▽ 伊月君と雨宿り(ヒロイン視点)
「もー最悪」
軒下から空を見上げながらぼやいた。
部活が終わってから1人でのんびり帰っていると雨が降り出した。最初はポツリ、ポツリ、と小雨だったから気にせず歩いていたが段々雨の強さは増していき、しまいにはバケツをひっくり返したような雨へと変わった。びしょ濡れな私を見て分かるように傘は持って居ない。気休めだが持っていたタオルで身体中を拭いてみる。
「…あれ、伊月君?」
向こうから足早にこちらへやってくるのは同じクラスの伊月君。雨に打たれているところを見るとどうやら彼も私と同じ状態のようだ。
「…あ、弓削」
屋根の下に入ったところで伊月君は少し驚いていた。私が此処にいたのが意外だったのかな?まあ、そうだよね。普通の女の子なら折りたたみ傘ぐらい持ち歩いているだろうし、まさか同じクラスの女子がびしょ濡れだとはね。
「一気にに雨ひどくなったよねー」
「そうだよな」
空を見てそして伊月君に視線を移した。
こんな大雨に打たれたのだから伊月君もびしょ濡れ。伊月君のキレイな髪からは雨水がしたたっており、思わず見惚れてしまった。
「伊月君って濡れてもカッコ良いんだね」
「…何を言っているんだ」
「これぞ水も滴る良い男って奴ですね」
「からかうなよ」
からかうとかそんなんじゃなくて本音なんだけどな。友達も伊月君のことカッコイイって騒いでいたし。水も滴る良い男ってのはただ単に私が言いたかっただけですごめんなさい。そんなことを思うと自然と笑ってしまった。
伊月君はカバンの中からタオルを取り出した。
「あー!なんで拭いちゃうかな」
私がからかったからか、伊月君は雨水を綺麗に拭き取るように念入りに頭を拭き始めた。
「いや、拭かないと風邪引くから」
拭く手を止めて言う伊月君。
「あ、そうだよね。早く拭いて!」
「…どっちなんだよ」
「いや、てっきりさ、私がからかったからかと思って」
あはは、と頭をかいた。なんだ、私ったら早とちりしたよ。いけないいけない。
それよりも、と伊月君。
「雨止んだらそのまま帰るのか?」
「え、そのままって?」
「いや、その…」
「…?」
何故か伊月君は言いづらそうにしていて私は不思議そうに首を傾げた。てかそのままってどういう意味なんだろう?あ、傘ももたずにってこと?もともと持ってませんけど。でも、これじゃあ話が繋がらないよね。うーん?
「貸す」
「え、ジャージ?」
私が悩んでいると伊月君はスポーツバッグの中からジャージの上を私に差し出した。貸すって言われてもこのジャージをどうすればいいんだろ?
「ほら、雨に濡れただろ?だから…その…」
「…?」
「…制服が身体にはりついてラインが分かる」
伊月君の言っている意味が数秒ほど分からなかった。が、言っている意味が分かった途端私の顔は火がついたように赤くなった。い、伊月君に見られた…!?は、恥ずかしい…!てか、みっともない…!あわわあわわ。
私は伊月君からジャージを受け取った。
「あ、ありがとね。伊月君…」
「いや、別に…」
私にお礼を言われて少し照れくさいのか伊月君は頬を赤くしていた。
「伊月君って優しいんだね」
「そんなことないよ」
「えーそうかな?優しく無かったらジャージなんて貸さないよ」
雨止んだら"はい、さようなら"だと思うし。
通学カバンを濡れてない地面に置いて伊月君のジャージを着てみた。
「やっぱ大きいねー」
手を伸ばしても伊月君のジャージからは手は出なくて、袖をぶらんぶらんさせてみる。つまりぶかぶか。
ってあれ?伊月君が口を押さえて余所を向いている。わ、私、変なことしたかな…?
「伊月君…?どうかした?」
「え、あ、いや、どうもしない」
「……?」
慌てている伊月君。理由は分からない。
「ジャージ、洗って返すね!」
「別にいいよ」
「いーや、絶対に洗って返す!」
伊月君がなんと言おうと私は自分の意思を貫いた。
借りたら洗って返すってのは常識でしょ?伊月君がいいよ、と言ってもイヤだね。
私が意地になって言ってたのが面白かったのか、伊月君はクスクスと笑った。これもまた絵になるなあ、と見惚れていたのは秘密。
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後書き
7月下旬に書いたはずなのに完成したのがお盆明けという。どうしてこうなった。
伊月視点も作りましたが男子高校生らしい伊月になっています。
それでもおkな方はどうぞ(笑)
(2012.08.17)
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