▽ 第19話
暫くしてからモトハル達はスーパーから帰って来て、机の上に飲み物を置いた。
ファンタグレープとコーラだ。
「って…、柿本。お前紅茶飲んでたのか?」
「ごめん。色々と事情があってさ。コレ、唐沢さ―…いや、としゆきが淹れてくれて。美味しいんだよ!」
としゆきと約束した。
昔みたいに名前で呼び、敬語は遣わずにタメ口で話すと。危うくいつも通りに唐沢さんと呼ぶところだったわ。
モトハルは、私の呼び方に違和感を感じたのだろうか、「ん?」と言った。
「お前、唐沢のことを名前で呼んでたっけ?」
「ううん。さっき決まった」
「さっき決まった…?罰ゲームか何かか」
「どうしてそうなるのよ」
おかしくない?
何で普通に考えられないのかな。いきなり呼び名を変えたりするじゃない。
「ちなみに敬語も止めたんだよ。ねー、としゆきー?」
「…ああ」
「何?お前らそういう仲なの?」
探りを入れるかのようにモトハルが訊ねて来た。
そういう?ってどういう意味だろう。あ、もしかして昔、一緒に遊んだ仲か?っていう意味かな。
「うん、そうだよ」
「…え?」
私はそう思ったのに、モトハルは"え、マジ?いつのまに?"と驚いた顔でとしゆきと私の顔を交互に見た。
え、そんなに驚くことなのかな?まあ、実は昔、一緒に遊んだことがありました、なんて知ったら少しは驚くかもしれないけど。…でも、いつの間に?っていうのが何か引っかかるなぁ…。
「忍。ちょっと来い」
「え、としゆき?なに?どうしたの?」
良く分からないけど、としゆきは私の腕を引っ張ってそのまま生徒会室から出て行った。
ちょっと来いって…私、何処に連れて行かれるんだろ。話なら生徒会室でも良いのに、なんて思いながら私はとしゆきに付いて行くだけだった。
そして、連れて行かれたのは生徒会室の隣の隣の教室。
「まったく。どうしてお前は」
「怒ってる…?」
いつもと違う様子で恐る恐る訊ねた。
私、何か怒らすことしたっけ?余計なことは言ってないと思うんだけど…。
「怒ってはない」
「ほっ…」
「怒ってはないが、口に気をつけろ」
「どういうこと?」
私がとしゆきに訊ねると、彼は、はあ、とため息を吐いた。
「さっきの受け答えは何だ」
「さっき…?」
「モトハルの」
「ああ、"そういう仲"って奴?これって、昔、一緒に遊んでいた仲だったんだって話じゃないの?」
「全然違う」
「ええー!?」
だからモトハルは驚いていたのか!納得納得。
ん、じゃあ…?
「モトハルはどういう意味で聞いて来たの?」
「それを俺に聞くのか」
「駄目なの?」
「駄目とかそういう問題ではない」
「じゃあどういう問題なのよ」
そして本日二度目のため息頂きました!
「…言うこっちの身にもなってみろ」
「へ?」
言うこっちの身?どういうことかさっぱり分からない私は小首を傾げる。
ハッキリと言わないと私に理解されないと分かったとしゆきは少し間を取ってから口を開いた。
「…モトハルは俺らが"付き合っている仲なのか"って聞いたんだよ」
「……え」
「それを忍は"そうです"って肯定した」
「…えええええ!?」
え、そういう意味だったの!?ど、どうしよう…!?
わ、わた…私ってば早とちりでなんてことを…!
「顔真っ赤だぞ」
「だだだだって!そう聞かれたら真っ赤にもなりますよ!」
「敬語」
「あう…」
気を抜くとこれだ。
おっかしいなあ…モトハルに対してだったら直ぐに敬語は抜けたのに、としゆきに対しては抜けない。
やっぱ私の中の信頼ランクが上だから、かな…?
「まあ、良い。とりあえず、一緒に誤解を解きに行くぞ」
「……」
「…忍?どうした?」
私が無言なことに変に思ったとしゆき。
「ううん、なんでもない」
私は首を振ってとしゆきと一緒に教室から出て行った。
本当はね、としゆきに"一緒に"って言われたのが嬉しかったんだ。昔はよく"一緒に"って私が言ってたけどまさかとしゆきがそう言ってくれるなんてね。まあ、としゆきは深い意味があって言ったわけではないと思うけど。
懐かしくて、嬉しくて、心が温まった。
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