5万hit企画 | ナノ


▽ 追いかけっこ


あれから1日が経った。
康太から好きと言われるわ一緒の布団で寝ると聞かれるわで大変な日だった。翌日はどう会話したのか覚えてないけど。


「…しっかし」


これから康太にどう接すればいいのだろうか。いや、いつも通りで良いと思うんだけど。何せ私は今まで両想いというものになったことがなくどうしていいのか分からない。…つーか、私、康太に自分の想い伝えたっけ?…言っていない気がする。


「これじゃあ両想いって言えなくない…?」


駄目じゃん私。何やってんだよ。どさくさにまぎれて言ってないよ自分の気持ち。ああもう!改めて自分の気持ちを伝えるとかないわ。言おうとしたら心臓飛び出そうになるし。でも、きちんと自分の気持ちを伝えるべきだよね。好きって言ってもらえたんだし。私も好きだし。


「あーもう、どうしよう!」

「…………何が」

「うわっ!?」


頭を抱えて叫んでいると突然聞こえてきた男の声に私は驚く。
その男は私がさっきから頭を抱えている原因でもある土屋康太。って、ちょっと待って今はまだ面と向かって話すことは出来ないよ…!


「…………幽霊でも見たのか」

「え、な、何で?」

「…………そんな顔しているから」

「そ、そう」


いつものように私の隣に肩を並べて歩いている康太。いつも通りなのは康太でいつも通りでないのは私。私だけがぎこちなくて康太はいつも通り話している。…私がおかしいのか?


「…………月乃?」


私の様子がおかしいことに気が付いたのか康太は私の顔を覗き込んできた。って覗き込むなぁぁあ!ズザァァアっと私は勢いよく後ずさる。康太は不思議そうにこちらを見た。


「ご、ごめん。私、用事があるから先に行くね!」

「…………用事?」

「そ、そう!用事!つーことで、また!」


私は逃げるように康太の前から姿を消した。もー、逃げたのバレバレじゃん。てか、声もあからさまにおかしかったし。いや、まあいいわ。とりあえず、今は康太から逃げるのが先決だ。私は体育祭のリレーのように全速力で走った。

こうして私たちの追いかけっこは始まったのであった―…


* * *


キーンコーンカーンコーン

放課後。
私はチャイムが鳴ったと同時に荷物をまとめ終わるとダッシュで教室を後にした。康太が声をかける前に。


「…………月乃」

「うおぉおあ!?」


下駄箱で靴を履き替えていると康太のボソボソの声が聞こえてきた。つーか、追いつくの早くね!?


「…………月乃、ずっと様子が変」

「へへへ変じゃないよ!?」


これを変と言わずに何を変と言おうか。声が思いっきり裏返っている。まあ、そんなことはどうでもいいんですわ。


「じゃ、じゃあ、私はこれで!」


康太から逃げなくてはと、私は、ビシッと敬礼してまた走り出す。


「って、何でついて来るのー!?」


後ろから迫ってくる康太。逃げた意味ないじゃないか…!


「…………帰る道一緒だから」

「だからって言っても何で走るの!?」

「…………月乃が走ってるから」


確かに帰る道は一緒だけどなんで一緒になって走っているのかな。勘弁してよ。
私は女で康太は男。しかも康太の保健体育の成績はバツグン。そんなの敵うわけないじゃないの。追いつかれるのも時間の問題。


「…………捕まえた」


ほらね、直ぐに追いつかれると思ったよ。
腕を掴まれ前に進む足は自然と止まり同時に重い空気が流れる。う…、逃げたい。


「…………どうして逃げる」

「ににに逃げているつもりはないよ」


いつもより真面目な声に思わずビクリとする。私は相変わらずの裏返っている声。どうにかならないものか。


「…………忘れてくれ」

「え?」


自分の耳を疑った。康太、何を言っているの…?


「…………あの時に言ったことは忘れてくれ」


康太に好きって言われて嬉しかった。それを忘れてくれってどういうこと?


「何よそれ。どうしてそんなこと言うの!?」

「…………月乃が、」

「私がなんなのよ!?」


涙が溜まる。康太に好きって言われたことをなかったことにするなんて悲しいよ。嫌だよ。


「…………避けるから」

「…え」

「…………俺があんなことを言ったから」

「……」

「…………避けられるぐらいなら無かったことにしたい」


私の腕にグッと力が込められた気がした。


「…………月乃と一緒に居られないのは辛い」

「……ごめん」


私、最低だ。
自分の勝手な行動で康太のことを傷付けていた。


「……どうしていいのか分からなかった」

「……」

「康太に好きって言われて嬉しかった。私も同じ気持ちだから。でも、いつも通りに接することが出来なかった」

「……」

「ごめん。本当に」


自分の気持ちを素直に言い終わったが康太の方から返事が返って来なかった。あれ、どうしたんだろ?私は変に思って後ろを振り向いた。


「…………やっとこっちを向いてくれた」

「…!!」


私が康太の方を向かないから向いてもらうように黙っていたのか…!
ばばばバカ!そんなこと言われると恥ずかしいじゃないの、と。また背中を向ける。


「…………月乃」


しかし、康太に呼ばれたため私はもう一度彼の方を向く。


「…………まだ月乃の気持ちを聞いてない」

「う…」


そういえばそうでしたね。いや、知っていたけど。改めてそう言われると照れと恥ずかしさと何かと良く分からない気持ちが混ざった感じになる。正直に言おう。混乱して何がなんだか良く分からない。


「…………教えてほしい」


でも、もう康太を傷つけたくない。だから、頑張って落ち着いて頑張ってストレートに言う。あれ、今、頑張ってって2回言った?いいや、気のせい。落ち着け自分。


「……笑わないでよ?」

「…………笑わない」


私は、

土屋康太、貴方のことが好きです―…





追いかけっこ
やっとキミの笑顔が見れた。






++++++++++++++++++++++++++
後書き

50000hit企画第17段。
綾瀬様からのリクエストで『私とメイド服とお泊まり』の番外編で甘いお話でした。
終わった連載のリクエストが来ると思ってなかったので嬉しかったです^^

綾瀬様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.07.19)
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