▽ 第23話
「暇ね…」
北高生徒会室内で我が生徒会長、通称"りんごちゃん"である彼女がポツリと呟いた。
いやいや、貴方は暇そうですけどね。
北高生徒会の役員達はどう見たって忙しそうでしょ。
副会長は書類にペンを走らせているし、モトハルはプリントをまとめている。そして、としゆきは資料を読んでいる。
どこをどう見たって彼らは暇ではない。
(ここは会長が変なことを言い出す前に連れて帰らないと…)
私は、というと、会長が北高の生徒会の方たちにご迷惑をかけるのではないか、と心配してこうやって一緒に生徒会室に居るわけなのだが、その役割が今果たされようとしている。
そうよ、私は、このために此処に居るのよ。
「会長、皆さん忙しそうですので私たちは―…」
「遊びに行くわよっ!」
帰りましょう。
それが言えたら良かったのに私が言う前に会長がそんなことを言い出した。
勿論、北高の生徒会の皆さんは困った顔をこちらに向けた。
そりゃ困るでしょ。忙しいのに「遊びに行こう!」なんて言っているし、それに、相手は生徒会長だ。
断ることが出来る相手ではない。
(私としたことが…!)
私は何のために此処に居るのだ。
彼女を止めるためにいるのではないのか?
なのに彼女を止めることが出来なかった…!
「さ、忍も行くわよっ!」
私たちは有無を言うことが出来ないまま外へと連れて行かれた。
本当に申し訳ない…。
「参ったなぁ…。別に暇じゃないのに…。ていうかなんであの人ウチに来るんだろう」
ため息と共に言う副会長。
「本当に申し訳ない…。私がいたらないばかりに…!」
「いえ、柿本さんのせいじゃないですよ」
「だって、私は彼女が北高の生徒会の方たちに迷惑をかけないようにと監視役としているのに…!私が居たのにもかかわらず皆さんにご迷惑をかけてしまいました…」
「え、監視役で来てたのか?てっきり柿本も遊びに来ているのかと思ってた」
「彼女と一緒にしないでよ」
「本音出てるぞ、本音」
おっと。
私は手で口を押さえた。
「っと、それよりも、会長は?」
「あれじゃないか?」
自動販売機の前で話をしていると会長が居ないことに気付いた。
もっと早くに気が付くべきだったが、自分の失態を悔いて居たばかりに気付くのが遅れてしまった。
としゆきが指した先を見ると…
「あれ、絡まれてないか?」
どう見たってあれは絡まれている。
「会長っ…!」
二通りの意味で助けないと…!
「おい、忍」
「ちょ、離してよとしゆき」
会長の元へと行こうとしたがとしゆきに腕を掴まれてしまって行くことが出来なかった。
「女が1人行ってどうする気だ」
「どうするって…助けるに決まっているじゃないの」
「相手は男3人だぞ。何かあってからだと遅い」
「…でもっ…!」
「大丈夫。俺らがどうにかする」
「としゆき…」
としゆき、モトハル、副会長の3人は私の横を通り抜けて行き、会長の元へと向かった。
(…また迷惑かけてしまった)
としゆきが私を心配してくれたことは嬉しかった。
嬉しかったけど、また迷惑をかけてしまった。
私は、皆さんに迷惑をかけないようにと思って、会長と一緒に北高の生徒会室に居たのに…。
これじゃあ…
(私、居る意味ないじゃん…)
むしろ私が居た方が2倍迷惑をかけることになるのではないか。
『何してるんですか、もう』
『単独行動はしないで下さい』
少し離れたところでモトハル達が会長に言い聞かせているのが聞こえてくる。
としゆきは絡んできた男たちを近づけないようにしていた。
…ああ、やっぱり私は。
居る意味、無いな。
『これからどうする?』
『そうだな…りんごちゃんさん、何処か行きたいところは?』
そんな会話が聞こえてきたが、私は彼らに何も言わずにそっと立ち去った。
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