▽ 8日目
契約彼氏8日目の朝。
いつも通りに何気なく登校していると、虎太君、竜持君、それから凰壮君らが誰かを待っているかのようだった。
「おはようございます知里子さん」
「あ、おはよう」
私に気付いた竜持君はいつものように挨拶してくれたが、彼の両サイドに居た虎太君と凰壮君は何処かばつが悪そうにして私から視線を逸らした。
虎太君、凰壮君、ほら。と、竜持君に言われると、2人とも私の方を見て、
「「…ごめん」」
何故か謝られた。頭まで下げて。
「えっ、な、なんで2人とも頭を下げるの…!?」
私、別に謝られるようなことをされてないんだけど、と付け足すが、竜持君は「いいえ」と言う。
「虎太君は知里子さんを泣かせました。理由が何であれ知里子さんを泣かすのは僕が許しません」
「いや、あれは私が―…」
勝手に泣いてしまったようなものだし、あれで泣いてしまう私の方がどうかと思うぐらいだし。
それでも、竜持君は私の意見を聞かずに、虎太君の頭を無理矢理下げた。
「…悪かった」
「こ、虎太君が気にすることないよ。私も悪かったんだから…」
「……」
「…お、お願いだから頭あげてくれないかな?」
私、全然気にしてないから、と言うと、竜持君はやっと虎太君の頭から手を引いた。
…なんだか虎太君に頭を下げられるとなんだか私まで頭を下げたくなる。
「…てか、凰壮君は何で?」
虎太君が謝る理由は分かったけれど、凰壮君は謝られるようなことをされた記憶はない。
「詳しくは聞いてませんが何か言われたんでしょう?」
確かに言われた。
しかし、「お前をそんなに悩ませたりはしない」は…謝るようなことではない。
「…悪い。2人だけで話させてくれないか?」
虎太君と竜持君に聞かせたくない内容なのか、それとも竜持君には聞かれたくないからなのかは分からないが、凰壮君は2人にそう言った。
「…分かりました。では、僕らは先へ行ってますね」
さあ、虎太君。行きましょう。と竜持君と虎太君は先へと行った。
竜持君たちが先に行ってから私はゆっくりと口を開いた。
「ご、ごめんね。竜持君にちゃんと説明してなくて…。凰壮君は私を心配してくれただけって言えば良かったのに―…」
「いや。良い」
「……」
「それよりも、竜持に言わなかったんだな。あのこと」
だって、竜持君に言ったらどうなるか分からないじゃない。
私が竜持君のことで悩んでいる。それを見て凰壮君は「俺だったらそんなに悩ませない」って言うと…竜持君は良いように思わないかもしれないし。
「ま、でも。仲直りできてよかったな」
「う、うん…」
「さ、早く学校へ行こうぜ」
「あの…凰壮君」
あのセリフってどういう意味なの?って聞こうとしたけれど、
「…俺は嘘は言わない。それから、同じことは二度も言わないからな」
凰壮君は恥ずかし気も無く、そう言って竜持君たちのところへと行った。
(…結局、どういう意味…?)
私は良く分からなくて首をかしげるだけだった。
* * *
放課後。
私と竜持君は2日ぶりに一緒に下校しているんだけれど、ここ2日間色々あったせいでなんだか久々に感じられた。たった2日間程一緒に帰っていないだけなのにね。
それなのに、なんだか変に緊張する。
「知里子さん。手、つないで帰りましょうか」
「ふえぇえっ!?」
緊張のせいもあるけれどいきなりの申し出に変な声が出た。竜持君が、私と手を…!?
そんな私の様子を見た竜持君は「ぷっ」と小さく吹き出した。
「相変わらず面白い反応しますね」
「お、面白くないし…!」
「そんなに僕と手をつなぐのがイヤですか?」
「う…」
イヤなワケがない。
むしろつなぎたい。こちらから頭をさげてまでお願いしたいぐらいだ。
「…どうなんです?」
でも、こんな意地悪な聞き方をしてくる竜持君に素直に「イヤじゃないよ」なんて言えるわけがない私。
「…竜持君こそ私と手をつなぎたいの?」
此処はあえて質問をし返してみる。
竜持君のことだから「質問を質問で返すのはどうなんですか?」なんて切り返しをされる気もしたが、彼は少し考えるような仕草をした。
この反応は少し意外だったりもする。
「…そりゃあ、つなぎたいですよ」
「えっ…!?」
「なんです?おかしいですか?」
竜持君が素直に答えるなんて思っても居なかったし、しかも、つなぎたい、なんて言うと思っていなかったからビックリした。
…下校だから誰が見ているか分からないから、「僕たち付き合っていますよ」を示そうとしているだけかもしれないけれど。
まあ、何でもいいです、と竜持君。
「さ、知里子さん」
と、私に手を差し出した。
私よりも少し大きな手に触れることに戸惑いながらも、私は手を伸ばした。
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