5万hit企画 | ナノ


▽ 桜色の季節に


Fクラスの皆でお花見することが急きょ決まった。どうしよう。
いや、別に、皆でご飯食べたり騒いだりすることは好きだから全然問題はないんだけどね。問題は別のところにあるのだよ。
緊急会議として美波と瑞希以外の私たちは明久の家に集合した。


「どうして止めてくれなかったんだよ明久…!」

「え、僕のせい?てか、同性の月乃が言った方が効果的だと思うんだけど」


私は頭を抱えて明久にそう言ったが、明久は私に矛先を向けた。


「同性だからこそ言えないんだよ」

「どうして?」

「どうして?って…だから明久は鈍感なんだよ」


ここで私たちが悩んでいる事柄を説明しよう。
さっきにも言ったように私たちはお花見をすることになった。
お花見と言えば美味しいご飯や甘いお菓子だ。想像するだけでよだれが出そう。


「私が瑞希に"瑞希は作らなくて良いよ"なんて言ったら"月乃ちゃん、抜け駆けするなんて卑怯ですよ!"なんて言うに決まっている…」


そう、問題なのは料理だ。
私たちで料理して持っていくことになったのだが、瑞希が張り切って"私、美味しいものを用意しますね!"なんて言い出して、私たちは冷や汗が止まらなかった。
彼女は勉強は出来るが料理の方は非常に残念。…残念だけならいいのだが、それが殺人的なものであり、私たちは生死をさまようことになる。


「抜け駆けってどういうこと?」

「これだから鈍感明久は」

「え?何?え?」


明久は何か良く分からなくてキョロキョロと私たちの顔を見たが、うんうん、と明久以外は頷いた。だから何?ともう一度聞くが誰も答えない。
明久は、ポン、と手を叩いた。


「あ、分かった!姫路さんは負けず嫌いなんだね!?」

「もうそれでいいよ」

「ええ!?」


適当に私は言うと、明久はそんなあ!と言ったようなリアクションを取った。
…話が進まないな。全く。
坂本、話を進めて、と私は彼に進行役を託した。


「…姫路の暗黒物質を回避する方法を考えるわけだが」

「私、思ったんだけど、明久が一人で頑張れば良いんじゃないのかな」

「ワシもその意見に賛成じゃな」

「…………(コクリ)」


明久が処理することによって私たちが助かるというわけだ。


「ちょっと待って!?それじゃあ、僕だけが危ない目に遭うじゃないか!」

「可愛い女の子が心を込めて作った手料理に向かってなんてことを言うんだ」

「そう言うんだったら月乃が食べてよ」

「私は遠慮するよ。瑞希は私よりも明久に食べてもらいたいだろうし」


だってそうでしょ?
女の子は誰だって好きな人に沢山美味しく食べてほしいわけであって。瑞希も例外ではないだろう。
明久以外の男子勢は私の意見にうんうん、と頷いた。


「さて、意見はまとまったな」

「何もまとまってねーよ!」

「え?満場一致だったじゃないか」

「何処がだよ!」

「明久、ゲームのし過ぎて視力落ちたんじゃないの?」

「むしろゲーム売ったよ!」


あら、違った。んじゃ、勉強のし過ぎで視力が…ってそれはないな。
まあ、生活費がヤバいんだろうな、明久。ん、生活費?てことは…


「食い物に困っているんだよね。瑞希の料理食べて万事解決じゃないの」

「解決しねーよ!」

「ああもう。ああ言えばこういう。明久は何なの?反抗期ですか?面倒臭いな」

「月乃の方がよっぽど面倒臭いよ!」


明久はいつもの様にツッコミを入れた。


「坂本ー。閉めちゃってー」

「んじゃ、明日は遅れるなよ。立花は明久以外の食い物を頼む」

「了解」


ビシッと私は敬礼をして見せる。


「…………月乃の料理、楽しみ」

「うん、楽しみにしていてねー!じゃ!」


と、私たちは明久を無視して彼の家を後にした。


「……胃薬、準備しておこうかな」


一人残った明久は胃を抑えながら涙を浮かべていた。


* * *


翌日。


「月乃ちゃんおはようございます」

「あ、瑞希おはよー」


集合場所に着いたら大きな荷物を持った瑞希がにっこり笑っていた。
…その荷物の中身はきっと暗黒物質ですな。
大丈夫。全部、明久の胃袋の中に入れてみせるから。


「安心してね!」

「?何がですか?」


グッと親指を立ててみせたが、瑞希は理解できていない、と言ったように首を傾げた。…理解されても困るけど。


「……それより月乃ちゃん。月乃ちゃんも荷物が多いですね」

「え?ああ、これ?」


と、私は荷物をひょいっと上げた。


「もしかして月乃ちゃんまで明久君を狙って…?」

「いやいや、違うよ!」


紫色のオーラが出て髪がゆらゆらと立った瑞希を見て、慌てて否定をする私。
瑞希…怖い、怖いです。
本当は明久じゃなくて、明久以外の人達のため、なんて言えない。
…皆、助かりたいからね。あはは…。


「じゃあ、誰が目当てですか?坂本君?木下君?土屋君?」

「あー…ええっと…」


どうしよう。面倒なことになってきたぞ。
瑞希の目は真剣だから誤魔化したら怒りそうだし…ど、どうしよう。
ん、あそこに見えるのは…!


「ムッツリーニおはようー!」


マイペースにこちらへ歩いてくるのは土屋康太ことムッツリーニ。
私は彼を見つけるなり手を振りながら駆けて行った。
…瑞希が"月乃ちゃん…まさか…!"という声が聞こえてきたけど、今は気にしないことにしよう。


「ありがとう、助かったよ!」

「…………何の話」

「いや、こっちの話だから気にしないで。あはは」

「…………?」


まあ、この際、ムッツリーニでもいいや。
だって、坂本って答えたら霧島さんが怖いし、秀吉は性別は秀吉だから駄目だろうし。
ムッツリーニが無難な気がする。……人間的にはどうかと思うけど。

それから何分か経ってからみんなが集まった。
坂本が先に場所を取ってくれたお陰で良い席を確保することが出来て、私たちはそこへレジャーシートを敷いてその上に腰を下ろした。


「月乃と瑞希ったら…なんか張り切っているわね」


私と瑞希の荷物をじと目で見る美波。


「そういう美波こそ張り切っているじゃない?」

「べ、別にウチは…!」


美波は私と瑞希が作ってきた荷物を見て面白くない、といったような表情で自分の作って来た荷物に視線を落とし、私はそんな彼女をからかってみた。
反応は予想通りで頬を染めて、モジモジしはじめた。可愛いなあ。


「どれも美味しそうじゃのう」

「…………食べるの楽しみ」

「腹空かせて来た甲斐があったな」

「僕も!」

「はい、明久君。沢山食べて下さいね」


秀吉とムッツリーニと坂本が私たち(正しく言えば多分、私のと美波の)が準備した料理を見て目を輝かせていた。
彼らに便乗して明久も早く食べたい、と言わんばかりにしていたが、それにいち早く反応した瑞希が彼に、ずい、ずい、と自分が作った料理(らしきなもの)を差し出した。


「あ、瑞希だけずるい。アキ、ウチのも食べなさいよ」


と、もう一人加わり、結果的に明久の前には2人が用意した料理が並べられた。
…明久は顔に汗を滲ませている。


「え、えーっと…僕は月乃の―…」

「さあさあ、ムッツリーニ食べてよ」

「…………任せておけ」

「ムッツリーニだけずるいぞ。ワシも頂きたいのじゃが」

「勿論だよ」

「んじゃ俺も、」

「はいはい、どうぞー」


と、明久が私の料理に手を出そうとしたので彼の手を軽くペチンと叩いてやり、料理をムッツリーニの前に差し出した。
それを見た秀吉も自分も助かりたい、と言わんばかりに私の料理に食い付いた。坂本も。
勿論、私は取り上げる理由も無いのでどうぞどうぞと。


「…………美味しい」

「美々じゃのう」

「うめーな」


喜んで貰えてよかった。
最初は瑞希の料理から逃れるための保険的なもので頼まれたけど、こうやって喜んでもらえるとやっぱ嬉しいな。


「……雄二には、こっち」

「げ、翔子!?」


…喜んでいると何処からかともなく霧島さんが現れた。
ああ、私の料理よりも自分が作った料理を食べて、っていう奴だな。霧島さんも可愛いなあ。
よかったね、坂本。瑞希の料理から助かったわけじゃないか。…代わりに監禁されそうだけどね。
あー、坂本が連れて行かれた。ご愁傷様です。


「じゃ、私たちはこっちで楽しもうか」

「そうじゃのう」

「…………(コクリ)」


明久は相変わらず瑞希と美波に捕まって面白いことになって居るし。
残った者でのんびり花見としゃれこもうじゃないですか。


「って…坂本の分を作ってきたけど…三人で食べれるかな?」


坂本は良く食べるだろうな、と思って結構沢山作ってきたけど、坂本は霧島さんに連れて行かれてしまってこちらに戻ってこないだろう。
残ったのは私、ムッツリーニ、秀吉。
皆、大食いってわけではないし…。


「「……」」


ほら、ムッツリーニも秀吉も互いに無言だ。そして目で何やら会話をしているようだ。
なんだなんだ?何を会話しているの?私も混ぜてよ、なんて思っていると二人とも頷いた。


「無理でもワシが全部食べるぞ」

「…………俺だって…!」

「え、あ、ホント?無理してない?」

「「全然」」


食べてくれるのは助けるけど…
食べることを強制はしたくないけどなあ、と顎に手を添えていると、二人は美味しい美味しいと言いながら食べてくれた。
……美味しいんならいっか。


「早くしないと月乃の分も全部食べるぞい」

「…………早い者勝ち」

「え、私の分も残して置いてよ!」


二人は悪戯っ子の笑みを浮かべながら箸を伸ばしているのを見て、私も同じように料理に箸を伸ばした。


「…………月乃」

「ん、なに?」

「…………あーん」

「へ?」


何を思ったのか、ムッツリーニは私の作ってきた卵焼きを箸でつまむと、それを私に向けてきた。
え、あーん、って…なに?それを私に食べて、と?


「む、ムッツリーニどうかした…?頭でも打った…?」


秀吉が見ている前で何をやりだすんだ。


「…………俺は正常」

「ひ、秀吉も何か言ってよ!」

「んむ?いいんじゃないかのう?もぐもぐ」


秀吉に助け舟を求めようとしたが、彼はそれよりも私の料理に夢中のようだ。いや、それは嬉しいが、今は助けてほしかった。


「ワシのことは気にせずにどうぞ、じゃ」


と、彼はからあげに箸を伸ばした。


「……」


無言になる私。ムッツリーニはそのままの態勢を保っている。…私に箸を向けた状態を。


「…………早く。手がだるい」

「知らないよそんなの!」

「んじゃ、ワシが貰うぞい?」

「是非是非貰ってあげて!」

「……じゃが、ムッツリーニは凄く不満そうじゃぞ?」

「…………これは月乃にあげると決めている」

「だ、そうじゃ」


早く貰ってあげたらどうじゃ、と秀吉はいたずらっこのような笑みを浮かべて私を見る。
…秀吉ははなっから貰う気が全くないじゃないか。


「……」


ムッツリーニは、早く、と言わんばかりに、ずい、ずいと箸を差し出してくる。
ああもう…!食べればいいんでしょ、食べれば!

ぱくっ、と私は卵焼きを食べた。身体が火照って熱い。


「…………おいしい?」

「お、おいしいです…」


段々語尾が小さくなっていく私。
これ、なんていう羞恥プレーですか?って、秀吉はニヤニヤと良かったのう、と笑っている。
…今すぐここから逃げ出したい、と思った立花月乃でした。


ちなみに明久の悲鳴が聞こえてきたのは数秒経ってからだった。





桜色の季節に

そういえば坂本…戻ってこなかったな。





++++++++++++++++++++++++++
後書き

50000hit企画第6段。
みお様からのリクエストでFクラスでお花見でした。
お花見と言えば料理。やっぱ瑞希ちゃんにはやらかして貰いました(笑)
あと、土屋に「あーん」をしてもらいました^^←

みお様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.04.01)
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