▽ ずっとずっと一緒だよ
「うわぁ…!シュテルンビルトってやっぱ大きいなぁ…!」
私は久々に見るシュテルンビルトの街を見て思わず声が漏れた。
こんなこと言っていたら田舎者って思われるかな?バカにされるかな?
でも、私、日本でも田舎の方に住んでいるから仕方ないよね。
「それにしてもイワンは何処に居るんだろ…?」
キョロキョロと周りを見渡してみても彼らしきな人は見当たらない。
見えるのは知らない人、人、人。
しかも、なんかみんな歩くスピードが速いように思える。もっとのんびりしたらいいのに。
「月乃っ!」
そんなことを思っていると私が探して居たイワンの声が聞こえてきた。
「イワン!」
くるり、と振り返ってみると嬉しそうな彼が居て、私はそんな彼の所へ走って行き、そのまま抱き付いた。
周りに沢山の人が居るけど気にしない。
「ちょ、ちょっと。みんなが見ているよ?」
「イワンは私に会えて嬉しくないの?」
「そ、そりゃあ嬉しいに決まっているよ!」
と、イワンは嬉しさを表現するかのようにぎゅう、と抱き返してくれた。ああ、これを幸せって言うんだなあ、と思うと私は幸せ惚けしそうだ。
っと。紹介が遅れましたが、私が今抱き付いている男、イワン・カレリンは私の幼馴染でもあり婚約者でもあります。
国籍が違うのに幼馴染?とお思いの方もいるかもしれませんが、実は私、生まれがロシアでして、そこでイワンと出会ったわけです。きっかけは父親同士が仲が良くて、私たちも自然に仲良くなったという…まあ、良くある話ですね。
そして、いつしか私たちはお互いの事が好きになって、それを知った父親は勝手に"将来は結婚するんだっ!"とか言い出して。話が早いんだから。そんなこんなでイワンは私の婚約者でもあります。
ちなみにいつ結婚するのとかは全く決まっておりません。
はい、以上、説明でした。
「じゃあ、ちょっと歩こうか」
「うん」
とりあえず、ここから近い公園を目指そう、ということで私たちは歩き始めた。
こうやってのんびりと歩くのも久しぶりだなあ、なんて思いながら。
イワンがシュテルンビルトでヒーロー活動をし始めてからあんまり一緒に会う機会はなく、イワンが休みの日を狙って私はこうやって遊びに来る、というわけだ。
「あれ?折紙さんが女の子と歩いている!?」
すると、何処からかそんな声が聞こえてきた。
何だ何だ、と思って声がした方を見てみるとどうやら私たちの方を見て指をさしている女の子が居た。そして隣には彼女の知り合いと思われる2人の女性。
「あらやだ。ホントだわ」
「まさか彼女!?」
イワンの姿を発見するなり、女性陣がこちらへ走ってきた。1人、女性と分類していいのか男性と分類していいのか分からない人が居るけど。
私の隣に居るイワンを見るとじり、じり、と一歩ずつ後ろに下がっている。なんだか逃げたがっているように見えるけど。
「折紙さん水臭いじゃないですか!こんなに可愛らしい彼女さんをどうして紹介してくれなかったんですか!?」
「え、いや、別に…そういう話題にならなかったし…」
「じゃあ、今日みたいにバッタリ出会わなかったらアタシたちに言わないつもりだったの!?イヤダわこの子!」
「す、すみません…」
「すみませんで済んだら私たちヒーローは要らないわよ!」
「は、はあ…」
何だか次から次へと質問攻めにあっているイワン。両手を顔の前に出して、彼女らをこれ以上近づけさせないようにしている。
……苦手、なのかな?
「で?アタシたちに紹介してくれるんでしょうね?」
「あ、はい。勿論。彼女は僕の幼馴染の―…」
「立花月乃です。一応、イワンの婚約者でもあります」
と、にっこりと笑った。
「「「婚約者ァ!?」」」
3人は目を丸くして驚いた声を上げた。
「ちょ、ちょっと!どういうことよ!?折紙、説明しなさいよ!」
「せ、説明と言われましても…特になにも無いのですが」
「何もないのに婚約者がいるわけないじゃないの!アタシらはそこまでバカじゃないわよ!?」
「で、ですが…」
「それとも皆にバレたらマズイことなの?だったらボク、黙っておくよ!」
「あ、ええっと…」
困ってる。イワンが凄く困っている。
この光景を見て、普段、イワンがどんな感じなのかなんとなく理解できて、私は面白くなってきて思わず、ふふふ、と笑ってしまった。
「月乃も笑っていないで助けてよ!」
「え、わ、私?」
何故か私に振られてしまい、焦る。
いや、でも、私、彼女たちと知り合いでもなんでもないし…助けてと言われても、と思っていると彼女達は、ずい、ずいと近づいて来た。
「ねえねえ、折紙さんの何処が気に入ったの?」
「慣れ染めは?」
「婚約者の話って本当なのかしら?」
「あ、あの…いっぺんには無理なので順番に答えます…」
さっきのイワンと同じ状態になる私。
何だかんだ言って私はイワンと同じなんだな、と思った瞬間だった。
「えと、気に入ったところは…優しいところ、ですかね」
「へえ、折紙さんは月乃さんに優しいんだ!分かる気がするな!」
「慣れ染めは…父親同士が仲が良くて小さいころよく家に遊びに行っていたんです。それで私たちも仲が良くなって、次第に恋心が芽生えた、って感じです」
「素敵な話…!」
「婚約者の話は本当です。まあ、私たちがお互い好きっていうのを父親が知って、勝手に話を進めたんですけど」
「あらそうなの?親が勝手に進めても、折紙ちゃんのこと、好きなんでしょ?」
「あ、は、はい!大好きです!」
「あ〜もう。素直で可愛いわねこの子。食べちゃいたいわ」
舌をペロリと舐める色黒の女性(?)にイワンは慌てて私たちの間に割って入った。
「だ、駄目ですよ!月乃は僕のなんですから!」
「あらヤダ。冗談に決まっているじゃないの。折紙ちゃんも可愛いわねえ」
「〜〜〜!月乃、行くよ」
「え、でも、」
「良いから!」
と、イワンは私の手を引っ張ってスタスタと歩いて行った。
あの場に居たら今以上にいじられると思ったから、かな。
それにしても面白い人達だったなあ。…あの人たちとずっと一緒に仕事をしているイワンは大変だろうなと思うけど。
「ごめんね?折角こっちに来たのに知らない人から質問攻めにあわせちゃって」
「ううん。いいよ。むしろ、イワンが皆に好かれているってことを知って嬉しい」
「え?僕が好かれている?」
どうしてそう思うのか分からない、といったようにイワンは首を傾げた。
「だってそうでしょ?好かれていないと皆あんなに食いついてこないと思うんだ」
「そっか…うん」
イワンは少し照れたように笑いながら頭をかいた。
あ、その顔好きだな。きゅんとくる。
「折紙先輩?」
イワンの顔を見ていると、後ろからイワンを呼ぶ声が聞こえてきた。今度は男性のもののようだ。
「バーナビーさん」
振り向いてみるとそこには長身でメガネをかけた男性が居た。
この人も確かヒーローだった気がする。
「まさか貴方に彼女が居たとは驚きです」
「いえ、でも、バーナビーさんにだって―…」
「僕は居ませんよ。残念ながら。ですが、女性のファンは非常に多いです」
「あはは、そうですよね」
へえ、女性のファンが多いんだ、バーナビーさんって。まあ、分かる気がするな。
スラっと背が高くて素敵だし。
「で、先輩の彼女を僕に紹介してくれないんですか?」
「あ、すみません」
ぺこり、とイワンは頭を下げ、私が口を開いた。
「立花月乃です。いつもイワンがお世話になっています」
「月乃さんですね。僕はバーナビー・ブルックスJr.です。折紙先輩はむしろ僕の方がお世話になってもらっています」
な、なんて謙虚な方なんだろ。どう見たってイワンよりも年上なのに、敬語を遣っているし、先輩って呼んでいるし。あ、そうか。確か、彼はイワンよりも後にヒーローになったから敬語も遣うし、先輩って言っているのかな。
「今日はタイガーさんと一緒じゃないんですか?」
「流石に四六時中虎徹さんと一緒ってわけでもないですよ」
「それもそうですね」
確かタイガーさんっていうのはバーナビーさんとコンビを組んでヒーロー活動をしているってテレビで聞いたことがある気がする。
まあ、私、あんまりテレビを見ないからタイガーさんがどんなヒーローなのかよく知らないけど。
「っと、そろそろ僕行きますね」
時計に目をやるとバーナビーさんはそう言った。
「もう行くんですか?」
「ええ。知人と待ち合わせをしてるのもありますが、二人の折角のデートを邪魔しても悪いですし」
「邪魔だなんて思っていませんよ」
「まあ、でも、そろそろ行きますね。月乃さん、また会いましょう」
「あ、はい、また」
と、私はバーナビーさんに手を振って彼の背中が小さくなっていくのを見守った。
「バーナビーさんって素敵な人だね」
「え?」
「女性ファンが多いっていう理由分かるなぁ…!私もファンになっちゃおうかな?」
「えええ!?」
そ、そんなあ…!と少し涙を浮かべながら言うイワン。
「嫉妬した?」
「そりゃするよ。だって、月乃は僕の好きな人なんだから」
「ふふふ、ありがとう」
「もう」
からかったな、とイワンは言うとプイっとそっぽを向いてしまった。
可愛いなあもう。
「心配しないで。私、何があってもイワンのこと好きだから」
「月乃…」
「だから、イワンも好きで居てね?」
「も、もちろんだよ。僕も月乃のことずっと好きでいるから」
ふふふ、とお互い笑いあってそっと手を握った―…
ずっとずっと一緒だよ僕はこの手を離さない。
++++++++++++++++++++++++++
後書き
50000hit企画第3段。
のん様からのリクエストで幼馴染み婚約者設定でデートしている時に他のヒーロー達に見つかりする甘い話でした。
なんだか女性陣が盛り上がり過ぎて大変なことになりました←
でも、書いていて凄く楽しかったです!
のん様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.03.25)
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