胡蝶の夢 | ナノ


▽ 第26話(最終話)

「夢落ちかよぉぉおっ!」

部屋に夕日が差し込んでくる時刻に私は昼寝から目を覚ました。
いや、なんとなく予想はしていたけどさ。
私、まだ2年生だし、会長になった覚えもないし。
寝ぼけまなこをこすりながら、意識をはっきりさせるまでぼーっとした。

「それにしてもなんかリアルだったな…」

先輩の卒業式には参加したことがあったけれど、実際に自分が卒業式に参加をしたことはなかった。当たり前だけど。
卒業式が終わって自分の教室へと向かい、先生からのお話を聞いていると「ああ、これで最後か」なんて思うと寂しく感じた。
これで高校生生活に終止符を打つんだって。
北高の生徒会のみんなと会えるのも最後かもしれないと思うと何だか寂しく思えてきて、もっと遊んでおけばとも思った。

「ボタン、か」

生徒会のみんなと話がしたくて北高に向かったけれど、一番はとしゆきに会いたくて、そして話したくて、ボタンが欲しくて行った。
何故か金髪や生徒会長が居て出て行くタイミングを逃したが。
夢だったはずなのに、まだ、胸がドキドキしていて、身体も熱い。

「…あれ、そういえば……公園の木の下、とか…なんとか言っていたような」

夢の世界から戻ってくる前にとしゆきは「公園の木の下に埋めたタイムカプセル」について言っていた。
夢の中でのとしゆきに言われるまで、何故か思い出すことはなかったけれど、確かにそう言われてみると小学生の時に金髪の家から家へと帰る前に何か埋めた気がする。
なんか…手紙のような何かを。

「…行かなきゃ」

まだ、起きたばかりで物事をハッキリと考えることは出来ないが、公園に向かわなければならないことは分かった。
行って、この目で確かめないと。
私ととしゆきが何を埋めたのかを。
あの時の思い出を。
そうと決まれば行動に移すのは早かった。
目を覚ますために顔を洗って、身だしなみを整えると、私は玄関を飛び出した。
公園に向かう途中では、全速力で走っている私を見て、好奇な目、変なものを見るような目で見る人も居たけれど、私はそんなのを一切気にすることは無かった。

「…どうして今まで思い出さなかったんだろう…!」

タイムカプセル。
としゆきと一緒に穴を掘って「今度会えたときに一緒に掘り起こそうね」って約束したのに。
夢に出て来たお陰で思い出したけれど、夢に出て来なかったら思い出すことはなかったかもしれない。

「あんなに楽しかったのに。あんなに一緒に遊んでいたのに」

その時は一緒に過ごした時間が長く感じたが、今思えば一瞬のできごと。
大人になればなるほど昔の記憶は色あせていく。キレイに思い出として残るものもあれば、忘れてしまうこともある。
…でも、としゆきとの思い出は忘れてはならない。

「あ、あれ…?」

公園に到着すると、例の木の下には真田北高校の制服を着た男子生徒が1人居た。
私は息を整えながら、一歩、また一歩とその男子生徒に近づくと、男子生徒は振り向いた。

「…来たか」

「としゆき…」

としゆきと会うのはうちの生徒会長が北高の生徒会のみんなに迷惑をかけた一件以来なはずなのに、夢の中で出てきたため、さっき振りのような感覚だった。

「覚えていたんだな」

「…ううん」

首を振って否定するととしゆきは首を傾げた。

「…実は覚えて無かったんだ」

「覚えてないなら何故此処へ?」

「…夢を見たんだ」

「夢?」

そう、夢。と、私は話を続ける。

「私たちが高校を卒業する夢。そこで私はとしゆきと…話をしたんだ」

ボタン交換をした、という話を口にするのは少し恥ずかしいので伏せておくことにした。

「そしたらね、としゆきは言ったの。私たちが出会った公園の木の下にタイムカプセルを埋めたことについて。でも、そこで目が覚めた」

「……」

「恥ずかしいけれど、私、その時思い出したの。確かに一緒にタイムカプセルを埋めたなって。埋めた当初は"一緒に掘り起こそうね"って。また会うのを楽しみにしていたのに、どうして忘れてしまったんだろうって…なんだか自分が情けなく思えた」

「そんなことはない」

普通、見た夢の内容を話されても、と思うのに、としゆきは真剣に話を聞いてくれた。
そして私が情けないって落ち込んでいると、としゆきは強く否定した。

「どれだけ大切に思っていても、人間、忘れるときは忘れてしまう。でも、忍は忘れても思い出してくれた。夢であっても。こうして公園に来てくれた。それだけで十分だ」

こうして公園に来てくれた。
…来てくれた?
ちょっとした言葉ではあるが、私は少し引っかかったので、としゆきに訊ねる。

「…もしかして、毎日公園に通っていた?」

「…いつ、忍が来るか分からなかったからな」

としゆきは、クイッと帽子のツバを降ろした。

「ごめんなs―…」

「謝るな。忍は謝るな」

頭を下げて、謝罪をしようとしたが、としゆきに止められてしまい、頭を上げた。

「俺がしたくてしていただけだ。だから、気にするな」

「でも…」

としゆきがそう言っても私の中にある申し訳ない気持ちは消えない。

「俺は、忍にそんな顔をして欲しくて来ていたわけではない」

私の頭に、ポン、と、としゆきの温かい手が乗った。

「あの時のように、隣で笑ってくれる忍が好きだ」

「――っ!」

「俺は、あの時から忍のことが好きだ。忍の気持ちを聞かせてほしい」

「わっ、私も…!」

としゆきのことが好きです。
離れていた二つの影はゆっくりと近づくと、抱きしめるかのように重なった。



タイムカプセルを掘り起こしてみると、お互いに当てた手紙が入っていた。
小学生らしい字で「キミのことが好きです」と同じことが書かれていて、私たちは笑った。



++++++++++++++++++++++++++
後書き

連載開始して約1年で完結することができました。
本来ならばもう少し早く終わるはずなんですが…(管理人の更新頻度の問題

今後は番外編(女子高校生は異常など)をうpしていきます^^
ちなみに、最終話後の後日談は、今のところ書く予定はありません。
漫画で「男子高校生と絡まれ」以降のお話はいずれ書くつもりではありますが、周りに「2人が付き合っている」という話を載せるか載せないかは未定です。
「続きが見たい!」というお声が沢山あれば、そのときにまた検討します。

今までありがとうございました。
亀更新ではありますが、これからもよろしくお願いします☆
(2013.02.03)
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