▽ Count Down
「へ?プリクラ?なんでまた」
今日の授業が終わって、全ての荷物をカバンの中に詰め込んでいたら吉井がプリクラを一緒に撮りに行こうと話かけて来た。
「いやぁ、僕らも高校生だからね。今のうちに高校生らしいことをしておこうかと思ってさ」
吉井の言い分はまあ、辛うじてなんとなくわかった。
私らは高校生だけれど、一般的な高校生がやりそうな「プリクラを撮る」ということをやったことが無い。
他の人はどうか知らないが、私は残念ながら生まれてこのかたプリクラを撮ったことが無いし、撮りたいとも思わない。
だって、結構お金かかるし。
まあ、それは良いとして…。
「…何でこの3人なの?」
吉井、康太、それから私の3人。
いつものメンバー(坂本、秀吉、それから姫路さん、美波)ならば特に不思議にも思わないが、どうしてこの3人なんだ。
「秀吉は部活でしょ?雄二はいつものことで霧島さんと一緒だし」
「姫路さんと美波は?」
「さ、さぁ…?」
秀吉と坂本の方は仕方ないにしても、姫路さんと美波が揃って居ないのはおかしい。
吉井は何かを企んでいるのか、明らかに挙動不審。そして目線も泳いでいた。彼はウソを吐くのが苦手だからね。
「…吉井。何か企んでない?」
怪訝な目線を吉井に送るとさっきより更に慌てた。
「そそそ、そんなことないよ!む、ムッツリーニも何か言ってよ!」
「…………明久が突然言い出したから良く分からない」
「帰る」
丁度帰る支度も完了したし、康太のお陰で吉井が何か企んでいるところが分かったところで私はカバンを持って教室からさようなら。
「坂木さんっ…!」
…しようとしたけれど、私の目の前に吉井が立ちはだかった。
「僕からの一生のお願い…!一緒にプリクラ撮ってほしいんだ…!」
「……」
必死に頭を下げる吉井。
はぁ…何でこんなに頼み込むんだろうか。
…撮るなら姫路さんや美波と一緒に撮れば良いのに。
それだったら両手に華、ハーレム気分を味わうことが出来る。
私、康太、吉井だと…なんだろう、このメンバーは。と、首を傾げたくなるし。
吉井にとってのメリットはどこにもない。
…まあ、吉井が此処まで頼んでいるから、何か事情でもあるのかもしれないな。
「…私、お金出さないからね。それでも良いのなら」
「…!ホントに?やったー!ありがとうー!」
「…………」
ため息混じりに言うと、吉井はパァっと笑顔になった。
隣に居た康太はいつも通りで何も言わなかった。
* * *
私がOKを出したところで私たちは近くのゲームセンターに行くことになった。
…この3人で何処かに行くのは初めてだなぁと思いながらも、やっぱり、心の隅のほうでは「何か企んでいるのでは?」と疑念が消えない。
(ねぇ、康太。本当に何も知らないの?)
ルンルン、と音符が飛んできそうな吉井の後ろで私は康太にヒソヒソと話かけた。
(…………知らない。明久がいきなりこの3人でプリクラ撮ろうと言い出した)
(…何か引っかかるんだけどなぁ。吉井はただでさえお金がないと言うのに)
(…………確かに。全額出すと言う辺り怪しい)
(だよね…)
「さぁ、ついた!…って、2人ともどうしたの?」
吉井に気付かれないようにと話を続けていたが、ゲーセン、そして、プリクラ機付近についたところで吉井が振り向いた。
「な、なんでもない!ね、康太…?」
「…………!(コクリ)」
「…?そう…?」
腑に落ちない顔をした吉井だが、「ま、いいか!」と言わんばかりに気持ちを切り替えた。
「で。どれで撮る?」
「…え?」
「いや、だって、プリクラは女の子の方が詳しいでしょ?」
何で坂木さんは訊き返してくるんだ、とでも言っているようなキョトン顔の吉井。
詳しいのは世間一般的な女子高校生であって、私は世間一般的な女子高校生ではないからね。知らないよ。
ちょっと外れているからね。
データ集合で言えば私は異常値みたいなものだからね。一つだけ集合から外れているみたいな。
「…………小梅は詳しくない」
「おい、勝手に代弁するな」
…まあ、全然否定は出来ないけれど。
「そうだよねー…。ま、内心そうじゃないのかなって思っていたんだけどね!」
「そんなに怒られたいのか吉井は」
笑顔で言われるとこちらも笑顔で平手打ちぐらいしたいものだ。
「…こういうのはどれも同じなんじゃない?適当に空いているところで良いよ」
素人の考え。
まあ、早く終わらして帰りたいっていうのが本心でもあるが、私は投げやりにそう言った。
「ええー!」
「何でそんなに嫌がる!女子かお前は!」
だったら吉井が決めてほしいものだ。
「…んじゃあ、空いてるところでいいよ」
「…私に一体どうして欲しいんだ」
はぁ、とため息を吐いてから私は空いていたプリクラ機を選んだ。
吉井も吉井で自分に選択権を貰っても困るから仕方なしに私の意見に賛同したように見えた。康太は相変わらず何も言わない。
「んじゃ、お金入れるね」
各自荷物を下に置いてから、吉井は小銭を投入。
いよいよスタート、ってわけだが…
「あ、私、良く分からないから全部吉井に任せる」
「ええー!?僕だって分からないよ!」
「じゃあ、康太?」
「…………明久なら大丈夫だと信じている」
「……分かったよ」
撮り方選択とかフレーム選択とか私良く分からないし、任されても困るから、そうなる前に吉井に託した。
吉井も吉井で撮ったことが無いから分からない、と騒いでいたが、まあ、此処にいるメンバーは誰も撮ったことがない。
私も康太も動く気がまるでなかったのが分かってか、吉井はため息を吐いた。
つーか、吉井がこの3人でプリクラ撮ろうって言い出したんだからそれぐらいはやってよ、と心の中で呟いた。
「…あれ、メールだ」
吉井は何だかんだ言って手際よくフレームやらを選択していっていたが、ポケットの中から携帯電話を取り出した。
「ごめん!姉さんからメールが来てて至急帰って来いって…。本当にごめん!」
「え、あ、ちょっと…!」
私が呼び止めるものの、吉井は「それじゃ!」とだけ行って帰って行った。
いやいや、「それじゃ!」じゃないよ…!コレどうしろって言うんだ。
吉井がプリクラ撮りたくて連れて来たんじゃないの?私と康太でどうしろと。
「…ど、どうしよっか」
ヒソヒソ話以外あまり会話をしていない康太に訊ねてみる。
「…………折角だから撮る」
「え?いや、折角って言っても…」
私、良く分からないよ?こういうの。
康太だって良く分かってないんじゃないの?
「…………お金は明久のもの。それに、お金を入れたら撮るまで出ることは出来ない」
「そ、そうだけどさ…あ、その辺の子に譲るとか…?」
康太と一緒に写真(と、言ってもプリクラだけど)を撮れるのは嬉しい。
嬉しいけれど、男女2人がプリクラを撮るとかって…こ、恋人同士がやることじゃないの…!
しかも、こんな狭い空間2人っきりだなんて…考えただけで逃げ出したくなる。
だから、その辺に居る女子高校生に譲るのが一番良いよ。どうせ自分のお金じゃないし。
「…………そうも言ってられない」
「え?」
ほら、と康太が指す向こうを見ると、カウントダウンが始まって居た。
3、2、1―…
カシャリ。
「…………」
私は言葉が出なかった。
何故かって?
1つは、変な顔で写ってしまったから。
もう1つは、康太と一緒にプリクラを撮ってしまったから。
…死にたい。
「…………小梅、変な顔」
「う、うるさいっ…!」
だって、撮られると思っていなかったし、いきなりだったから。
「わ、私、やっぱ帰るっ…!」
後は康太に任せて私は帰る。
プリクラとか良く分からないし、2人きりで写真を撮るとか恥ずかしいし、こんな狭い空間一緒に居ることだって堪えれない。
カバンを持って1歩、2歩と外へ出ようとしたが―…
「…………1人にされても困る」
ぐいっと康太に手を引っ張られてしまったために出ることは出来なかった。
それに加え、康太が勢いよく引っ張り過ぎたせいか、私は少しバランスを崩してしまい、康太に抱きかかえられる形になってしまった。
そしてそこでシャッターが切れた。
「あわわわわわわ…!」
勿論私は急いで康太から離れた。
そして画面を見ると奇跡的に綺麗に撮れていた。撮れていたのはいいけれど、なんだこの恥ずかしい状態は。
「…………す、すまない」
「…い、いや、私の方こそごめん…」
事故とは言え、抱きかかえられるような形になってしまって。
「…あああ、あとは普通に撮ろうか…!」
「…………そ、そうだな…」
この後、私たちは不自然な感じでプリクラを撮った。
気に入った写真を何枚か選んで落書きをしたけれど、正直、やったことがなかったから分からないまま書いた。
康太も落書きしてくれたけれど、私も康太もスタンプをペタペタ付けるとかしかしてなくて何だか…まあ、いいけど。
「ええっと…ご、ごめんね」
「…………どうして謝る」
「だって…吉井が居なくなって2人でプリクラ撮ることになって」
普通に考えたら好きでもない女の子と一緒にプリクラ撮るのってどうなんだろうか。
私は、康太のことが好きだから内心嬉しいから問題はないんだけれど。
…ただ、プリクラとしてあとが残るから恥ずかしい。
「…………別に、良い」
それに、いつも撮る側の康太にとって撮られる側はどうなんだろう。
あまり良いものじゃないのかもしれないし。
「…………小梅と一緒に撮れて良かったから」
「…え?今、なんて言った…?」
ボソリと呟いたためハッキリと訊き取ることが出来なくて訊き返すと康太は首を左右に振った。
「…………な、なんでもない」
「…?」
私は頭に疑問符を浮かべながらも先へ先へと行く康太の後ろを着いて行った。
Count Downゼロ距離になるまで後どれくらい…?
おまけ(プリクラを撮りに行った経緯)
「ムッツリーニと坂木さん。見ているとじれったいよねー…僕たちどうにかならないかな?」
「そういうのは本人たちに任せておいた方が―…」
「雄二ってば自分に自信がないからって逃げるんだ?」
「……上等だ。よし、秀吉も含めてじゃんけんといくか」
「なんでワシまで…」
じゃんけんの結果。
吉井の1人負け。
こうして吉井は二人にプリクラに行こうと声をかけたのでした。
ちなみにメールが入ったのは勿論ウソです。
++++++++++++++++++++++++++
後書き
1周年記念企画第8弾。
レナ様からのリクエストで連載番外編でほの甘でした。
最初は○○の秋、にしようとしたのですが…気付けば冬休み終わってました(苦笑)
すみませんでした(土下座)
レナ様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2013.01.13)
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