1周年企画 | ナノ


▽ New route


「小梅、どったの?なんか元気ないように見えるけど」

昼休憩。
いつものように生島と一緒に弁当を食べていたのだが、彼女はいつもの私に比べて元気がないことに気がついた。

「そんなことないよ」

「ウソ。私の前では無理しなくていいよ」

「……」

「もしかして彼氏のこと?あれだったら私がぶっ飛ばしてあげるよ!」

生島にはどうやら誤魔化すことが出来ないようだ。
生島は私の彼氏、ミツオ君が原因だと思って腕をまくって見せたが、私には彼女のその様子がおかしくて仕方がなかった。

「もう、そうじゃないの。そうじゃ、ないの…」

「…小梅?」

私の声が段々と声が小さくなったからか、生島は心配そうな表情になった。

「…私、不安なんだ。ミツオ君にとって私は負担なんじゃないかって」

「へ?何言っているの?アンタらはどっからどう見たって仲良しじゃないの。ムカツクぐらい」

「そうかな…」

「だってそうでしょ?毎日毎日メールして私にメールの内容まで教えてくれるじゃない。『見て見て!ミツオ君が今日私の夢を見たって!ふふふ!』って…。つーか、こんなの私に言わせるんじゃないよ!泣けてくるじゃない!」

「ごめんごめん…」

でも、と、私は会話を続ける。

「私、不安なの。メールを送るのはいつも私の方からだし、一緒に遊びに行くのだっていつも私から誘っている。ミツオ君、本当は無理に私に合わせてくれているんじゃないかって…。だったら…」

「だったら、なに?」

「無理に合わせるぐらいなら…別れた方がいいんじゃないかな…」

「それ、本当にそう思っているの?」

「……」

生島にそう言われて私は言葉に詰まった。
本当にそう思っているのか?
本当は…別れたくないよ。
私、ミツオ君のこと好き。離れたくない。ずっと一緒に居たい。
でも、ミツオ君には負担かけたくないの。

「…まあ、今の気持ちを私に無理に言わなくてもいいけどさ。それ、彼氏に言ってやれば?」

「え?」

「たまにはテメーからメール寄こせやボケェ!って」

「ぷっ…」

握りこぶしを作り今にでも襲いかかってきそうな表情で言うので思わず吹き出してしまった。

「悩むなとは言わないけどさ。小梅は笑っている方が可愛いよ」

「そ、そんなこと…」

「だから、いつまでもそんな葬式みたいな顔しないの」

「生島…」

「よーし、そうと決まったら決戦に向けて作戦会議をしようじゃないか!」

「ちょっと待って。私たち戦うわけじゃないんだけど」

変に張り切っている生島に突っ込みを入れながらも、私はそんな彼女の気持ちが純粋に嬉しかった。

* * *

放課後。
待ち合わせ場所に行くともうミツオ君は来ていた。

「よお、小梅」

ミツオ君は左手はポケットに手を入れ、右手を軽くあげた。
ミツオ君はいつもそうだ。
自分からは誘ったりはしないくせに、待ち合わせ時間には遅刻したことがない。むしろ、私よりも後に来たことがない。

「ん、どうかした?」

ミツオ君っていつもどれぐらい待っているんだろうか。
人を待つのって何故かなかなか時間は経ってくれないし、待てば待つほどイライラが増していくはずなのに。
どうしてミツオ君はいつも笑顔なの?

「……」

「おい、大丈夫か?」

…いや、もう、考えるのはやめよう。
昼に生島に言われた通り、素直に言おう。

「もしかして誰かに苛められたのか!誰だよそいつ。俺がとっちめてやる!」

「あのね、ミツオ君」

一瞬、デジャヴを感じたが私は気にしないことにして、本題に入ろうとした。

「…私のこと、好き?」

入ろうとしたが、なんだか女々しい入りになってしまった。
しかも、私に照れが入ってしまったせいか、ミツオ君の頬が赤くなっているように見えた。

「も、勿論好きだ」

「だったらさ、なんでメール送ってくれないの…?」

「えっ…」

予想外なコメントが返って来たからかミツオ君は狼狽した。
ミツオ君の頬は元の色に戻っていた。

「いつも私からメール送ってミツオ君からメールを送ってくれたことないよね…?」

「それは…」

「メールだけじゃない。デートだっていつも私が誘っている。ミツオ君に『何処に行きたい?』って訊いてもいつの間にか私が行きたいところに行ってるし…」

「……」

「…私、ミツオ君の重荷になっていない…?」

自分が思っていることを全て言うことが出来たけど、それと同時に自分の中から想いが込み上げてきた。
今は耐えているけど、耐えなければ泣いてしまいそうだ。

「"重荷になっている"なんて思ったことない」

「だったら…!」

どうしていつも私からなの?
私、不安で不安でたまらないの!ミツオ君は本当は私に無理に合わせてくれているんじゃないかって。
ミツオ君は私の気持ちを聞くと少し挙動不審になった。
…やっぱり私ってミツオ君にとって重荷なんじゃないの?
私を安心させるために否定しただけじゃないの?
そういう優しさは要らない…。

「ねえ、正直に言ってよ」

「……」

ミツオ君は少し気まずそうに頭をかいた。

「…正直に言って、引いたり、幻滅したりするかもしれねーよ…?」

「そんなことない…!私、それぐらいでミツオ君を嫌いになったりしないよ」

「…分かった」

ミツオ君は頷くと真剣な表情を私に向けた。

「俺だって小梅に負担をかけたくない」

「……」

「…もしも、俺がメールを送った時、タイミングが悪かったらどうしよう?って考えてしまうんだ。俺がメールを送ってしまったせいで小梅の1日の計画が狂ってしまったらどうしよう。家族と楽しく過ごしている時に俺がメールしたせいで邪魔になったらどうしようって…」

「……」

「…引いた?」

「引いてない」

ミツオ君が恐る恐る聞いてくるので私はハッキリと言った。
ミツオ君は話を続ける。

「デートだってそう。もしも、俺が連れて行った場所が小梅は気に入らなかったらどうしよう。"つまんねーところに連れて行くんじゃねーよ!"って陰で思われたらどうしよう。ツイッターで呟かれたらどうしようって思ってしまうんだ。だから、俺が行きたいところに行くよりも小梅が行きたいところに行ったら間違いはない。それなら小梅は楽しんでくれるし…」

「…もしかして、理由って…それ?」

「あ、ああ…」

「……」

「…幻滅した?」

私は小さく首を振った。
引く?幻滅する?
そんなわけないじゃないの。

「私、そんな女だと思っていたの?」

「え?」

「私、ミツオ君のこと好きなんだよ?好きな人から来たメールは忙しくても嬉しいし、好きな人が連れてってくれる場所はどんなところでも楽しいよ?」

「……」

「好きな者同士が付き合うって、そうじゃないの…?」

「…ごめん」

「…ばか」

私はミツオ君に抱きついた。
正直嬉しかった。
別に私のことが重荷になっているとかじゃなくて、私のことを考えてくれた結果、メールを送らなかっただなんて。私が行きたいところに行かせてくれただなんて。
でも、私は、ミツオ君が興味があることにも興味があるんだよ?
色んなところに連れってよ。

「じゃあ、今度、カラオケ行こうか」

「うん…!」

「でも、俺、童謡しか歌えないけど」

「それは引くわー」



New route
え、引かないんじゃなかったの!?
ふふふ、冗談だよ。



++++++++++++++++++++++++++
後書き

1周年記念企画第2弾。
ナツミ様からのリクエストで「バカップルだが、自分の気持ちが重くないか悩む。最後はハッピーエンド」でした。
あんまりバカップルな雰囲気が出ていないような気もしますが(汗)

ナツミ様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.11.27)
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