▽ 二人で一つ
「ゴールデンウィーク、ねぇ…」
テレビのニュースをなんとなく聞きながら呟く私。
今年のゴールデンウィークは人によっては9連休だの10連休だのと言っているが、私たち高校生には関係の無い話。まあ、大学生ぐらいになれば授業をサボって9連休に出来る、と聞いたことがあるけれど、高校生以下の私たちはそんなことが出来るわけではなく、5月1日2日と学校に行かなければならない。どうせなら休みにしてくれればいいものの。なんて思いながら、せんべいに手を伸ばす。
「それにしても暇、ね」
ゴールデンウィークに入る前に皆で何処か遠出しよう、という話が出たが、美波と姫路さんは家族旅行、坂本は霧島さんと(無理矢理)デート、秀吉は部活があるとこのことで残念ながら、日程が合わなくて無しになった。
「……本屋でも行こうかな」
ショッピングモールだと人が多そうだから近所の本屋に行こう。そこそこ人がいるかもしれないけど、ショッピングモールとかに比べるとたかが知れている。
そうと決まると私は支度をして家を後にした。
「…あれ、あそこに居るのは…」
家を出て暫く歩いたところで見覚えのある後姿が目に入った。同じクラスであり近所でもある土屋康太だ。
よし、ちょっと脅かしてみようかな。運良く私の事を気付いている様子は無いし。
そろり、そろり、と足音を立てずに近づく私。もう少しで康太の両肩にポンッと手を置ける位置まで辿りついた。
「なっ…!?」
が、あと一歩、というところで康太はバッと後ろを振り向き、右手に持っているシャーペンの先が私に頬に向けられた。
って、何時の間にシャーペンを持っているんだ…!?
「…………なんだ月乃か」
康太はそういうと、何事もなかったかのようにシャーペンを胸ポケットにしまい歩き始めた。
「いやいや、"なんだ月乃か"じゃないわ!危ないでしょうに!」
一歩間違えれば私の頬にシャーペンがブスリ、だったじゃないか。シャーペンの跡って意外に取れにくいんだよ!
「…………月乃が背後から近づくのが悪い」
「なんでよ。脅かそうとしただけじゃない!」
「…………気配を消されて近づくと刺客と勘違いする」
「…一体どんな生活送ったらそうなるの」
たとえそうだったとしてもあの動きはタダ者じゃないよ。いや、まあ、康太はタダ者じゃないのは知っているけど。
ところで、と私。
「こんなところで何やっているの?」
「…………買い物の帰り」
「ああ、買い物、ね」
言われてみると康太の左手には茶色の紙袋があり、中には大量の雑誌が入っているように見える。
私が中身を確認しようと思って背伸びをして覗くが、康太は自分の後ろにそれを隠した。…きっとエロ本なんだろうな。隠すってことは。
「…………その目は何」
「いや、なんでも?」
エロ本でしょ?なんて言っても康太は誤魔化すに決まっているから言わないことにする。
「…………月乃は?」
「え?」
「…………こんなところで何をやっている」
いきなり話が元に戻るものだから何を聞いているのか分からなかった、と思いながら私は話を続ける。
「私はー…家に居ても暇だから本屋に行こうと思ってさ」
「…………折角のゴールデンウィークなのに予定ないなんて寂しい人」
「お前もだろ」
人のこと言えたものじゃねーよ!と。
「「……」」
そして私たちはお互いを見て無言になった。折角のゴールデンウィークなのに何やってんだ、と思ったんだろう。
「ねえ、康太」
これから一緒にどっか行かない?と、言おうとして私は飲み込んだ。
「…………なに」
ちょっと待て私。
それってデートしようって言っているようなものじゃん。
…昔はすんなり言えたのになんで今は言えないんだろ。ああ、あれだ、きっと昔は何も考えていなかったんだ。
じゃ、じゃあ、どうしたらいい?折角休日に出会えたんだから、どっかでのんびりと一緒に過ごせたらなあ、なんて思っても―…。
ん、一緒に?
「一緒にその本読もう!」
「…………断る」
即答された。
いや、まあ、普通に考えたら断るでしょう。その本、っていうのは康太が買った本、多分エロ本。
私って何言っているんだバカか。暑さで頭やられたのか。
「ああ、えっとあのその…」
「…………」
最初は普通だったのに段々とパニックになってきた。
勉強は出来ても私、こういうことは苦手なんだよ。ああ、どうしよう。
「…………ちょっと来い」
「え?」
何が何だか良く分からないまま私は康太の手に引かれて歩く。
一体全体何が起こっているんだ。
「……?」
そして連れて来られたのはセブ●ティーンアイスの自販機の前。
「…………アイスが食べたくなった」
「…あ、うん」
で?と聞く私。
「…………奢る」
「え、いや、いいよ!悪いし」
「…………いいから」
と、康太はお金を入れると私の方を見た。早く選べと言わんばかりに。
「えっと、じゃあ…」
チョコミントにしようかな、と思って手を伸ばしたら康太に手を掴まれて人差し指はクリームソーダーのボタンを押した。
少ししてから、ガコン、と音を立ててクリームソーダーが出てきた。
「っておいいい!何してんだぁぁあ!」
「…………悪いことは言わない。チョコミントは止めておけ」
「何でだよ!奢ってくれるんなら好きなものを選らばせてよ!」
「…………あれは歯磨き粉の―…」
「全国のチョコミントファンに謝れぇぇえ!」
康太はしゃがんで商品取り出し口に手を伸ばし、クリームソーダーを私に差し出した。
「…………その調子」
「は?」
ぽかんとして私は康太を見る。
「…………月乃、さっき様子がおかしかったから」
「……」
もしかして、康太はわざとあんなことを言っていつもの私みたいにさせるために…?
私が何を買おうとしても違うボタンを押すつもりで…
「…あ、ありがと」
私は小声になりながらもお礼を言い、アイスの周りについている紙をはぎ取った。
「お礼に私も奢るよ」
「…………それじゃあ意味がなくなる」
「いいのいいの。私がそうしたいんだから」
「…………じゃあ、」
と、康太は自販機のアイスではなく、私の持っているアイスに指を向ける。
「…………それが欲しい」
「え?」
「…………月乃のくれたらそれでいい」
ちょっと恥ずかしかったけど、私は喜んで頷いた。
二人で一つ…………月乃は笑顔が一番良い。
++++++++++++++++++++++++++
後書き
50000hit企画第7段!
つき様からのリクエストで『連載番外編でほのぼの』という内容でした!
ほのぼの、というよりギャグが少し混ざってしまったような気がしますが(汗)
つき様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.05.06)
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