5万hit企画 | ナノ


▽ 両手に華


「…アイツらって変だよな」

「そうじゃのう」

「普通なら仲が悪くなりそうなのに」


坂本、木下、吉井たちの視線の先には教室の隅っこで楽しそうに会話をしている女子二名。
一人はFクラスの立花月乃。もう一人はAクラスの工藤愛子。彼女たちは傍から見ると至って普通の女子高生で話に花を咲かせているように見える。此処まで見ると普通だ。しかし、内容を聞いてみると彼らが不思議がるのも無理はない。


『見て見て!これ、小学生のときの康太の写真なんだけどさ』

『わあ、かっわいー!ムッツリーニ君ってこんな小学生だったんだ?』

『そうなの!ホント何処でどう間違えてムッツリになったんだろ』

『この時は普通だったの?』

『うん、流石にね。あ、でも、高学年になるとなんかそういうのに興味を持ち始めてさ…もう大変だったんだよ』

『今のムッツリーニ君みたいな?』

『そう!もう、どれだけ私が苦労したことやら…』


今、思い出すだけでも友達に申し訳ないよ、とため息を吐く立花にニヤリ顔の工藤。


『ふうん…?でも、イヤではなかったんじゃないの?』

『え、い、いやだなぁ愛子ってば』

『ボクに隠そうったってそうはいかないよ?月乃の考えることなんてお見通しなんだから。勿論ムッツリーニ君の考えも、ね?』

『…愛子には勝てないなぁ』


あははは、と彼女たちは笑い合う。
…今までの会話を聞いてお分かり頂けただろうか?彼女たちはFクラスに居るムッツリーニこと土屋康太に恋心を抱いている。普通の女の子なら同じ男子に思いを寄せていると分かると、ライバル心を燃やして取りあいになる筈だが彼女たちは違った。何故かお互い土屋康太のことについて楽しく話をしている。


『そんなことないよ。ボクだって月乃とムッツリーニ君の関係には負けるよ。幼馴染っていいなぁ。ボクが入るスキなんて全然ないよ』

『そうかなぁ。愛子と康太が保健体育の話している時なんて私の入るスキなんてないと思うけど?あんなに楽しそうな康太は滅多に見ることできないし』

『それは月乃の目にフィルターがかかっているせいだよ。ボクはムッツリーニ君に全然気にかけてもらってないし』

『それこそ愛子にだってフィルターがかかっているよ。夏に海行った時なんて愛子、ちゃっかりと康太を膝枕していたじゃない。私、ちょっとだけ悔しかったんだよ』

『ごめん、そういうつもりはなかったんだけどな。…って、それ言ったら月乃だってナンパされた時に一人だけ心配されていたじゃん!ボクだって心配されたかった!』


お互いがお互い謙遜し合っていてなんとも奇妙な会話だ。


「この後二人が喧嘩するってことは無いよね…?」

「それはないじゃろう。今までだって似た会話をしていたが、喧嘩という喧嘩は一度たりともないぞ」

「そうだぞ明久。それよりも声を大にして言うことがあるだろ?」

「…ああ、そうだね、雄二」


お互い顔を見合わしてコクリと頷いた。


「「ムッツリーニが羨ましい…!」」

「……お主ら」


拳を握りしめて「どうしてムッツリーニなんかが…!」とブツブツ言っている二人。
そう言うのも不思議ではない。Aクラスの工藤愛子は頭も良くて運動神経抜群。それに、明るい性格で誰とでも仲良くできる性格から男女問わず人気が高い。一方Fクラスの立花月乃は工藤愛子とは違って頭は良くないが手先は器用で料理と裁縫が得意。男子生徒の制服のボタンが取れかかっているのを見かけては声をかけて手際よくボタンをつけ直したり、お弁当がない男子生徒におかずを分けてあげたりと、その気配りの良さが人気のポイントとなっている。勿論、女子生徒にだって同じ対応をとるが、彼女の居るクラスはFクラス。自然と男子からの人気を得ている、というのが現状。


『なんだかんだ言って康太は愛子のことを心配してたと思うよ?素直じゃないから』

『だといいけどなぁ』


こんな申し分のない二人がまさかの学年一ムッツリの土屋に想いを寄せて居るだなんて誰が思うだろうか。この事実を知った当時、FFF団は土屋康太を追いかけまわして“死刑”という言葉を口にした。が、「…………俺を敵に回すことはどういうことか分かっているのか」と懐から写真をチラつかせるとFFF団の動きは止まった。FFF団は土屋のムッツリ商会で売る商品がないと日々生きていけないのが現実である。可哀想に。



「ねえ、なんでムッツリーニなのさ!?」


女二人で会話をしていると急に吉井が彼女たちに近寄って来た。


「わ、ビックリした。どうしたの急に」

「明久のブサイクな顔が急に近づいて悪いな。気を悪くしないでくれ」

「僕はブサイクじゃないからね!?」

「明久もさっき言ったがなんでムッツリーニなんだ?もっと他に居るだろ?」

「「……」」


坂本に言われて考え込む二人。


「でも、そう言っても好きなものは好きなんだし」

「こればっかりはボクも月乃と同じ意見かな」

「「ねー?」」


と、にっこりお互いが小首を傾げて声を合わせた。木下は苦笑いすることしかできない。


「てか、坂本君は翔子ちゃんが居るんだからいいじゃないの」

「アイツはそんなんじゃねーよ」

「あららら?そんなこと言っていいのかな?」

「どういうことだ工藤…げ!」


人差し指を頬に当てて楽しそう笑う工藤に首をかしげる坂本だが、次の瞬間、背後になにかとてつもないオーラを感じて肩がビクリと上がった。


「……雄二。どういうこと?」

「翔子!待て俺の話を…!」


聞いてほしい、と言いたかっただろうが、坂本はその前にスタンガンによって気絶してしまった。ご愁傷様です。勿論、いつものようにその亡骸は霧島の手によってズルズルと運ばれ、Fクラスの教室は静かになった。


「まったく。雄二もバカだなよ。霧島さんっていう彼女がいるのにあんな発言するなんてさ」

「それは吉井君にも言えるなんじゃないの?」

「へ?」

「そうだよ。美波と瑞希は?」

「ななな何言っているんだよ二人とも!美波と姫路さんはそんなんじゃ―…」

「じゃあ、なんなのよ?アキ」

「詳しく聞かせて下さい明久君」

「え!?ちょ、な、なんで僕まで!?」


いーやーだ!と言いながらまたまたズルズルとFクラスからログアウトする吉井。デジャヴ。
残されたのは立花と工藤と木下。


「…さてと、そろそろワシはおいとまするとするかのう」

「え、木下君行っちゃうの?」

「まあ、そうじゃのう。厳密に言えば違うのじゃが…」

「?」

「暫くすると分かると思うぞい」


にっこりと笑うと木下もFクラスを後にした。


「暫くしすると分かるってどういうことなんだろ?」

「さあ?ボクも良く分からないけど…」


二人が首をかしげていると、スッ―…と静かにFクラスの戸が開けられる音が聞こえてきた。ん、木下君が戻ってきたのかな、思って二人は戸の方に視線をやる。


「あ、康太っ!」

「ムッツリーニ君!」


FFF団から逃れて来た土屋がそこに居て二人は彼に飛びついた。


「二人で待ってたんだよ?一緒にかえろ!」

「何処行ってたの?ボクも月乃も待ちくたびれたんだから」


両手に華というのはまさにこのことだろう、とこの状況を見たものは誰もが思うに違いない。
しかし、当の本人である土屋はというと、


「…………く、苦しい」


二人から勢いよく抱きつかれたため息するのもやっとという状態だった。


「ねえ、康太。私と愛子どっちが好き?」

「あ、それボクも気になるな!どうなの?ムッツリーニ君」

「…………秘密」

「またそれじゃん!いい加減教えてよー」

「分かった、月乃なんでしょ?」

「それはないよー。きっと愛子だよ」

「月乃はもっと自分に自信持ちなよ?ボクが言うんだから絶対だよ」

「ううん、こっちこそ愛子は自分に自信を持った方がいいよ。私が言うんだから絶対」

「…………何でもいいから俺を挟んで会話をするのは止めろ」


何だかんだ言ってこの状況に満足している月乃と愛子であった。





両手に華
…………女って分からない。





++++++++++++++++++++++++++
後書き

50000hit企画第14段。
裕様からのリクエストで愛子と友達で土屋の魅力を語り合う、という内容でした。
裕様本人も気にしてらしていましたが、土屋夢になってないような気も…?(苦笑)
そしてあんまり土屋出てないですねごめんなさい(汗)
でも、愛子と土屋の魅力を語り合う、という発想は無かったので凄く楽しく書くことが出来ました^^

裕様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.07.16)
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