▽ 第4話
『え、帰るの?』
『うん。私、いとこの家に遊びに来ているだけだから』
『そう…』
『大丈夫、また会えるって!…次いつ来れるか分からないけど』
『じゃあ、また会う約束』
『うん、約束』
指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます。指切った。
「指切り、か…」
私は寝ぼけながらそう呟いた。
夢の中に現れた男の子と指切りをしたのは間違いなく昔の私。
以前、私はここに住んでいなくて、長期休みになるといとこの金髪(当時は金髪ではなかった)の家に遊びに行っていた。
「あの男の子…誰なんだろ」
あれ以来。
私は会うって約束したのに会いに行かなかった。いや、会いに行かなかったというと語弊があるな。
親の仕事が忙しくなってこっちに来れなくなっただけで。
まあ、私が高校に入る前にこっちに越して来たんだけどね。親の仕事関係で。
「流石に小学生の時の面影はないだろうなぁ」
何処の高校に行っているんだろ?もしかして北高?北高だったら文化祭で会えるかも。北高じゃなくても来場者の中に居るかもしれないしね。
私はそう思いながらカバンを手にして北高生徒会室へと向かって行った。
* * *
生徒会室に入ると皆もう来て段取りの確認をしていた。いや、正確に言えば私と金髪が同時に部屋に入ったんだけどね。あ、一緒に来たわけじゃないよ?念のため。
「まず、タイムスケジュールを確認する」
私たちは昨日プリントアウトした紙に視線を落とし金髪の声に耳を傾ける。
「昨日も話し合ったようにそれぞれの持ち場はそのプリントに印字されている通りだ。何か質問のある奴は?」
「無いです」
「よおし、じゃあ文化祭。盛り上げて行きましょう!」
おー、と声をあげて私たちはそれぞれの持ち場へと向かって行った。
ちなみに私はというと最初は受け付け。来場者にパンフレットとか配るあの仕事だ。
えーっと一緒にやるのはっと…
「柿本か」
唐沢さんだ。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
私がペコリと頭を下げると唐沢さんもクイっと帽子のツバを下げた。
昨日、体育館倉庫に置いていた長机を唐沢さんと一緒に出して、正門近くに設置する。椅子も2つ用意して。
来場者から見えるように"受付"と書かれた紙を貼って完成。
「パンフレットを2か所に置いて…っと。こんな感じですかね?」
「ああ」
問題無い、と言う唐沢さん。
「確認だが来場者が来たらこのパンフレットを1部渡す」
「はい。あと、"楽しんで下さいね"とか"ごゆっくりどうぞ"とか言えれば良いですね」
「そうだな」
私たちは仕事を確認してから椅子に座った。
正門側から向かって唐沢さん、その隣に私。
なんか緊張するなあ…。私、女子校だから男子と話する機会とかってあんまりないからさ。いや、当たり前だけど。
いとこの金髪はあれは違う部類だし…。
っと、そんなことを思っていると来場者が受け付けへと来た。
「受け付けって此処ですか?」
「あ、はい。こちらパンフレットになります」
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
朝早くから来る人なんて居るんだなあ。ちょっと油断していたよ。
「「……」」
1組目の来場者が来てから暫く誰も来なかった。
ど、どうしよう…。この場合って何か話をした方がいいのかな?あー…相手があの金髪だったら適当にすればいいって思うけど…。
唐沢さんってどんな話題なら食いついてくるんだろ?いや、別に食いついてこなくてもいいか。とりあえずこの静かな空気をどうにかすれば…!
「は、晴れて良かったですよね」
「そうだな」
困った時の天気の話題。
「「……」」
はは、話題尽きちゃったよ!
そりゃそうだよね!これからどうやって話を展開しろっていうんだ。
しかしどうしよう。
さっき以上に沈黙が重いぞ。なにか打開策は…
「あ、あの」
「なんだ?」
そうだ、初めて生徒会室に行った時のことを話そう。
共通の話題でもあるから話も続くだろうし。
「色々と気にかけていただきありがとうございました」
「…何のことだ?」
「初めて生徒会室に行った時…私が席立ったときとか…紅茶を噴き出したときとか……あ」
し、しまった…。
席立った話ならまだしも紅茶を噴き出した話をぶり返すなんて…!
理由聞かれたらどうしよう。
そっちの生徒会長が急に声をあげたから噴いたなんて言えない。言ったら言ったで「何で?」ってなって…仕舞には私が奴と親戚だってことがバレてしまう。
私のバカあああ!
すると唐沢さんは「ああ」と言葉を続ける。
「気にしなくて良い。困った時はお互いさまだ」
てっきり噴き出した理由とか聞いてくると思ったのに唐沢さんは一切そのことについて触れて来なかった。
唐沢さんって…良い人だなぁ!
最初、ちょっと怖い人かと思ったけど。
「どうした。俺の顔に何かついているか?」
「え、あ、いや。そんなことないです」
良い人っ!なんて思っていると私はぼんやり唐沢さんの顔を見ていたらしい。いかんいかん!
私は、すいません、と謝ると唐沢さんは不思議そうに首を傾げた。
ああ…絶対に変な子と思われた…!
ブブブッ―…
頭を抱えていると唐沢さんの方から携帯のバイブレーションの音が聞こえてきた。
「悪い。ちょっと頼む」
「あ、はい」
その場で電話をするのは見栄えが悪いので唐沢さんはポケットの中から携帯を取り出して隅の方で会話を始めた。
誰からだろう?と思いながらも私は来場者にパンフレットを手渡していく。
しばらくして唐沢さんは戻ってきたがどうやら他の所に行かないといけないみたいだ。
「代わりの奴は呼んであるから」
「はい。分かりました」
じゃ、と唐沢さんは言うと何処かへと行った。
代わりの奴って…誰が来るんだろう、と思っていると私の携帯も震え始めて、私も別の持ち場へと行かないといけなくなった。
ここを1人にしておくわけにもいかないな。しかも、誰が来るかよく分からないし。
よし、ここはこちらも友人を召還することにしよう。
私は、生徒会役員ではないけど友達の生島に頼むことにしようとし携帯で連絡を入れた。
『忍?どったの?』
「生島ー。今、暇よね?ちょっと受付に来て」
『え、なんで?』
「私を助けると思って!お願い。じゃ!」
『あ、ちょっと!』
ブツッ。
生島がまだ何か言っていた気もするけど、私は一方的に電話を切った。
仕事内容をメールで送り、私は呼ばれた場所へと向かって行った。
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