1周年企画 | ナノ


▽ My strategy victory


ある日の生徒会室。
今日は俺と唐沢しか居なくて各自作業をしている。と、言っても、生徒会の仕事はほとんど片付けてしまったから、宿題をやっているだけだが。

「そういえば最近どうよ?」

「どうとは…?」

いつもならば、黙々と宿題をするのだが、今日は違った。
以前、自称唐沢の彼女と言っていた坂木さんが生徒会室に乗り込んで来て騒ぎまくって、それから、帰りに告白されているところを偶然に目撃、それを唐沢は安心した、ということがあった。
それから、というものの、俺は何故か2人の関係が気になって仕方がない。
早く付き合ってしまえばいいのに、なんて思う。

「坂木さん。最近、見ないなぁと」

「ああ。あいつのことか」

と、再びノートの方に視線を戻す唐沢。

「…最近様子が変なんだが」

「え?」

「以前のように俺に付きまとってこなくなった。まあ、俺としては安心して暮らしていけるから嬉しいことなんだが」

特に気に留めた様子もなく、唐沢はスラスラとシャーペンを走らせる。
いやいや、何でそんなに普通にしていられるんだよ。
気にしろよ。
あんなに付きまとっていた坂木さんが唐沢から離れたって…それ、なんかの前触れなんじゃないか。
前に見た坂木さんなんて俺なんかアウトオブ眼中だったし、何故か話の流れで振られたし(告白したつもりもなかったが)

「また、告白でもされたんだろう。小梅は黙っていればモテるからな。中身はあんなんだが」

「……」

「…モトハル?」

「やっぱさ。お前、坂木さんのことが好きだろ」

ここでようやく唐沢の手がピタリと止まった。

「なんの冗談だそれは」

「冗談なんかじゃねーよ。お前、どう見たって坂木さんのこと好きだぞ」

「何処をどう見たらそう見えるんだ」

「何処をどう見てもそう見えるぞ」

「……」

そして無言になった。
反論できなくなったのか、それとも反論するのが面倒に思ったのか良く分からないが。

「…何故そう思う」

まさかの理由を聞かれた。これは少し意外だったりもする。

「前に坂木さんが告白されて断った時あっただろ?あの時、唐沢は彼女が断ってたのを嬉しそうにしていた。今だって、お前は何事もなかったかのように宿題をしているようには見えるけど、俺には唐沢が彼女の様子がおかしいって教えてくれる前に比べると何処となく動揺しているように見える」

…まあ、後半は推測っつーかでっち上げ、だけどな。
別に動揺したようには見えなかったが、そうでも言わないと唐沢は白状しないだろうし、認めないだろうから。

「……」

俺が長々と言ったあと、唐沢は何も言わなかった。
何も言わずにまた宿題を続けていた。
どうして何も言わないのかは…俺には分からない。とりあえず、早く認めろよこの野郎。

「…モトハル。お前、やっぱ凄いな」

少し間を取ってから唐沢はそう言った。
やっと認める気になったか、と少しホっとする俺。

「小梅のことを考えるとこの辺が…ドキドキする」

と、胸のあたりに手を当てて言う唐沢。
そうだ、それだ。
唐沢。お前は坂木さんに恋をしているんだ。
白状するまであともう少し。

「小梅を見つけると、全力で逃げたくなる」

「…は?」

「変な汗が出る」

「…え?」

「そして逃げたくなる」

「ちょっと待て」

何で逃げたくなるんだ。
好きだったら一緒に居たいと思うんじゃないか。
…やっぱり、俺の勘違いだったのか…?
いや、でも、待て。
好きな人と一緒に居たら何を話して良いのか分からなくなったり、一緒にいたら心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかって思ったり…ああ、それで緊張して変な汗が出るって唐沢は言いたいんだな。
き、きっとそうだ。そうに決まっている。

「どうしたモトハル」

「い、いや。なんでもない。気にするな」

「…?そうか」

何でもないのなら良い。と唐沢は言うと再びノートに視線を移した。
宿題の続きをやるつもりだろうがそうはさせないぜ。

「唐沢。坂木さんを此処に呼んでみないか?」

「…今の話聞いていたよな?」

「聞いていた。聞いていたからってのもあるが、俺も、この目で確かめてみたいと思ってな」

「何を」

「坂木さんの変貌を」

あんなに唐沢大好きな子が唐沢につきまとってこなくあるなんて何かあるに違いない。
それか、唐沢の勘違いかもしれない。
話を聞いているだけだと判断しづらいし、これは、彼女を呼んで俺の目で確認する必要がある。
唐沢は「分かった」と短く言うと、手際よくメールを送った。
多分、5分もしないうちに彼女はこの生徒会室にやってくるだろう。

「送ったが…来るのに時間がかかるらしい」

「なんで?」

「ちょっと手が離せないんだとさ。今、教室で大富豪をしているとか。終わったらこっちに向かうらしい」

「……」

確かにそれはおかしい。
俺の知っている彼女ならば、そんなの切り上げてダッシュでこちらに向かってくるのに。
終わってから向かう、だと?

「どうしたモトハル」

「い、いや…。唐沢の言う通り確かに様子が変だな」

「だろ」

…まあ、それでも冷静な唐沢も十分に変だと思うけど。
それから1時間経ったぐらいで坂木さんは生徒会室にやってきた。
やって来たのだが、以前みたいに走って来ないで、スリッパの音を規則正しくペタペタと鳴らしながら生徒会室に来た。

コンコン―…

しかも、ちゃんとノックまでする、ときた。
これはいよいよおかしいぞ。

「失礼します―…。としゆきから呼ばれたので伺いました」

「あなたは誰ですか」

丁寧にお辞儀をして最後ににっこりとほほ笑んだので俺はツッコまずに居られなかった。

「以前お会いしたじゃないですか。…確か…モトハル君、と言いましたよね?お久しぶりです」

「だから誰ですか」

こんなに丁寧な言葉遣いではなかったぞ。
やっぱり頭を打ったのですか坂木さんは。

「酷いことをおっしゃるのですね。確かに、以前の私ははしたない行動を数々していましたから仕方がないと言えば仕方がありませんが」

「…唐沢に対してもそんな感じなんですか?」

「…まあ、もう少し崩した感じにはなりますが、大体はこんな感じです」

「ほら、言っただろ。小梅は変になったと」

「……」

唐沢は嘘を吐いていなかった。
嘘は吐いていなかったけど、これは「様子が変」のレベルを越え過ぎだろ。
つーか別人にも程がある。
頭を打っただけではこうも変わりはしないぞ。本当にどうしてしまったんだ坂木さんは。

「あー…ちょっと悪いが、トイレ行ってくる」

この場に居ては状況を整理することができない、と俺は言ってから立ち上がる。
生徒会室を出る前には、

(…しっかり話しろよ)

と、唐沢にきちんと言っておいた。

* * *

「さて、と」

生徒会室を出てから少しだけ歩いてから直ぐに生徒会室の前へと戻ってきた俺。
トイレ?
そんなのウソに決まっている。
俺が居ては唐沢は坂木さんと話することが出来ないから、俺は空気を読んで部屋から出て行ったってわけだ。
…まあ、でも、

「会話は聞かせてもらうけどな」

唐沢に気付かれないように持ち出していたコップを取り出して、それを生徒会室の扉へと付けた。
そして、耳を当てた。

『…久しぶりだな』

『うん、そうね…』

ス―…と椅子を引く音。それから、椅子に座る音が聞こえてきた。
多分、立っていた坂木さんが椅子に座ったのだろう。

『…言葉遣い変だぞ』

『…そうかな?』

『特にモトハルに対しての言葉遣い…なんだあれは』

『モトハル君は敬語で話して来るのでそれに合わせたまでです』

『…以前はそうでもなかっただろ』

『以前は以前。今は今』

いつまでも、同じ私じゃないのよ、と坂木さんは言う。
一体何が彼女を此処まで真面目にしてしまったのだろうか。

『『……』』

以前なら坂木さんが1人で盛り上がっていて唐沢がため息を吐く、といった会話の流れだったが(それもおかしいけど)、今は唐沢が黙ってしまうと沈黙になってしまう。
…なんだか、空気が重い。
唐沢…!なんか喋れ…!喋るんだ…!

『…小梅』

俺がテレパシーを送ったからか(?)唐沢はようやく口を開いた。

『…お前がいつものように来ないと俺の調子狂う』

『え…?』

おお…!それだそれ!
俺が待ち望んでいたのはそういう展開なんだよ。
坂木さんは唐沢の発言が意外、と言ったような声をあげた。

『……』

そして、再び口を閉ざしてしまった唐沢。
…まあ、緊張はするからな。唐沢の気持ちも分かるぞ。
俺は生徒会室の外で1人でうんうんと頷いた。

『…どうやら俺もお前と同じ気持ちのようだ』

それはつまり。
坂木さんのことが好きってことだな。
やっとか。やっとか…!
俺は興奮する気持ちを抑えながらも盗み聞きを続ける。

『…宿題まずいの?』

『どうしてそうなる』

俺は思わずコケそうになった。
誰がボケろと言った。
別にそんなの誰も望んでねーよ!と、心の中でツッコミを入れた。
コホン、と唐沢は咳払いをした。

『…だから、俺は小梅が…いつものように楽しんで居るのが好きだ』

『…ほ、本当に?』

『こ、こんな嘘をついてどうする。俺は…小梅のことが好きだ』

坂木さんに疑われたため、唐沢はもう一度言う。
ハッキリと。
彼女のことが好きだ、と。

『…………』

暫く坂木さんの反応は無かった。
俺が実際のその場に立ち会っていないから彼女がどんな顔をしているのか、唐沢がどんな態度で言ったのか分からないが、少なくても二人とも心臓は煩いぐらいドキドキ言っているだろう。
…さて、次はどちらが言葉を発するのだろうか。
盗み聞きをしている俺の方がドキドキしてきたぞ。
神経を研ぎ澄ませ、俺は小さな声でも聞き取る勢いで耳をすませた。

『…やったぁぁぁぁあああ!』

聞こえてきたのは女子の声。
勝利の声と言ってもいいような、大きな声。耳を澄ます必要なんて全然ない。
…え?
いやいや、今の状況からしてなんかおかしくない?
坂木さんの今までの態度は…え?

『…小梅?』

唐沢も俺と同じ気持ちだろう。声からすると明らかにうろたえている。

『いやぁー、実は友達に"押して駄目なら引いてみろ"って言われてさー』

『……』

『ほら、今までの私ってとしゆきに対して押せ押せ!って感じだったじゃない?それでとしゆきからは何も変化はなかったからどうしようーって友達に相談、そして実行してみたわけよ。そしたら効果てき面!まさかとしゆきの方から告白してくれるなんて…!』

『……』

『私、嬉しくて発狂しそうです!ひゃっほおおおー!』

言葉を失った。
さっきまで静かだった生徒会室とは思えないほど騒がしくなった。そして、さっきまで喋っていたとは思えないほど唐沢は静かだった。

『私、一生としゆきについて行くから!ストーカーのごとく!』

『さっきの無し』

『ええー!そんなの知らないよー!私、ちゃんとこの耳で聞いたからね!としゆきは私のこと好きって!…きゃ、言っちゃった!恥ずかしい!』

『はぁ…』

以前のようにテンションの高い坂木さんの後から唐沢の大きなため息が聞こえてきた。
結局、俺には良く分からないけど二人は付き合うことになったらしい。なんだコレ。



My strategy victory.



++++++++++++++++++++++++++
後書き

1周年記念企画第9弾。
あずさ様からのリクエストで5万hits企画の「答えはyes!」の続編で二人がくっつく話でした。
ヒロインの押してダメなら引いてみろ作戦で見事付き合うことになるという感じで書かせていただきました^^
相変わらず良く分からないテンションになりましたが(汗)

あずさ様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2013.01.14)
[ ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -