…あはは!」

「知里子さんって意外と意地悪ですね」

「竜持君だって意地悪だよ?」

何度、竜持君にドキドキされたことやら。
竜持君は不満そうにしているものだから、私は

「竜持君だから、惚れたんだよ」

竜持君の質問に答えてにっこり笑った。

「…それを聞いて安心しました」

竜持君も同じようにほほ笑むと、知里子さん、と私の名前を呼んだ。
私に向けられる笑顔がなんだか恥ずかしくて、そしてくすぐったかった。

「もう一度僕とキスしてくれませんか?あの時はどうも気持ちが入っていなかったので」

「うん…!」

竜持君と2度目のキス。
今度は温かくて、甘酸っぱい味がした。


契約彼氏
愛したのがきみでよかった。


++++++++++++++++++++++++++
後書き

こんにちは管理人の佐琥真です。
最後まで契約彼氏を読んでいただきありがとうございます!

以下、お話についてです。
最初は竜持君だけと絡む話にしようかと思っていましたが所々に虎太君や凰壮君も登場しています。
結局、凰壮君はどんな気持ちだったのかはハッキリとは書いていませんでしたが(苦笑)
続編or番外編を書くかもしれませんが何時になるかは分かりません…。
書くなら凰壮君をもっと絡ませた話を書いてみたいと思っています。

最後まで読んでいただきありがとうございました…!
次の新作は何を書くかはまだ未定ですがいずれはまた書きたいと思っていますのでその時はまた宜しくお願いします☆
(2013.03.31)
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