▽ バカは風邪を引かない
「うう…頭がぼーっとする」
布団の中でぼんやりと天井を見つめながら呟いた。
さっき熱を測ったら38度もあった。そりゃあ頭もぼーっとするわけだ。
ああ、何で風邪なんか引いたんだろ。ミツオ君みたいに真冬に川へ飛び込んだわけではないのに。原因不明だ。
ガチャ―…
そんなことを思っていると、部屋のドアが開いた。
「月乃、入っても大丈夫か?」
ミツオ君だった。
「普通はドア開ける前に聞くよね。それ」
「あはは、悪い悪い」
「悪い悪いじゃないよ、まったく」
もしも、私が着替えてなんかしたりしていたらどうするつもりなんだ。笑って済ませることではないよ。
言い忘れていたけど、私とミツオ君は一応、幼馴染でもある。でも、だからと言って着替えを見られたら流石怒るよ。親しき仲にも礼儀あり、だ。…あれ、なんの話だっけ。まあ、いいか。
私は、ふう、とため息を吐いて布団から起き上がろうとした。
「寝ときなよ。まだ熱あるんだろ?」
ミツオ君の手によって阻まれ、寝るよう諭された。
「や、でも、ミツオ君が来たっていうのに寝ているのは」
「俺のことは気にするなよ」
「でも…」
「でもじゃない。ほら、額だってこんなに熱いじゃないか」
私が渋っているとミツオ君は私の額にピトっと手を当てた。
「ばばばばばばか!ななな、なにやってんのよ!?」
「え?なにって熱を測って―…」
「それが何やってんのって言ってんのもう!」
私が慌てているのに対してミツオ君は、そんな私の反応が理解出来ない様子で首をかしげる。
仲が良いと言ってもミツオ君は男で私は女だ。つまり、異性。異性が年頃の女の子の額を触るというのは私にとってはドキドキどころでは済まない。たとえ幼馴染であっても。ああ、これ、ミツオ君のせいで熱上がったよ、絶対に。
ミツオ君は悪い、と言いながら手をひっこめ、私は恥ずかしい気持ちを抑えながら布団を口元までかぶった。
気まずい空気が流れ、ミツオ君は余所を見ながら頭をかいた。
「あ、そうだ。冷えピタを買って来たから使って」
そして、空気を変えるようにいつものテンションで言うミツオ君。
「あ、ありがとう」
ミツオ君はカバンの中から冷えピタを取り出したので私はそれを受取ろうとして手を出した。寝ている体勢のままで。
なのに、
「え、あ、月乃は寝ときなよ。俺が貼る」
何を言っているんだこの男は。コイツはまた私の熱を上げる気なのか。そうなのか。
くそう…!素でやっているのが憎い…!
「い、いいっ!それくらい自分でやる!」
「でも、」
「でもじゃない!もう!」
「あっ」
と、私は起き上がってミツオ君の手にあった冷えピタを奪い取り、ビニール部分を剥がし、それを自分の額に付けた。
ああ、冷たくて気持ちがいい。ミツオ君のせいで上がった熱もこれで下がるのではないかと思えるぐらいだ。
「……」
私が冷えピタを強引に奪ったためミツオ君は少し不満そうな顔になったけど、私は気にしない。私は悪くない。ミツオ君が悪いんだ。
まあ、とりあえず、話題を変えようか。
「それにしてもさ…どっから聞いたの?私が熱出したって情報」
よくよく考えてみればそうだ。
私とミツオ君は別々の高校に通っているというのに、どこで情報を仕入れたっていうのだ。
私の友達でミツオ君のことを知っている人は居ないし…
「え、ああ。月乃のおばさんから聞いた」
「……」
そういえば、ミツオ君のお母さんと私のお母さん、仲が良かったな。熱のせいで忘れていたよ。
「月乃が熱出したからお見舞いに来てあげて、って」
「あの母親…!」
何余計なことをしてんだ。
いや、確かにね?風邪引いている時にお見舞いに来てもらうと嬉しいよ。嬉しいけど…
ミツオ君を呼ぶ辺り、絶対に何か企んでいるだろ。
ミツオ君は何も考えずに"分かりました"って言ってホイホイと来そうだし。
私は手で額を覆った。
「しんどい?」
「そりゃしんどいよ。熱出ているんだから」
私の姿を見てミツオ君はそう言ってきた。
この男は何当たり前なことを聞いているんだ。
38度も出ているのにしんどくないわけなかろうて。それに、母親が余計な手を回したということが発覚したし。
そんなことを思いながら私はじと目でミツオ君を見る。
「そっか、しんどいか…」
ミツオ君は顎に手を当ててブツブツ言いながら何か考えている。どうした?私、特に変なことを言ってないけど。
「……」
そして無言になるミツオ君。そんな彼を不思議に思いながら首をかしげる私。
「確かじゃないけど、しんどくなくなる方法はある」
「は?」
何言ってんだミツオ君は。
私、別にこのしんどさをどうにかして欲しいなんて言っていないけど。いや、まあ、出来るなら取り払って欲しいけどさ。
…どうもミツオ君がやろうとしていることは素直に"お願いします"と言えない。勘違いしてそうだから。
「友達から聞いたことなんだけどさ」
「……」
期待はしていないが、黙って聞くことにしよう。
「〜〜〜!?」
黙っていた。うん、黙っては居たんだが。
気が付けば私の目の前にミツオ君の顔があり、私の唇には柔らかいものが触れていて、私は声にならない声が出た。…まあ、塞がれているから正確には声は出てないけど。
えと、つまり。私の唇とミツオ君の唇が重なりあったみたいです。
数秒経ってからミツオ君は私から離れた。
「あ、アンタ、自分が何やったのか分かってんの!?」
私は冷静で居られなくてパニっくになりながらそう言った。
「え、だって友達が"キスして移した方が治りが早い"って言って―…」
「なに鵜呑みにしてんだよ!?」
何が治りが早い、だ。
てか、そのデマをそのまま信じて実行するミツオ君もどうかと思う。
つーか。
「き、キスっていうものはそんな簡単にするものじゃないんだよ!?」
私とミツオ君の感覚が違うのか?いや、感覚が違うって問題じゃないと思うけど。
「え、そうなの!?」
「死ねぇぇええ!!」
何、"今知ったわ!"って顔してるんだ。
流石に小学生でも知っているわ。
「月乃、お、落ち着いて」
「これが落ち着いて居られるかぁああ!」
「熱が上がるよ」
「誰のせいだぁぁあ!」
ミツオ君の胸倉を掴んでガクガクと前後させるが、彼は冷静に返答する。
「私のファーストキスを返せぇぇえ!」
「ご、ごめん…」
「ごめんで済んだら警察はいらんわぁぁあ!」
「じゃ、じゃあさ、」
「なによ!」
「俺も初めてだったから…お互い様ってことに―…」
「ならんわぁぁあ!!」
私はこの日から1週間寝込みました。風邪はすぐに治ったけど。
ちなみにミツオ君には風邪は移らなかったみたいです。
バカは風邪を引かない何で風邪移らなかったんだろ。
++++++++++++++++++++++++++
後書き
50000hit企画第4段。
みりん様からのリクエストで夢主が風邪引いて看病してもらう、という内容でした。
素で恥ずかしいことをやって夢主が慌てる感じで書いてみました^^
ミツオ君はきっと天然に違いない←
何故か最後の方がギャグになってしまいましたが…orz
みりん様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.03.30)
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