1周年企画 | ナノ


▽ Don't you envy me?


"異性の幼馴染が居るって良いね"
友達に良く言われる言葉だ。
しかし、私は皆がどうしてそんなに羨ましがるのか理解出来ない。

「康太ー。一緒に帰ろうー」

「…………ああ」

一緒に帰るのが当然かのように私たちはいつも一緒に帰る。一緒に帰る意味なんて考えたことない。
幼馴染というのは、小さいころからいつも一緒に居て、隣に居るのが当たり前。他の人に比べたら幼馴染のことは何でも知っているような存在だと私は思っている。
多分、みんなは"親しくて何でも知っているような仲"が羨ましいのかもしれない。

「今日さー、ウチのクラスの根本が女装してたんだけど、また康太が関与しているの?」

「………………そんなことはない」

「いつもより間が空いてるのは気のせい?」

「…………気のせい」

もー、勘弁してよ。私のクラスのイメージが悪くなるじゃない、と、私は言った。
いつも、こんな他愛のない会話をしながら帰っている。
会話が途切れることもあるけど、別に気まずいと感じたこともない。
逆にそれが心地よく感じる。
康太と同じ時間を共有することが出来ているからか、それとも、昔からこんな感じたったからか、はっきりとした理由は分からないけど。
私は、これからもずっと隣に居ることが出来るんだ、と勝手に思っていた。

「あ、土屋君じゃないですか!」

何処からかともなく現れたのはDクラスの玉野さん。黒髪の三つ網で可愛らしく笑顔が素敵な子だ。

「こんなところで会うなんて偶然ですね!」

「…………そうか?」

「そうですよ!私は土屋君と出会えて運命を感じました!」

きゃっきゃっと嬉しそうに会話をする玉野さん。

「ところで相談なんですけど、今大丈夫ですか?」

「…………問題ない」

康太はそう言うと私の方を見て、

「…………悪い。先に帰ってくれ」

と。

「あ…うん、分かった。じゃあね」

私は笑顔で手を振ったが、康太たちに背中を向けると私から笑顔は消えた。
高校になってから康太と一緒に居る時間はずいぶん減ってしまった。
そりゃあ、中学の時とは違う友達と一緒に行動するようになったし、友達によっては私と一緒に居れないことだってある。

「……分かっていたはずなんだけどなあ」

どうしてだろう。
最近、不安になる。
昔は、「ずっと康太と一緒に居ることが出来る」なんてなんの疑いもなく思っていたけど、高校生になってからは、「ずっと一緒に居ることが出来ないんじゃないか」と思い始めた。
高校生。
高校生になると、彼女の1人や2人出来てもおかしくない年頃でもある。
いつまでも幼馴染の私が隣にいるわけにもいかない。いかないけど…

「…それはいやだなぁ」

康太の隣に私以外の女の子が居るなんてイヤだ。
イヤだと言っても、いずれは康太にも彼女が出来て最後は結婚するからそんなこと言っても仕方がないけど。

『小梅って土屋君のこと好きじゃないの?』

ふと、友人の言葉を思い出した。
いつも一緒に居るからてっきり好きなのかと思ったとも言われた。
しかし、私はそのとき、

『幼馴染だよ?そんなこと考えたことないよ』

あはは、と笑った。
だってそうでしょ?
幼馴染は相手のこと知り過ぎてそれ以上の関係には発展しない。
アニメや漫画では幼馴染から恋人に、なんて展開はあるけれど、私はそんなのはないと思っている。

「…だから、幼馴染なんて羨ましがるものじゃないんだよ」

私が好きでも康太は同じ感情を抱いているとは思えない。
あーあ、康太のことで私がこんなに悩んでいるなんて何だか癪だな。
だってこのことを康太は全く知らないんだもの。あたりまえだけど。

「…………幼馴染がどうしたって?」

「うわぁ!?―…って、康太!?」

私の独り言に反応されて驚いた。
と、とりあえず…平常心、平常心。

「も、もう驚かさないでよ!びっくりするじゃない」

「…………別に驚かしたつもりはない」

「ところでさっきの子はいいの?」

「…………ああ。もう用事は済んだ」

「そう」

正直、康太が何をやっているのか私には分からない。
何か商売みたいなことをしている、という噂は聞いたけれど、私は詳しくは知らない。何故か康太は教えてくれない。

「…………どうかした?」

「えっ?」

「…………沈んでいるように見える」

幼馴染だからか、私の少しの変化に敏感だ。
時と場合によってはそれが困ることもある。今みたいにね。

「き、気のせいだよ!もー康太は心配性だなぁ!」

私は無理にテンションを上げて康太の背中をバンッと叩くと、「うっ…」と小さい声が漏れた。

「…………痛い」

「あ、ごめん」

「…………」

そして黙り込む康太。
あれ、そんなに痛かったのかな?最近、力加減が上手く出来ないからなぁ。気をつけないと。

「…………何かあったらすぐに俺を呼べ」

「え?」

でも、私が思ってたことと違っていた。

「…………俺が抹消してやる」

「あ、あははー…気持ちだけ受け取っておくよ」

これは幼馴染だから。
幼馴染だから康太は私のことを気にかけてくれているのであって、別に、異性として気にかけているわけではない。
…だから、幼馴染って関係はイヤなんだ。

* * *

ある日の昼休憩のこと。

「あ、康太だ…」

次の授業が移動教室だから早めに行こうとしていると、康太が友達と居た。

『ムッツリーニさー坂木さんとはどういう仲なの?』

私の話題だ。
聞いてはいけないと思いながらも私は柱に隠れて聞き耳を立てた。

『…………別に。ただの幼馴染』

『ただのってワケはないでしょ。あんなに仲が良いのに』

『…………そんなことはない。幼馴染だからそう見えるだけ』

『うーん。僕にはお似合いに見えるけどなぁ。付き合えばいいのに』

『…………考えたことない』

"考えたこと無い"
その言葉が何度も何度も私の頭の中でループする。
…聞くんじゃなかった。
私は康太たちに気付かないように一歩、また一歩後ろに下がり、彼らに背中を向けて走り出した。
だから幼馴染はイヤなんだ。
好きになっても恋愛に発展しないから。
私のこの気持ちはどうすればいいの?何処に向けばいいの?

「…もう、嫌だ」

幼馴染を辞めれたらな、なんて思う。
…普通に考えて辞めれないけど。

「あ、あれ…?」

おかしいな。
どうして涙が出てくるんだろう。
零れてくる涙を手で拭っても拭っても涙は止まる気配はない。

「分かっていたのになぁ…」

康太が私のことを異性として好きになるなんてないのに。
私だけ想っていても仕方がないことなのに。

「…………小梅?」

考えれば考えるほど負のループに陥っていると、康太の声が聞こえてきてビクっとなった。

「…………泣いているのか?」

その問いに私は何も答えずに走り出した。
肯定するわけにはいかない。
康太に涙を見せるわけにはいかない。説明できないから。
私はただひたすらに走り続けた。

「…………どうして逃げる」

しかし、康太の足の速さにかかれば捕まえるのはたやすいことだった。
私は相変わらず後ろを向くことは出来ない。

「……言えない」

「…………泣いている理由は?」

「……それも言えない」

「…………誰に泣かされた?」

言えない、と言ったのに何故聞こうとする。
私は無言を貫いた。

「…………小梅を泣かす奴は誰であろうと許さない」

それは幼馴染だからでしょ?
幼馴染だから優しくしてくれるんでしょ?
昔から傍に居て、兄妹みたいな感じだったから。

「もう、いいよ…」

「…………小梅?」

康太が優しくしてくれるのは嬉しい。
昔からそう。
何かあったら私のためにいつも頑張ってくれた。でも、それは幼馴染だから。
私は、康太のことを異性として好き。
だから、そんな優しさは要らない。

「いつも自分のことより私を優先するの、もう良いよ」

「…………どうして」

「もう高校生だよ?私なんかよりも彼女を作ってその子に優しくしてあげてよ」

「…………さっきの話、聞いてたのか?」

本当は聞いていたけど、私は首を振って否定する。

「聞いてないよ。幼馴染の私に時間を割くよりも康太の好きな子に時間を使ってって純粋に思ってるだけ」

「…………本当にそう思っているのか?」

「思っているよ。だから―…」

もう、私は康太の隣から居なくなるね。
そう続くはずだったが、康太にきしめられたため言うことはできなかった。

「こういうのも止めてよ…」

変に期待してしまうから。

「…………まだ分からない?」

「何が」

「…………俺は小梅が好き」

「幼馴染としてでしょ?」

「…………違う」

康太は強く否定した。

「…………俺だって小梅のこと、異性として好きだった。昔からずっと変わらず」

「…え?」

ドクン、と心臓が跳ねた。

「…………小梅が俺のことを『異性として見れない』って話をしているの聞いてから、俺は自分の気持ちを押し殺した」

「…え?だったら、さっきのは…?」

「…………だから、さっきも明久にあんなことを言った」

じゃあ、康太は、私の気持ちを優先してたってこと?
私が友達に『異性として見れない』って話したから…幼馴染として傍に居ようとしたの?
…自分でまいた種、じゃないけれど、なんか情けないな。

「…………もう一度言う。俺は小梅のことが好き」

「……」

「…………小梅の気持ちを聞きたい」

私は、ようやく、康太の顔をきちんと見ることができた。

「……私も康太のことが好き」

"異性の幼馴染が居るって良いね"
友達にそう言われて理解できなかったけど今は理解出来る。
そして堂々と言うことができる。
"良いでしょ"って。



Don't you envy me?



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後書き

1周年記念企画第4弾。
亜久亜様からのリクエストで「ヒロインの両片思いで最後はハッピーエンドの切甘」でした。
定番の幼馴染ネタで「知り過ぎて恋愛に発展しない。でも、私は好き」で書かせていただきました。

亜久亜様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.12.02)
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