▽ In the school infirmary after school
「ん―…?」
重い瞼を押し上げると、視界に入ってきたのは保健室の天井。
あれ、どうして私は保健室に居るのだろうか。確か、教室で勉強していたと思うんだけれど。
ヤバイ、思い出せない。
「…………大丈夫か?」
うーん、と独りで頭を悩ませていると聞こえてきた心地の良い声。
「…こ、康太?」
康太だった。
私が目を覚ましたからか、丸椅子から覗き込むように声をかけた。少し心配そうな顔にも見えたがきっと私の気のせいだろう。寝起きだし。
それよりもこの現状だ。
どうして私が保健室で寝ているか、だ。
さっきから頑張って思い出そうとしているが、隣に康太がいるせいか余計に思い出せない。むしろ状況は混乱するばかりだ。
「…………教室で倒れていた」
「…私が?」
「…………(コクリ)」
「寝ていたとかじゃなくて…?」
「…………何度も声をかけたが反応は無かった。色々と試し―…じゃなかった。寝ているわけじゃないと分かって保健室に連れてきた」
「おい、私に何をした」
何か途中で聞き捨てならない言葉が聞こえてきたぞ。
私が寝ている間に何をやったというのだこの男は。
ツーっと鼻から赤い何かが出ているけれど…大丈夫だよね?康太を信じて良いんだよね?
「…まあ、でも、ありがとう」
私を心配してくれて保健室に連れてきたのは確かだ。今回は大目に見よう。
「てか思ったけどさ。連れて来る時に誰かに会わなかった?」
普通に考えれば…私をお姫様抱っこかおんぶかして連れてきたんだろうけど(考えたら恥ずかしいから深くは考えない)、すれ違う人に好奇な目で見られたのではないだろうか。
…それだったら申し訳ない。
「…………問題ない。この時間帯で人が通らないルートは知っているから」
「ああ、なるほど。違う問題が発覚したことが分かったわ」
そうだ。
この男はムッツリーニという異名を持っているんだった。
校内に隠しカメラを設置していると聞いたこともある。だから、康太なら人通りの少ない通路をおさえることが出来るだろう。
…しかし、それって逆を言えば人通りの少ないところで何かよからぬことを―…いや、考えるのは止めよう。
「…………何が問題なのか分からない」
「何でだ」
「…………それより、」
「話そらしちゃうかー」
自分にとって都合が悪いと思ったのか分からないが康太は何食わぬ顔で話題を変えた。
「…………身体の方は大丈夫か?」
「やっぱり私に何かしたのか」
「…………俺が見つけたとき倒れてたから」
倒れてたから、大丈夫か、と。
康太はそう言った。
私が寝ている間に何かした、という話はもしかしたら私を気遣ってくれて(元気づけようとして?)の冗談だったのかもしれない。
今の康太は、私の言葉を気にしている様子はまるでなかった。そして、目を覚ました時に見た顔と同じ顔をしていた。
「…大丈夫だよ。そんなに心配しなくても」
「…………」
「私、見ての通り元気だし」
ね?と、笑ってみせたが康太は納得している様子ではなかった。
「…………小梅は最近、すごく勉強頑張っている」
「…え?」
「…………Aクラスを倒すことも大切。でも、小梅の身体の方がもっと大事」
「あ…」
最近はAクラスに勝つために勉強を頑張り始めた。
以前から勉強は陰でこっそりやっていたけれど、受験勉強みたいにガリガリやっていたわけではなかった。
…Fクラスの皆の役に立ちたい。
その一心で頑張っていたけど、康太の言うように私が倒れてしまっては元も子もない。
「…ごめん、康太。心配かけてしまって」
「…………(フルフル)」
保健室のベッドの中でもぞもぞと動かし、それから、ゆっくりと身体を起こした。
「…………まだ寝ていた方がいい」
「ううん。もう大丈夫だよ。てかいつまで寝ていたら帰るの遅くなっちゃうし」
「…………遅くなったら俺が送る」
「え、でも…」
「…………だからもう少し寝ておけ」
「じゃあ、お言葉に甘えてもう少しだけ」
康太が強く言うので私は彼の優しさに甘えることにした。
「勿論、私が横になっている間、康太は傍に居てくれるよね…?」
「…………も、勿論…!」
少しだけ康太の頬が赤くなっているように見えて、私は小さく笑った。
In the school infirmary after school++++++++++++++++++++++++++
後書き
1周年記念企画第6弾。
Ms.マロン様からのリクエストで連載番外編でほの甘でした。
あまり甘い要素を取り入れることが出来なかった気がしますが…(汗)
Ms.マロン様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2013.01.02)
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