▽ 第6話
真田東女子高の生徒会長と真田北高校の生徒会長とのガチンコバトルが終わって、軽音部による演目が始まった。
ちなみにガチンコバトルが終わった後にパイプ椅子はキレイに整頓され、私とモトハルは金髪と副会長の隣の席に移動した。
「悪い。そろそろ行くわ」
「え、何処に?」
モトハルは演奏途中に席を立ったので私は訊ねずにはいられなかった。
何か仕事でもあったっけ?と思ったが確かモトハルは暫く仕事が無かったはずだ。はっきりとは覚えてないけど。
「この次にクラスで劇をやるんだよ」
「劇…?」
ポケットの中にあったパンフレットを開いてみると、軽音部の後の演目が"2−A 冒険活劇『勇者への道』"となっていた。
モトハルはこれのことを言っているのか。てか、2-Aだったのね。生徒会なら把握しとけよって話だけど。
「こっちの生徒会メンバーは俺と唐沢が出る」
「へえ、そうなんだ」
モトハルと唐沢さんが出るのか!これはちょっと楽しみ。2人ともどんな役柄なんだろうか?タイトルが"勇者への道"って言うぐらいだから勇者とか?それとも悪役?
「あんまり期待するなよ」
「え、なんで?」
「見れば分かる…」
私が頭の中で役柄について考えているとモトハルは憂鬱な顔してそう言うと席を離れて行った。
なんだろう。そんなに問題のある劇でもするのか?それともモトハルの演じる役が気にくわないとか?
(あの、モトハル達の劇の内容って知っていますか?)
そうだ。副会長に聞いてみよう。
彼は、金髪と違って文化祭全体を把握してそうだしね。
(いや、知らないな。あまりクラスのことは話しないようにしているし。モトハルが)
(唐沢さんもですか?)
(ああ。劇のシナリオは一旦は生徒会に提出してもらうことになっているが、あいつらが頑なに拒否して俺たちに見せてくれなかったんだ。まあ、先生からは許可をいただいているから問題はないと思いたいんだけど)
(そうなんですか)
あの二人が見せたがらなかったとか余程のことだなあ。ますます劇の内容が気になる。
(お、始まるぞ)
軽音の演奏が終わり、いよいよ2-Aの劇の番が回ってきた。
幕が開き、舞台の真ん中に立っていたのは勇者のモトハルとアフロと熊。
……なんだ、この組み合わせは。
(か、唐沢さん…!?)
次にスポットライトが当てられた場所には捕われていた女の子(もちろん男子生徒)が居て、その前には唐沢さんがいた。まるで勇者が助けに来た時に妨害できるかのように。
唐沢さんは何故か帽子にネコ耳、手はネコの手、お尻にはネコの尻尾まで装着していた。
(ネコ耳…可愛い)
しかも真面目な顔でやっているところがまた可愛さを増してくれる。
実は私、会長程ではないけどネコ好きである。
唐沢さんにあとで頼んだら触らせてくれるかな?ああ、考えるだけで手がうずうずする。
そして気が付くとモトハルたちの周りに唐沢さんを含む敵らしきな人達が囲んで居た。
(これをあの3人で倒していく、ってわけか?)
モトハルは勇者だから良いとして、アフロと熊に何ができるんだ。
見ていると予想通り、モトハルは次々と剣で倒して行った。あ、唐沢さんがやられた。
(っておいおい。すっぽんぽんになったよ。これマズいんじゃないの?)
モトハルが金髪の男子に斬りかかると何故か彼の制服までも斬られてしまった。
なんだこれは。無駄なところに手が込んでいるじゃないか。てか、ここには女子も居るんだぞ?すっぽんぽんはマズかろうて。まあ…パンツはいているし、大事なところには何故か葉っぱがあるけどさ。
この劇、先生は許可を下ろしたんだよね?内容に問題大有りなんだけど。
(……)
モトハル達が全員倒すと、捕われていた女の子は嬉しそうにモトハルの所へと駆けて行った。わぁ、ありがとうございます!と言わんばかりに。
が―…
何故かその間にクマが割り込んで来て女の子を殴り飛ばした。
ちょっと待て。あれって女の子を助ける話じゃないの?殴ってんじゃないの。
この勇者たちは一体何を目指しているんだ。
皆倒しちゃっているよ。
(……)
私の隣に座っている副会長の額は汗びっしょりだった。良かった、この劇は問題があると思ったのは私だけじゃなかったんだ。
金髪はというと無表情で腕を組んで見ている。何で無表情で見ていられるんだ。
(苦労、しているんですね)
(……ああ)
副会長も大変だな、と思った瞬間だった。
* * *
「かーらさわさんっ!」
唐沢さんのクラスの劇が終わって私は早速唐沢さんの所に行った。
「どうした」
私が来ることが意外、といった顔をする唐沢さん。彼はまだネコ耳とネコの手、そして尻尾もつけたままだ。
ああ…!出来るなら許可をいただく前の今!触りたい!モフッと。ワシャっと!
でも、私はちゃんと礼儀というものをわきまえているよ。これでも。
「お願いがあるんですけど…いいでしょうか」
「何だ。改まって」
「触ってもいいですか」
あれ、おかしいぞ。
唐沢さんに変な人を見るような目で見られた。
私、変なこと言ったかな?いや、言った筈はないけれど。
「だから、触っても良いですか」
とりあえずもう一度言ってみよう。もしかしたら私の勘違いかもしれないし。
「……」
しかし、唐沢さんはさっきよりも更に変な人を見るような目で私を見た。
何で?私、ただ、唐沢さんのネコ耳とかに触りたいだけなのに!
唐沢さんは、ふう、と小さくため息を吐いて、
「疲れがたまっているのか」
と、私の身体を心配してくれた。
あれ、今の会話でどうして私の身体の話になるの?
「え、いいえ。そんなに疲れてないですよ?唐沢さんみたいに司会をやったわけでもなく、劇をやったわけでもないので元気があり余っています」
「気を遣わなくていい」
「え?いや、本当のことなんですけど…」
「今日はゆっくりと休め」
唐沢さんはそう言って私の肩にポン、とネコの手を置いた。
普段なら何気ないことだから気にはしないんだけど今は別だ。唐沢さんの手はネコの手を装着している。
「〜〜〜!!」
私は反射的にその手を掴んでしまった。脳に伝達が渡らずそのまま反射神経で。
「柿本…?」
「ネコの手…!あぁ!モフモフ…!」
「柿本」
「モフモフ!―…はっ!」
我を忘れてモフモフしていると唐沢さんに2度も名前を呼ばれて私はハッとした。
私ってばなにやっているんだ…!穴があったら入りたい…!
「ごごごごごごごめんなさい!すみません!」
私は唐沢さんのネコの手から手を離し物凄い勢いで頭を下げた。
「触りたいって…これのことだったのか」
「すみません…。私、ネコが好きなんです。だから、唐沢さんがつけているネコの手とか耳とか触りたいなぁと思ってて…」
「なるほど」
「許可を頂く前に触ってしまい、本当に申し訳ございませんでした…!」
私はもう一度深々と頭を下げた。
「気にしなくていい。俺も勘違いしていたからな」
「いえ、私が言葉足らずだったために…!」
「それは気にしてくれ」
「えええ!?」
私、言葉が足りなかったの!?
「気付いていなかったのか?」
「だって、触りたかったですし…」
「何を触りたかったのかを言ってくれれば俺も納得出来てた」
「あ、そうですよね…」
そして私はもう一度謝罪をした。
確かにそうだよね。だから唐沢さんはびっくりしてたのか。なるほど。
「では、改めて聞きます唐沢さん。…―触らせて下さい」
「……」
「あ、あれ?唐沢さん?」
唐沢さんは手で目を覆った。
(何一つ変わってない)
「唐沢さん?どうしました?」
「(……ま、いいか)なんでもない」
「……?」
なんだか良く分からなかったけど、唐沢さんは、どうぞ、と言わんばかりに私が触れるように膝を曲げてくれた。
「わぁ…!ネコ耳ってふわふわしてますね!手ももう一度触っていいですか?」
「……」
唐沢さんは無言で手を差し出してくれた。
「手触りいいですね!わぁー!いいなぁ…!」
「そんなにネコが好きなのか?」
「はい!好きです!」
「……」
はっきりと好きですなんて言ったら唐沢さんは黙りこんでしまった。どうしてだろう?
そう思ったら唐沢さんの方から
「ニャーン」
ネコの鳴き声が聞こえてきた。
え、こ、これって…唐沢さんが…!?
「そんな素敵スキルをお持ちだなんて…!」
「素敵スキル…今までそんな風に言われたことないな」
「え、そうなんですか!?それはきっと周りの方が阿呆だからですよ!」
「……」
「唐沢さん?」
興奮気味に私はそういうと唐沢さんはまた黙り込んでしまった。
あんまり関わったことのない人なのに、こんなに熱く語ったから変な奴って思われたかな?でも、周りの人が阿呆とは思うけどなあ。
「お前って面白い奴だな」
「え、そうですか?普通だと思いますけど」
唐沢さんはフッと笑った。
あ、なんかはじめて見た気がするな。唐沢さんの笑ったところ。
これって少し距離が縮まったってことなか。ふふ、何だか嬉しいな。
「おーい、皆、集まってくれー」
そんなことを思っていると副会長の声が聞こえてきた。
「集合がかかったみたいだな」
「そうですね。もっと触りたかったのに残念です」
「終わったらいくらでも触らせてやる」
「ホントですか!?ありがとうございます!」
今回の文化祭で北高の生徒会の人と関わることが出来て本当によかったな、と思える1日だった。
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