1周年企画 | ナノ


▽ I'm feeling same as you.


"坂木さんって普通だよね"
クラスメイトに良く言われるが、私は"普通"って言われるのが嫌いだ。
"普通"は何処にでも居る平凡な人で集団の中に紛れると絶対に目立たないということ。
極端に言えば「居ても居なくても分からない人」と私は思っている。
私は"普通"と言われるのは嫌いだが残念ながら否定することはできない。

(…だからと言って変わろうとは思わないけど)

私はこんな人だから、今までも同じクラスだったと気付かれずに次の学年へと上がることもあったし、酷い時は名前を覚えらてないこともあった。
好きな人に名前を覚えられていないことだって何度もあった。
だから、"今回も" いつもと同じ結果で終わるだろう。

「あ…」

トクン、と胸が高鳴った。

「土屋君だ…」

私は1年生の時から土屋君に片思いをしている。
1年生の時、同じクラスだったけど、土屋君と話したことは数えるぐらいしかない。しかも、全部事務的な内容。

「…格好良いなあ」

誰にも気付かれずに土屋君をぽーっと眺めているのが好きだ。
友達に今の独り言を聞かれると必ずと言っていいほど否定される。
そして引き合いに出されるのが久保君とか吉井君。…彼らには怪しい噂が絶えないけど実際はどうなんだろうか。

『居たぞ!ムッツリーニだ!』

『捕えろっ!』

『…………"俺を捕まえる" 意味は分かっているんだろうな…!』

沢山の足音が聞こえてきたかと思うと土屋君はそんなことを言いながら逃げて行った。
…捕まるようなことをしたのかな。

「…でも、聞けないよね」

まだ、同じクラスだったら聞くことはできたかもしれないけど、今は別のクラス。それに別に親しかった仲でも適度に話す仲でもなかった。
こんな私が話かけたらおかしいよね。
…もしかしたら、私のこと、覚えてないかもしれないし。

「…やめよやめよ」

私は首を振った。
ネガティブな考えは止めよう。
いつものことなんだから、気にしたら負けだ。
そう、負け。
私は、土屋君を見るだけで満足なんだ。

* * *

キーンコーンカーンコーン

今日の授業の終わりを告げた。
私は特に部活をやっているわけではないのでそのまま帰宅する。

(あ、土屋君だ…)

教室の窓の外を見てみると土屋君を見つけた。
相変わらず女の子の写真を撮っていて、避けられているようにも見えるけど。

(…私は撮られないよね)

撮ってくれたらそこから会話を発展させることが出来るかもしれないのに。
ああ、でも、私にはそんなコミュニケーション能力はないか。あはは。

(……ちょっとだけ、土屋君のところに行ってみようかな)

近づくだけなら、なんの問題はないよね。
私はそう思って土屋君の近くまで足を運んだ。

(……あれ、土屋君…?)

鼻血を出して倒れていた。
ど、どうしよう。誰か人を呼んだ方がいいよね?で、でも、その間に何かあったら大変だし…。

(あれ、もしかしてこれって…)

話が出来るチャンス、だよね?
私は心の中でガッツポーズをしながら恐る恐る土屋君に近づいた。

「ああ、えーっと…大丈夫?」

「…………問題ない」

鼻血を出して倒れている土屋君の傍にしゃがみ込む。本人は問題ないと言っているが、彼の口を押さえる手の隙間からは鼻血と思われるものが流れてきた。

「あ、ぽ、ぽぽ…」

「…………?」

「ポポポっ…ポケットティッシュ、使って!」

「…………ありがとう」

ポケットの中からティッシュを出して、それを土屋君に差し出した。
…なんで噛んでしまったのよ私。これじゃあ凄く変な人じゃないの。
あぁもう!土屋君に絶対変な人って思われた…!
折角、久々に会話ができたのに…。しょんぼり。

「…………前にもこんなことがあった」

でも、そんな私を気にすることもなく、土屋君は鼻血を拭き終わった後にそんなことを言い出した。
こんなことって…私が土屋君にティッシュをあげたってことかな?
でも、私が記憶している中ではそんなことなかったと思うんだけど。だって、好きな人と会話出来たことは嬉しくて忘れないし。

「…………入学式のとき」

「入学式…?」

入学式…。はて、何かあっただろうか?
顎に手を添えて考えみるものの、あの時は何もかもが新鮮過ぎていちいち覚えていない。それに、土屋君という存在をまだ認識していない。
土屋君はきっと私と誰かを勘違いしている。
私はクラスの男子とかに覚えてもらえるような人じゃない。
成績が良いわけでもなければ、運動だって出来るわけでもない。かと言って全然できないわけではない。つまり、普通。
見た目だって何処にでもいそうな平凡な顔だし…。うん、きっとそうに違いない。

「…………体育館に向かう前、俺は今と同じ状況だった」

「……体育、館…」

体育館。鼻血。倒れている。男の子。
キーワードを頭の中で思い浮かべてみる。

「……私のスカートの中を見た子…?」

「…………み、見てないっ!」

ブンブンブン、と首を振っているがまた鼻血を出しているところをみるとそうなのだろう。

「思い出した…」

土屋君の言う通り、私は入学式のとき、そんな男の子に出会っている。

『…次、体育館か』

確か、あの時は…体育館に向かう途中で少し強い風が吹いてフワリとスカートが舞った。

『…………!』

これほど反射神経の良い子は見たことがない。
少しだけ、スカートの丈が膝上15センチぐらいに上がっただけなのに視線がこちらに向いた。私の太ももに。
そして、鼻からは赤い液体が流れていた。

『…………』

多分、私のスカートを見てたんだろうな。
そう思ったけど、不思議と怒りは込み上げてはこなかった。見た目のせいもあるかもしれないけど、なんだか可愛いな、って思ってしまった。

『……よかったらティッシュをどうぞ』

『…………ありがとう』

頬を赤くしながら私のティッシュを受け取った。
あの時は土屋君のことを意識していたわけではなかったから、今みたいに噛むことはなかった。
けど、あの時に会ったのが土屋君だったなんて…。

(でも、良く考えたら同じクラスだったんだから覚えていない私がおかしいよね)

どうして覚えてなかったんだ。
もしかして、「変な奴だったな。とりあえず、忘れよう」ってすぐに頭の中から消去したのかな。…私、そんな便利の良い頭を持っていたっけ?

「……覚えててたんだね」

「…………(コクリ)」

内容はどうであれ。
私の身体は熱くなった。
今まで覚えてくれる男子なんて居なかったから。

「私の名前は?」

…いや、名前は覚えてないかもしれない。
覚えていなかったらショックだな、と思いながらも私は土屋君に訊ねる。

「…………坂木小梅」

即答だった。
土屋君は悩む様子なく私のフルネームをちゃんと答えた。

「…………元クラスメイトの名前ぐらい覚えている」

初めて言われたセリフだった。
だって、今までは「お前、だれだっけ?」ってケラケラ笑われていたばかりだったから。

「…………坂木?どうした?」

「ううん、なんでもないの…」

嬉しくて。
嬉しくて。
私は涙が溢れていた。

「…………ごめん」

「なんで土屋君が謝るの?むしろ感謝したいぐらいだよ」

「…………?」

「…初めてなの。こうやって異性の元クラスメイトと話が出来たのは。名前もちゃんと覚えててくれたのは」

「…………どうして」

「…多分、私が普通だから…印象が薄いから覚えられないのかな…」

何か特徴的な子だったら覚えてもらえる。
でも、私は何処にでも居る平凡な子だから覚えてもらえない。

「…………俺はすぐに覚えた」

「え?」

「…………ここの学校に来て、初めて覚えた名前は坂木」

「…なん、で?」

土屋君は今まで出会った人とは違った。
名前を覚えてくれていただけでも嬉しいのに、土屋君は私の名前を最初に覚えた、と。
私の顔をまっすぐ見て言った。

「…………好きな人の名前はすぐに覚える」

「……!」

「…………俺と付き合ってくれないか」

「…もちろん、です」

むしろ私には断る理由がなかった。
だって、私も

「土屋君が好きだから」



I'm feeling same as you.




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後書き

1周年記念企画第5弾。
萌様からのリクエストで「ヒロインの片思いから最後は恋人になる」という内容でした。
最後の展開が急な気もしますが…
やっぱり両思いで付き合うのが素敵だと思います。

萌様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2013.01.02)
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