▽ 唐沢君の幼馴染に彼氏ができる
「私、彼氏ができたの」
突然の幼馴染の告白に驚く。いつもより目は見開いているが、帽子をかぶっているために凛からはそれをとらえることは出来ないだろう。
「そうか」
普段通りを装う俺。そうか、の一言で終わったが、本当はその一言では片付けることのできない気持ちでいっぱい。
凛のことは好きだけど付き合いたいとかそういうのではなく、いつも隣に居るのが当たり前だった。
そんな凛が、他の男の元へ行くんだと思うとなんだか居たたまれない気持ちになった。
「そうか、って…それだけ?他に何かいうことないの?」
「特にない」
「そっけないなぁー」
ま、そんなところもとしゆきらしいんだけどね、と楽しそうに笑う凛。
今までは俺に向けられていたその笑顔は今度は別の男に向けられると思うと嫉妬心が生まれてくる。…付き合いたいってわけでもないけど、他の男に取られるのは嫌だ。なんてわがままなんだ俺は。
「としゆきは居ないの?好きな子」
「……」
「あ、居るんだ?どんな子どんな子?」
お前だ、と言えたらどんなに楽だろうか。
生憎、今の俺にはそれを言う勇気を少しも持ち合わせていない。残念なことに。
ふう、と小さくため息をついて俺は言う。
「居た。けど、彼氏が出来たらしい」
一瞬、驚いた顔を俺に向けたが、へらっと笑う凛。
「そうなんだ。私と同じなんだね、その子」
その一瞬。
凛は何を考えたのか俺には分からないが。
少しでも良いから自分に気があったということに気がついてほしい。
…なんて、俺が言えた義理じゃないがな。
今日の夕日は一段と切なく感じた。
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後書き
ちょっと悲恋っぽい。珍しく真面目な話が書きたかったんです←
ヒロインの悲恋は注意書きが必要な気がするけど、相手の悲恋の場合はどうなんだろ?
注意書きが必要なんじゃない?と思う方がいましたら連絡をお願いします。
(2012.07.07)
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