▽ 第25話
「これでよし、と」
いつもの朝。
いつもの町。
いつもの通学路。
いつもの制服。
こんなにありふれた日常は今日で終わり。
そう、何故なら…
「卒業式、か…」
私たちは卒業するからだ。
私の高校生活を思い返してみると、いや、思い返すまででもないが、生徒会一色だった。
最初は大変なことばかりでイヤになることもあったけれど、今思えばそれも良い思い出である。
「…でも、やっぱり、生徒会やってて一番良かったことは―…」
としゆきにまた会えたこと。
正直、もう会えないと思っていた。
小学校のとき、しかも、金髪の家に遊びに来ていた間に知り合った男の子とか…普通に考えたら再会出来るとは思えない。
顔だってはっきりと覚えてなかったし。
でも、不思議なことに、としゆきが帽子を取った姿を見たら視界がパァっと明るくなったかのように、鮮明に思い出した。
「お互いあの時を覚えていて、あの時みたいに呼び合って…」
最初は少し恥ずかしかったけれど、何度も呼べば慣れるものだった。
初めて呼んだ時は周りが驚いていて「罰ゲームか?」とまでも言われたけど、それも良い思い出。
「もう、みんなと離れ離れになっちゃうんだよね…」
寂しいな。
北高生徒会と知り合って1年とちょっとだけれど、もう少し彼らと一緒に仕事したり、遊んだりしたかった。
…彼らも、今日、卒業しちゃうんだよね。
「…ん…?今日卒業…?」
てことは、こっちの卒業式が終わって頑張って北高まで行けば彼らと話が出来るかもしれない。
「これは行くしかない…!」
制服を着て彼らと話が出来るのはこれが最後だ。
卒業してからも会えたら会いたいけれど、仮に会えたとしてもその時は私たちは制服を着ていない。
高校は卒業したのだから、制服を着るのはまずない。
「…最後の制服か…」
3年間、着続けてきた制服も今日で終わり。
今までありがとう、と思いながら私は着ている制服をそっと撫でた。
「…としゆきも…高校生活の最後の制服」
としゆきの制服姿も見納めだ。もちろんだけど。
「最後なら…」
としゆきのボタンが欲しいな…。
ほら、よく漫画とかでやっているじゃない?
好きな人の第二ボタンを貰うって奴。
第二ボタンを貰うって意味は確かその人の心臓(ハート)に一番近いボタンだった気がするけれど(まあ、色んな節はあるらしいが)、としゆきの場合、学ランではなくてブレザーだから当てはまらない気もする…。
私はそんなことを思いながら東高校の卒業式を終えた。
* * *
教室に戻って先生からの話が終わると私は荷物をまとめて北高へと向かった。
「間に、あえっ…!」
普通に考えたらスケジュールとかは大体同じだから、こっちが終わっていたら北高も卒業式終わっているはずだ。下手したら皆帰っているかもしれない。
それでも。
それでも、私は真田北高校に向かった。
『もう、でっかい図体して泣くなよ』
『だって…!』
『真田北高生徒会長ともあろう者がみっともないぞ』
真田北高校の正門付近でそんな会話が聞こえた。
真田北高の生徒会役員達だ。
(間に合って…良かった…!)
『お前らー!』
私は嬉しい気持ちを抑えきれずに彼らの前へと行こうとしたが、今回もまた、タイミングが悪かったようだ。
この声の主は…アイツだ。
『ワケの分からんやり取りはその辺にしておけー!』
『しょうがないわねー!』
『『『生徒会長!?りんごちゃん!?』』』
私のいとこ金髪と我が生徒会長が北高生徒会達の前へと出て行った。
(出て行くタイミング無くした…!)
…いや、なんとなく予想はしていましたけどね。
なんか、真田北高校の生徒会と絡むと必ずと言っていいほど何かが起こるからね。
…まあ、その要因は金髪と生徒会長なんだけど。
『何言ってるんだ?今の会長はお前だろ?』
『会長ぉぉぉおおー!!』
正門の反対の陰から彼らのやり取りを見守る。
…金髪が卒業してからは真田北高校の生徒会長は副会長が生徒会長になったみたいだが、元副会長は金髪に泣きついた。
ちなみに東高校の生徒会は私が会長となっている。
『卒業して次の会長に後を託す。それが生徒会長だ』
『…お言葉ですが会長。我々にとって生徒会長は会長だけですよ』
としゆきの言う通りだ。
私も、生徒会長をしていたが、何だかんだ言って私たちにとっての生徒会長は彼女だけだった。
色々と振り回されて大変だったけれど、彼女が居たお陰で楽しい生徒会生活を送ることができた。
『――…で、いつまで隠れているんだ?忍』
「…え?」
ニヤリ顔の金髪の顔がこちらを向き、隣の会長も同様の顔をしていた。
「忍…?」
私が此処に居るのを不思議に思ったのだろう。彼らの頭上には疑問符が浮かんでいた。
まあ、普通は驚くよね。他校の生徒なのに、しかも同じ日に卒業式をやった筈なのに此処に居るなんて。
私は、あはは〜、と頭をかきながらペコペコと頭を下げた。
「どうしてって…卒業式だから?」
「それはお前もだろう」
「そ、そうだよねーあははー!」
とりあえず笑って誤魔化す作戦に出たものの気まずさマックス。
お陰で冷や汗が止まらない。
なんてタイミングで私を呼んだんだよ金髪の奴。
「…よーし、お前ら!久々に生徒会室に行くぞーっ!」
「え、ちょ、会長?」
「いいからいいからー」
そしてこのザマである。
私ととしゆきに気を遣ったのか分からないが、金髪はにこにこ笑いながら皆を連れて行った。
もちろん、みんなは金髪の行動がいきなりすぎたため、戸惑っていたけど。
彼らが居なくなると嵐が去ったかのように静かになった。
「…な、なんか静かになったね」
「そうだな」
「「……」」
再びこの沈黙である。
そりゃあね。いきなり現れたかと思ったら金髪がとしゆき以外全員を連れて行ったんだもの。
それに、何で他校の私が此処まで来たのかって話だし。
「何か、俺らに用があったんじゃないか?呼んで来―…」
「あ、あの!」
明らかにおかしい状況。不自然な状況。
それでも。
私は、頑張るって決めた。
としゆきに言うって決めたんだ。
金髪が変に気を遣おうが、なかろうが。
「あ、あの…!としゆきに言いたいことがあって来ました」
「…なんだ?」
また敬語に戻ってしまっているけれど、としゆきはそのことについて言うことはなかった。
「第二ボタン、下さい…!」
まだ3月なりたての頃だと言うのに身体が熱い。
出来れば此処から全速力で逃げたいところだが、私には逃げずに、その場でしっかりととしゆきの顔を見た。
「なんで俺のを…?」
「としゆきに色々なことを教えてもらったから…!思い出させてもらったから…!励ましてもらったから…!だから…としゆきのボタンが欲しいんです…!」
きっと、としゆきから見ても私の頬が赤いのは分かるだろう。実際に自分の顔を見て居ないから予測することしかできないけど、頬に熱を帯びている気がする。
「……俺だってこうして忍と再び出会うことが出来て嬉しかった。そして昔のように話をすることが出来て嬉しかった」
再会できて嬉しかったのは私だけではなくとしゆきもだった。
それが私には嬉しくて嬉しくて胸が熱くなった。
「…そうだ。交換、というのはどうだ?」
「え…!?あ、え、あ、えと…」
まさか"交換"という話になるとは思わなかった私は、さっきよりも更に緊張で上手く喋ることができなかった。
自分でも何を言っているのか分からない。
「…イヤか?」
「イヤじゃない…!全然イヤじゃない…!むしろ嬉しい…!」
「そうか」
としゆきの口端が緩んだ。
私ってば変なことを言ったのかな…。としゆきが笑うなんて滅多にないし…は、恥ずかしい。
「あ、えっと、ハサミハサミ…」
私は恥ずかしさを紛らわせるために慌ててカバンの中から(正確には筆箱の中から)、ハサミを取り出してブレザーと第二ボタンの間にハサミを入れる。
「……そういえば覚えているか?タイムカプセル」
チョキン、とボタンの糸を切り、ボタンについている糸を丁寧に取ってると、としゆきはそう言った。
「タイムカプセル…?」
「俺達が出会ったあの公園。大きな木の下の―…」
私はとしゆきの続く言葉を待っていたが、その続きを聞く前に視界が真っ暗になった。
← /
→
bookmark